『四畳半タイムマシンブルース』は最高に楽しいSFコラボである!

文=大森望

  • 四畳半タイムマシンブルース
  • 『四畳半タイムマシンブルース』
    森見 登美彦,上田 誠
    KADOKAWA
    1,650円(税込)
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  • 歓喜の歌 博物館惑星3
  • 『歓喜の歌 博物館惑星3』
    菅 浩江,十日町たけひろ
    早川書房
    2,200円(税込)
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  • ウォーシップ・ガール (創元SF文庫)
  • 『ウォーシップ・ガール (創元SF文庫)』
    ガレス・L・パウエル,安倍 吉俊,三角 和代
    東京創元社
    1,320円(税込)
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  • メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
  • 『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)』
    シオドラ ゴス,シライシ ユウコ,鈴木 潤,原島 文世,大谷 真弓,市田 泉
    早川書房
    2,530円(税込)
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  • エレクトス・ウイルス (上) (竹書房文庫)
  • 『エレクトス・ウイルス (上) (竹書房文庫)』
    M¨uller,Xavier,ミュレール,グザヴィエ,直子, 伊藤
    竹書房
    935円(税込)
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  • エレクトス・ウイルス (下) (竹書房文庫)
  • 『エレクトス・ウイルス (下) (竹書房文庫)』
    M¨uller,Xavier,ミュレール,グザヴィエ,直子, 伊藤
    竹書房
    935円(税込)
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  • ウィトゲンシュタインの愛人
  • 『ウィトゲンシュタインの愛人』
    デイヴィッド・マークソン,木原善彦
    国書刊行会
    2,640円(税込)
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  • 猫の王 (スモール・ベア・プレス)
  • 『猫の王 (スモール・ベア・プレス)』
    岡本俊弥
    スモール・ベア・プレス
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  • 中国・SF・革命
  • 『中国・SF・革命』
    ケン・リュウ,柞刈湯葉,郝景芳,王谷晶,閻連科,佐藤究,上田岳弘,樋口恭介,イーユン・リー,ジェニー・ザン,藤井太洋,立原透耶
    河出書房新社
    2,420円(税込)
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 真夏のSFと言えば、映画化もされた上田誠の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」が真っ先に思い浮かぶ。過去改変が不可能な決定論型タイムトラベルものの傑作ですが、この夏、なんとそれが『四畳半神話大系』と奇跡のマッシュアップを遂げ、森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』(KADOKAWA)★★★★½が誕生。未来から来たタイムマシンをめぐる超くだらないドタバタ劇が、おなじみ下鴨幽水荘を舞台に、おなじみのキャスト、おなじみの森見文体で華麗に甦る。(原作の主役だった)大学SF研と森見ワールドの親和性が図らずも実証されたかたち。最高に楽しい1冊です。

 菅浩江『歓喜の歌』(早川書房)★★★★は、日本推理作家協会賞と星雲賞の二冠に輝く『永遠の森』、表題作が今年の星雲賞を受賞した『不見の月』に続く《博物館惑星》第3作。前作に続いて、国際警察機構が管轄する権限を持った自警団(VWA)所属の新米スタッフ兵藤健が主人公をつとめる。逃げ出した遺伝子操作タマムシ、完璧にそっくりな焼き物の真贋、笑顔を撮影した一枚の銀塩写真、盗まれた抽象画......一話完結的に描かれる事件に、情動学習型データベース〈ダイク〉の成長やはぐれAIの暗躍(?)がからみ、やがて「歓喜の歌」が鳴り響く最終章へと雪崩れ込む。「これほどまでに美しい大団円があったでしょうか」と帯で担当編集者が問いかける名場面をお見逃しなく。

