『半径5メートルの世界史』は雑学知識満載の目ウロコ本だ!
文=内田剛
皆さん、こんにちは。小学生時代の愛読誌は「歴史読本」と「月刊ジャイアンツ」。城好きの元書店員アルパカ内田です。無限の広がりがある「ノンフィクション」ジャンルを個人的偏愛で駆け抜けますが、どうぞお付き合いください。
まずは表紙からもタダならぬ空気が漂ってくる『キテレツ絵画の逆襲 「日本洋画」再発見』(新潮社)。日本美術の正統派ではなく、明らかな異端派。どの作品も規格外のパワーがみなぎり、見るものを虜にして離さない。図版も豊富だから眺めるだけでも楽しめる。
本書は「芸術新潮」連載をまとめたもので、大原美術館館長の三浦篤氏と現代美術の巨匠・森村泰昌氏の二人がメインとなり、異なる10個のテーマごとにスペシャルゲストを招いて討論をした一冊。異文化との対峙や、急激な近代化の流れの中で苦悩し続けたアーティストたち。導き出された「キテレツ」な表現とスリリングな試みに唸るしかない。
『半径5メートルの世界史』(産業編集センター)は萌え系のキャラクターを前面に押し出したジャケットと攻めたタイトルに目を奪われた。「半径5メートル」というサイズ感も絶妙。これは部屋に例えるとワンルームの大きさだ。著者の「歴史雑記ヒストリカ」は、登録者数13万人越えのYouTubeチャンネル。その人気の秘密は本書を読めばよく分かる。
主役はガラス、紙、織物、時計といったありふれた日常のモノたち。窓ガラスは、紀元1世紀のローマ帝国で初めて作られた。フランス革命期、1日は10時間だったなど。雑学知識が満載だ。
暗記するしかない受験、堅苦しい教科書。日本史以上に世界史は身近でないために苦手な方も多いようだが、これさえあれば目からウロコ。僕らの生活は歴史に囲まれて成り立っていることに気づくはずだ。
歴史ものの注目作をもう一点、地球の歩き方編集室編『戦国』(発行地球の歩き方/発売Gakken)を紹介しよう。かつて海外旅行ガイドの国民的バイブルであった「地球の歩き方」。時代は変わり、紙情報のニーズが廃れ、雑誌や地図ガイドの売上も激減。「地球の歩き方」も存亡の危機に陥ったが、昨今では斬新なテーマを取り込んで奇跡のV字回復を遂げている。ブランドの力に新たな企画が絶妙にマッチ。本書も発売時から同じ「歴史時代シリーズ」の『ハプスブルク帝国』と並んで書店の「話題の本」に展開されていた。
表紙カバーを裏返しても使え、読者を飽きさせない工夫が嬉しいが、導入部の「戦国時代ジェネラルインフォメーション」に注目。戦国期の言語、通貨単位、飲料水、安全とトラブルといった旅行者向けの記述がユニーク。続いて「基礎からおさらい戦国時代」、「戦国大名勢力変遷図」、城や刀、甲冑の見方のページもあって時代全体を俯瞰できる。さらに都道府県別にポイントを絞った名所解説。城跡めぐりの必需品や諸注意事項を記載した「戦国探訪」の旅の楽しみ方の特集ページや、エリア毎に編集部オススメの本やDVDを紹介した「戦国名作セレクション」も実に気が利いている。この細やかさに脱帽だ。読み終えて武者言葉になりそう。かたじけない。
2025年は戦後80年の節目。「敗戦」から「廃線」が頭に浮かんだので、『ぶらり鉄道廃線跡を歩く』(発行PHPエディターズ・グループ/発売PHP研究所)を紹介しよう。著者の今尾恵介氏はご存知、泣く子も黙る鉄道本のレジェンド。人気の秘密はマニアックな知識の豊富さに、ビギナーでも楽しめる語り口の親しみやすさにあるだろう。先達たちの「廃線本」の振り返りだけでなく、高校時代に芽生えた私の「廃線萌え」エピソードも鉄道愛がこめられていて魅力的だ。
まるで「絵に描いたような」廃線である東京都水道局小河内線、本物の線路が残る貴重な廃線「手宮線跡地」など刺激たっぷり。鉄道路線の栄枯盛衰。新旧の地形図を片手に役割を終えた線路の姿を眺めれば、無機質なレールが温かみを帯びて、いつしか雄弁に語りだす。人間の歴史に鉄道あり。その哀愁がジワリと迫る一冊である。
続いては爽やかな表紙に誘われて思わず手にした『橋旅のススメ!』(産業編集センター)だ。本書は「わたしの旅ブックス64」とあり著者・吉田友和氏もこのシリーズ3作目の著作である。おっと、発行元の産業編集センターは今月2冊目。これはよき編集者がいるのだろう。
肝心の内容であるが、北は北海道から、南は九州・沖縄まで。日本全国の約73万もの橋の中から名橋、珍橋だけを30選した一冊だ。セレクトのポイントは「見て楽しい橋」であることと、「渡って楽しい橋」であること。読み物だけでなく周辺情報も掲載されており、ガイドブックとしても十分に使える。この世に「旅」は山ほどあるが、「橋」に着目をした点が面白い。こちら側とあちら側をつなぐ装置。違った世界をまたぐ「橋」は、そこに存在するだけで「特別な」物語が感じられる。
個人的に気になったのは、佐賀県と福岡県をつなぐ「筑後川昇開橋」だ。その形状はなんと向き合ったアルパカに似ている(!)。ぜひ実際にページをめくっていただきたい。そのほか、あやとりはし(石川県)、萬代橋(新潟県)、蓬莱橋(静岡県)など推し橋が目白押し。先に挙げた『ぶらり鉄道廃線跡を歩く』と「日本三奇橋」のひとつ猿橋(山梨県)が共通しているので、読み比べてみるのも興味深い。これはもう聖地めぐりをするしかないだろう。さあ、橋をテーマに全国各地を訪ねてかなり「端」まできてしまったようだ。今回はこれにて。
(本の雑誌 2026年1月号)
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- ●書評担当者● 内田剛
ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。
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