庶民の声が活き活き伝わる中国珍神フィールドワーク
文=内田剛
地味な表紙の多い新書コーナーで飛び切り異彩を放っているのが『中国TikTok民俗学 スマホからはじまる珍神探訪』(NHK出版新書)だ。何よりも斬新なタイトルと奇妙なジャケットのインパクト抜群。"宗教大国の「素顔」に迫る、異色のルポルタージュ!"という表紙のキャッチコピーも刺激的で、思わず手が伸びる。
ページをめくれば180点以上の強烈な色彩の写真が目に飛び込み、目からウロコの連続技が炸裂。内容の充実度も最高で密度が濃く、読めば中国民間信仰の実態が分かるのだ。
著者の大谷亨氏は、廈門在住の日曜民俗学者で、日本語教師のかたわら、得体の知れない神様が跋扈する中国各地の信仰世界を、TikTokを駆使した「お手軽フィールドワーク」で調査。中国大陸のいまの空気、土地の臭い、庶民の声が活き活きと伝わりその鮮明さに鳥肌が立つ。
ここには、逆立ち張五郎、セクシー九尾狐、日本から逆輸入された大黒天などの絶大な支持を集めるカリスマ的ローカル神が登場する。その熱狂ぶりは信じがたいレベルだ。その理由はぜひ一読いただきたい。珍神探訪の基本装備がバッチリ分かる冒頭の「フィールドワークのしおり」があれば、あなたも今日から調査員の仲間入りだ。
気がつけば季節はすっかり春めいてきた。そうなればスマホを捨て(るフリをし)て外に出よう。街歩きや旅行にも大いに役立つ「建築物」をテーマにした本を2冊紹介したい。まずは後藤真吾『様式・思想・パーツでひもとく 名建築の見かた図鑑』(河出書房新社)で基本をおさらい。本書は古代ギリシアから近現代に至る世界の名建築118か所をイラストと写真で掲載した格好のテキスト。建築の鑑賞のポイントを「様式・思想・パーツ」の3つの視点と、専門用語を極力使わないキーワードで明快に解説。ただ眺めるのではなく、意味を知ることによって、名建築の「何がすごいか」が分かるのだ。無機質な立体物が、いつしか生き生きとした「アート」に感じられる。一流の講義を特等席で聴いているような気分になった。海外だけでなく「日本のフランク・ロイド・ライト建築」のページもあり、日本国内の名建築の数々にも注目だ。
続いてオールイラストの構成が見やすい『驚嘆の構造図鑑』(グラフィック社)で建築知識をさらに深めよう。「構造技術から読み解く建築4500年の歴史」を、全68項目のなんと160ページで俯瞰してしまう。古代、中世、近世、近代、現代の時代順に解説するのは斎藤公男氏をはじめとする9名の第一人者たち。最初に紹介される「古代01 世界最古の石像建造物」は「サッカラのピラミッド」で、ラストの「現代68 北海道の原風景となる切妻大屋根」は「エスコンフィールドHOKKAIDO」だ。それぞれに「すごいポイント」がコンパクトに書かれており、時代的には「現代」、地域的には「日本」に重きを置かれている。霞が関ビルディング、東京ドーム、プラダ青山店といった、気軽に足を運べる場所が豊富であるのが大きな特徴だ。法隆寺五重塔、白川郷の合掌造、通潤橋、富岡製糸場などのお馴染みの場所が解説されているのも嬉しいが、「近代28 世界で一番小さな有名建築!?」の「ロンドン動物園ペンギンプール」のようなマニアックな紹介も印象に残る。
さて「建物」の次は「植物」だ。上品な装丁に魅了される『植物園の歩き方 きれい、心地よい、愛おしい さまざまな「うつくしい」を求めて』(グラフィック社)は心が癒される至福の一冊。巻末には「この本で出会った植物図鑑」と参考文献リストに索引が付き、さらにカバー裏面には全国おすすめ植物園MAPが書かれている。隅々まで細やかに気配りされており好感度二重丸。
著者のカシワイ氏は、京都在住の漫画家、イラストレーター。地元である「祝100周年日本最古の温室 京都府立植物園」のページからは特別な愛が感じられる。このほか、高知県立牧野植物園、北海道大学植物園、仙台市野草園など全国9か所の植物園を紹介。動物好きな自分にとっては、「カピバラとサボテンになごむ 伊豆シャボテン動物公園」のページにどっぷりハマってしまった。
淡い色彩の妙と繊細な筆づかいに惚れ惚れとするが、文章もまた素晴らしい。百年の歴史を保つ植物園を散策しながら、「この木々は、どんな未来を見るのだろうか。」と想像力を膨らませる。心象風景を鮮やかに描き出した才能とセンスに唸るばかりだ。ぜひシリーズ化をお願いしたい。
そして最後は一冊まるごと文句なしに楽しめる『デッドエンドで宝探し あんたは青森のいいとこばっかり見ている』(hayaoki books)を激オシしたい。「地球の歩き方」っぽい表紙も実にユニークだが、愉快なエピソードだらけで何度も声を出して笑ってしまった。まさに痛快。読めばなんだか不思議なほど元気が湧いてくる。
数年前から夏だけ(!)青森に住んでいる能町みね子氏。その半分地元民だからこそ気づく目のつけどころがたまらない。絶妙なユルさも心地よく、この世の表と裏ばかりか、目に見えるその先の世界へと誘ってくれる。まさに日常を面白がる天才だ。
マグロにりんご、ねぶたに温泉、大雪ばかりではない青森の素顔。夏泊大島、三内霊園といった県民も知らない穴場をめぐるディープな道行きがスリルの連続。古さが気になる「野辺地町役場」、シーフード全部のせ「むつ湾ラーメン」、謎の「バス停前」バス停など。すでに姿を消した風物やスポットを懐かしむと同時に最新情報もゲットできる。さあ、この本を持って宝探しに行こう。収穫の春となること間違いなしだ。
(本の雑誌 2026年4月号)
« 前のページ | 次のページ »
- ●書評担当者● 内田剛
ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。
- 内田剛 記事一覧 »