 翻訳SFで今月一番のお薦めは、『ガンメタル・ゴースト』に続くガレス・L・パウエルの英国SF協会賞受賞作『ウォーシップ・ガール』(三角和代訳/創元SF文庫)★★★★。この邦題と安倍𠮷俊のカバー(トレンチコート姿の少女)、〝ぼくはミサイルの姿をした十四歳の少女だった。〟と大書した帯を見ると、いかにもライトノベル的な美少女AIものっぽいが、このAI(犬と人間の遺伝子からつくられ、きょうだい艦とともに12年のあいだ軍役に就いていた元・重巡洋艦)はサブキャラで、小説の中身はスコルジー《老人と宇宙》やレッキー《叛逆航路》の向こうを張る本格宇宙戦争SF(原題はEmbers of War)。もっとも、主役は現役の軍人ではなく、人類圏を二分する戦争に傷ついたはみ出し者たち。赤十字的な星間組織に加わり、紛争の狭間で人命救助に当たっている。救難信号を受けて彼らが向かった先は、惑星がオブジェのように彫刻された謎の星系だった......。彼らの非武装艦が宇宙の命運を左右する戦闘に追い込まれるまでの展開がよく考えられていて、最後まで一気に読ませる。これが3部作の第1作とのことなので、続巻にも期待したい。

 一方、シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』 (鈴木潤・原島文世・大谷真弓・市田泉訳/新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)★★★½は、ジキル博士の娘とハイド氏の娘とラパチーニの娘とフランケンシュタインの娘とモロー博士の娘がチームを組み、ホームズ(+ワトスン+レストレイド警部)の助けを借りつつ難事件に挑むスチームパンク。「怪物くん」ガールズ版みたいなもんですか。のちに作家となるキャサリン(モローの娘)が当時を振り返って書く原稿に他の娘たちがツッコミや茶々を入れまくる語りが楽しいが、5人(家政婦とメイドを入れて7人)集まってからは話が失速するのが残念。SFネタにはもともとムリがありすぎるので先行き不透明ながら、こちらも《アテナ・クラブの驚くべき冒険》3部作の第1部。続巻のほうが評判はいいみたいなので、とりあえず、次の欧州旅行編までは読んでみたい。

 グザヴィエ・ミュレール『エレクトス・ウイルス』(伊藤直子訳/竹書房文庫)★★★は、フランス発のタイムリーなパンデミックもの。生物を退化させるウイルスが流行、ついにヒトにも感染が......という無茶な話で、導入は抜群に面白いが、こちらもSF的な説得力が乏しく、後半はサスペンスもあまり盛り上がらない。

 デイヴィッド・マークソン『ウィトゲンシュタインの愛人』(木原善彦訳/国書刊行会)★★★½は、なんらかの理由で人類最後の一人になってしまったらしい女性(40代後半)の独白というか手記(主に文学と哲学と音楽と美術に関する様々なエピソードや蘊蓄が連想ゲームのように綴られる)を通じて終末の風景が浮かび上がる仕組み。意外と読みやすい。

 岡本俊弥『猫の王』(スモール・ベア・プレス税込三八〇円)★★★½は、『機械の精神分析医』『二〇三八年から来た兵士』に続く3冊目の私家版短編集(他に電子版のオンデマンド版あり)。ブラッドベリ風の端正なホラーを表題作にダーク系の9編を集める。本誌読者必読は、『絶景本棚2』にも出てくる水鏡子師匠の書庫をモデルに蒐書の(小田雅久仁『本にだって雄と雌があります』とは正反対の)恐ろしい末路を描く「匣」か。SF的には、テッド・チャン風のダークなアイデアストーリー「決定論」がイチ推し。

『中国・SF・革命』(河出書房新社)★★★½は、〈文藝〉2020年春季号掲載作に、ケン・リュウ、郝景芳の新訳と柞刈湯葉の新作を加えたテーマ・アンソロジー。新訳では、島の石窟で見つけた座像を持ち帰ったらそれが秦の始皇帝で、阿房宮再建の設計コンペに応募して......という郝景芳のすっとぼけたバカSF「阿房宮」がすばらしい。その他、孫文がアステカの盤上遊戯を通じて時を越える佐藤究「ツォンパントリ」、王谷晶の近未来餃子SF「移民の味」、言語生物学と言葉の実が生る樹(扶想の樹)が軸になる樋口恭介「盤古」など。中国SFをめぐる藤井太洋のルポ、立原透耶のエッセイも収録。

(本の雑誌 2020年10月号掲載)

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●書評担当者● 大森望

書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。

http://twitter.com/nzm

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