老いるショックから童心まで来た道行く道を満喫だ!

文=内田剛

  • 老いるショック大賞 (単行本)
  • 『老いるショック大賞 (単行本)』
    みうら じゅん
    筑摩書房
    1,540円(税込)
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  • 達人はここを見る いちばんわかる日本美術鑑賞 (ちくま新書 1918)
  • 『達人はここを見る いちばんわかる日本美術鑑賞 (ちくま新書 1918)』
    青い日記帳
    筑摩書房
    1,100円(税込)
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  • 建築を旅する 歴史と地域を楽しむ「建築ツーリズム」のすすめ (おとなのワンテーマ)
  • 『建築を旅する 歴史と地域を楽しむ「建築ツーリズム」のすすめ (おとなのワンテーマ)』
    倉方 俊輔
    イカロス出版
    2,200円(税込)
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  • ナマケモノは意外と早起き: 面白くてタメになる「体内時計」の科学
  • 『ナマケモノは意外と早起き: 面白くてタメになる「体内時計」の科学』
    遠藤 求
    築地書館
    2,200円(税込)
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  • あのころの遊園地マップ図鑑
  • 『あのころの遊園地マップ図鑑』
    369days
    三才ブックス
    2,750円(税込)
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 待ったなしの超高齢化社会。「老い」の話は「追い追い」ではなくて、誰にとっても身近なテーマである。我ら中年世代にとって、こんな風に年をとりたいと思える存在が、「アウト老」の生みの親・みうらじゅん。生粋の趣味人でとことん人生を謳歌している姿が羨ましい。

 みうらじゅん編の『老いるショック大賞』(筑摩書房)は、『通販生活』ミニマガジン「益軒さん」人気連載の単行本化作品。折しも原油高騰、物価高のニュースが世界を駆け巡っているからタイトルまでもが身に染みるが、内容は読者から募集した老化体験をまとめたものだ。めでたく「老いるショック」に認定されたエピソードには、「椿オイル」か「マグロオイル」をプレゼントというのも気が利いている。

 道端で「おい」と声をかけられても、耳が遠くなって聞こえない。障害物もないのに躓くようになった自分にとっても、同じ境遇の肉声を次々と浴びて共感の嵐。みんな同じなんだと安心できた。

 何年生きてもとても「達人」にはなれないが、その道の第一人者に学ぶことには意義がある。青い日記帳編『達人はここを見る いちばんわかる日本美術鑑賞』(ちくま新書)は、日本美術の名作の評価ポイントが手に取るように分かる一冊だ。アート作品の評価は難しい。教科書に載っているから、美術館に恭しく陳列されているから、なんとなく凄いと思わされてしまう。行列ができているラーメン屋に並んでおけばとりあえず安心という心理に近いかもしれない。

 長谷川等伯〈松林図屏風〉、葛飾北斎〈神奈川沖浪裏〉、高橋由一〈鮭〉など取りあげられている作品、そして解説する先生の解釈はいずれも刺激に満ち溢れている。個人的にはビートルズの名曲「ペニー・レイン」を絡めた狩野永徳〈上杉本洛中洛外図屏風〉、「人間3Dプリンター」と評される安藤緑山の超絶技法の象牙彫刻の項目がツボ。カジュアルな新書版にて価格も優しい。教科書を何冊読んでも、本書の約200ページには及ばないだろう。そんな密度の濃い新鮮な学びがあって嬉しい限り。コスパ、タイパの時代だからこそ、こうした手軽に知識を得られる一冊の必要性が高まっているのだろう。

 さて頭を鍛えたあとは外へ出よう。カフェに本屋、名所旧跡に絶景ポイント。旅に出るならば、行き先に目的があった方が楽しい。最近では建造物の遺産を巡る「建築フェス」のイベントが大盛況だ。『建築を旅する 歴史と地域を楽しむ「建築ツーリズム」のすすめ』(イカロス出版)の著者・倉方俊輔氏は「東京建築祭」、「イケフェス大阪」、「京都モダン建築祭」の仕掛け人のひとりだ。

 北海道「札幌市資料館」から沖縄「名護市庁舎」まで60件を収録し、北から南へと流れるように解説していく。オールカラーで見て楽しく、読んでためになるガイドブックである。ポイントはただ貴重な文化財を眺めるだけではなく、地域の経済の活性化にもつなげる試みの重要性に気づかせてくれること。人が集まり、建築に触れ、保存への理解も深まる。読みながら未来に向けた人間と建築のあり方まで見えてきた。

 全国の名建築に夢中になって時間の経つのも忘れてしまったが、続いてはタイトルの妙に思わず立ち止まってしまった一冊。『ナマケモノは意外と早起き 面白くてタメになる「体内時計」の科学』(築地書館)は、生き物たちの不思議な生態を知り、生命にとっての「時間」の本質に迫った一冊である。

 本作は反響のあった『脳と体を整える体内時計のトリセツ』の続編で、まずはこの本をより楽しむための能書きから始まる。基本ルールは「私たちの体は、一つの大きなオーケストラである」ということ。まるでゲームブックのようなイメージで楽しみながら読み進めることができる。著者の遠藤求氏は、プロフィールによると専門家でありながら「プログラミング、けん玉、マジック」が趣味とのこと。絶対にいい人に間違いない。

 とにかく知られざる生き物たちのエピソードに興味津々。ご馳走のために時計を捨てるホッキョクグマ、子どもの性別を変えるミジンコのお母さん、素数を数えて生き残るセミの話など、詳しくはぜひ本書で味わっていただきたい。

 動物たちの身体の神秘を学んだあとは時間旅行に出かけよう。ページをめくりながらワクワクが止まらず、まるで三才くらいの幼子の気持ちにさせてくれるのは、369days『あのころの遊園地マップ図鑑』(三才ブックス)だ。全国各地の遊園地のパンフレットを収録した一冊。ただそれだけなのだが、個人的に小学生の頃に数えきれないほど訪れた「東山動植物園」は涙が出るほど懐かしい。時代を感じさせるデザインを見ただけでも、忘れていた記憶が蘇ってきた。

 たとえば「浅草花やしき」や「としまえん」のように歴史のあるテーマパークは、年代の異なる2~3枚のパンフレットが掲載されており、変遷を知ることができるのも貴重だ。別の遊園地に引っ越したアトラクション情報も面白い。世代を超えて人々を楽しませている施設もまた栄枯盛衰のある生き物なのだ。昭和遺産、平成レトロのブームの風に乗って、こうしたリバイバルものも注目されているのだろう。時代は巡る。圧倒的な郷愁の中にも新鮮味が感じられて、なんだかちょっぴり若返ったような気がした。

 今回は「老いるショック」に始まって、ラストはすっかり童心に返ることができた。来た道も行く道もどちらも魅力たっぷりで大満足。その道標となるのはやっぱり読書だ。さあ、今日も本屋に行こう。

(本の雑誌 2026年8月号)

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●書評担当者● 内田剛

ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。

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