異能バトルと謎解きの『デッドマンズ・チェア』が楽しい!

文=梅原いずみ

  • デッドマンズ・チェア
  • 『デッドマンズ・チェア』
    阿津川 辰海
    KADOKAWA
    1,980円(税込)
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  • 猫鳴く森で謎解きを
  • 『猫鳴く森で謎解きを』
    楠谷 佑
    ポプラ社
    1,980円(税込)
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  • 流星と桜
  • 『流星と桜』
    青谷 真未
    東京創元社
    2,310円(税込)
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  • この子のために死んでくれ。
  • 『この子のために死んでくれ。』
    魚崎 依知子
    KADOKAWA
    1,650円(税込)
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 異能×頭脳バトル×警察小説の『バーニング・ダンサー』に続く、シリーズ第二弾である。阿津川辰海『デッドマンズ・チェア』(KADOKAWA)。警視庁公安部第五課、通称「コトダマ犯罪調査課」はメンバー全員が"コトダマ遣い"という能力者で組織された専門部署である。ある日、チームのひとりで"伝える"のコトダマ遣い小鳥遊沙雪が、"弾く"と"蘇らせる"の能力を持つ中国人の少年と少女に連れ去られる。二人は中国マフィアのボスである少女の父親のもとから駆け落ちしてきたのだという。人質になった沙雪は、中国から送り込まれた能力者狩り集団から二人とともに逃走することに。その頃、他のメンバーは"射る"のコトダマ遣いが犯人と思しき事件の捜査に当たっていた。
 語り手が次々入れ替わりながら複数の事件が同時に進む今作は、個性的なメンバーによる警察捜査小説ものとしての魅力がよりパワーアップ。コトダマ遣い同士のバトルでは相手の能力と発動条件を見破ることが鍵を握るのだが、胡散臭いを体現したような中国マフィアの敵キャラと"入れ替える"のコトダマを有する永嶺刑事との心理戦、"射る"の事件を追う桐山捜査員の推理など、異能バトルの要素を本格謎解きに絡める趣向も一段と捻られている。特にタイトルの伏線回収は、他に例が浮かばないほど鮮やかだ。
 ところで常々、異能力ものにおいて最強って〈アレ〉なのでは?と思っている能力があった。名称は伏せるが、まさにその(個人的)最強能力が今作に登場する。しかも、「コトダマ犯罪調査課」にとっては考えうる限り一番厄介なかたちで! 無敵に思えるその能力に、永嶺たちはいかに対処するのか。早くも三作目が待ち遠しい。
 楠谷佑『猫鳴く森で謎解きを』(ポプラ社)も、『ルームメイトと謎解きを』に続く二作目。全寮制の男子校に通う高校二年生の兎川雛太と鷹宮絵愛が活躍する長編の本格(猫)ミステリである。
 夏休み、同級生に誘われたヒナとエチカは、保護猫団体が運営する"猫に会えるキャンプ場"で行われる一泊二日のボランティアに参加する。しかし、キャンプ場に集った他校生を含む十人の高校生の間には、どことなく居心地の悪い雰囲気が漂い、二日目には殺人事件が発生。死体の第一発見者になったヒナは、容疑者として見られてしまう。そこで本領を発揮するのがエチカだ。動物以外にはクールなエチカが、過去に自分を信じてくれた"親友"のために推理する展開は青春ものとしてグッとくる。しかも、その謎解きは徹底してロジカル。アリバイや証拠、証言から犯行の可能性をひとつずつ確実に潰し、容疑者が絞られていく。緻密なロジックを活かしたフーダニットは、残酷なまでに見事だ。明かされる真相はほろ苦い青春というにはビターがすぎるけれど、"一心同体"の関係性が一貫して描かれているからこそ、光を感じられる結末が素敵だ。
 映画「国宝」で歌舞伎に興味を持った人におすすめしたいのが、全四話から成る連作中編集の青谷真未『流星と桜』(東京創元社)。諸事情で実家から勘当されているものの、歌舞伎役者の娘で現在は私立探偵の加賀美清香が、「野崎村」「かさね」「松竹梅湯島掛額」などの演目になぞらえて、事件に隠された想いや人間模様を浮かび上がらせる趣向が用いられている。
 語り手は、孤独な高校時代に清香に出会い、救われた遠野桜子。親に薦められるまま見合い結婚をしようとしていた桜子は高校卒業以来、八年ぶりに清香に再会、彼女が所長の探偵事務所で助手として働くことになる。歌舞伎座からの帰り道のみ何者かに跡をつけられるという女性、単身赴任中に突然、娘に会わせてもらえなくなった夫など、桜子はいくつかの依頼を通し、複雑でままならない人間の感情の機微に触れていく。中でも第二話、清香が言う「何かを好きだと思う気持ちは、軽んじない方がいい」は重要だ。自他問わず、何かを大切に思う気持ちは決して蔑ろにしてはならない。連作としての効果もばっちりで、他者との関係の結び方を知った桜子が、第三話では自身の家族と、第四話では清香との過去とこれからに向き合っていく。柔らかくあたたかみのある筆致が、物語への没入感を高めてくれる。
 愛憎関係を描く傑作ホラーの『夫恋殺 つまごいごろし』以降、魚崎依知子が生み出す"クズ男"が癖に刺さって大変困っている。『この子のために死んでくれ。』(KADOKAWA)の主人公・高瀬皐介もそのひとり。とにかく優しくて、甘やかしてくれる、でも深入りは許さない。こいつとは絶対に幸せになれないとわかっているのに、惹かれてしまう。いわゆる"沼る"男である。皐介本人も己の性質を理解しているので余計タチが悪いが、ゆえに彼は非常に優秀な不動産営業マンでもある。
 そんな皐介の前にある日、実の娘だという幼女が現れる。喋ることのできない幼女を皐介は引き取るが、直後から周囲で親しい人たちの不審死が頻発。どうやら幼女には、金色の瞳に二枚舌、死の予言をする"猿神"が憑いているらしい。皐介の調査によって、幼女を取り巻く秘密は次第に明らかになっていく。同時に、皐介自身のことも。この男、手段の選ばなさが突き抜けていて、必要に応じて警察ともヤクザとも取引するし、同僚も会社も利用する。場合によっては、銃火器の使用も辞さない。すべては愛する娘が"人"として生きられるように。頭がキレて、愛情深い人間の本気の恐ろしいこと......。なお、趣向もテーマも異なるが、本作が気になった方は京極夏彦『猿』もどうぞ。

(本の雑誌 2026年6月号)

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●書評担当者● 梅原いずみ

ライター、ミステリ書評家。
リアルサウンドブック「道玄坂上ミステリ監視塔」、『ミステリマガジン』国内ブックレビューを担当。1997年生。

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