北山猛邦『「石球城」殺人事件』の謎解きの美しさを見よ!
文=梅原いずみ
六月、いや、今年度の本格ミステリの大本命が刊行された。北山猛邦『「石球城」殺人事件』(講談社)。昨年、短編集『神の光』でミステリ界を席巻した北山には、〈少年検閲官〉をはじめ続編を待望されているシリーズがいくつかある。そのひとつが、終末世界を舞台にした本格ミステリの〈城〉シリーズだ。デビュー作『「クロック城」殺人事件』に始まり、『瑠璃城』『アリス・ミラー城』『ギロチン城』ときて、二一年ぶりの新作『石球城』である。五作目とはいえ〈城〉シリーズはすべて独立した長編作。どこから読んでも楽しめるので、シリーズ未読の方も安心して手に取ってほしい。
本作の語り手は、「最果ての海」を求めて旅する少年ルーサ。道中で意識を失った彼が目を覚ましたのは、巨大な城壁に囲まれた城塞都市・石球城だった。ルーサを助けたロメリア曰く、石球城では永遠に夜が明けることはない。代わりに、十三人の巫女たちが守る十三の灯台が街を照らしていた。しかし、その灯台のひとつで不可解な密室殺人が発生。殺人の容疑をかけられたルーサはロメリアとともに、連続する密室殺人と「石球城」の謎に迫る。
『神の光』の表題作で町ひとつを消失させるという大技に挑んだ北山は、今作では「石球城」という世界そのものをクローズドサークル化させた。ゆえに終盤、次々と解明される物理トリックは、「石球城」の秘密と結びつき、この物語世界でしか成立しえない真相を導き出す。そうか、謎解きとはこんなにも美しいものなのか──結末の余韻含め、大傑作である。
ちなみにシリーズものでいうと、ゲーム『ダンガンロンパ』シリーズのスピンオフ小説で、北山が手掛けた『ダンガンロンパ霧切』(全七巻)も素晴らしいミステリ。来年発売予定の新作ゲーム『スーパーダンガンロンパ2×2』に北山はトリック原案として参加予定とのことなので、その前にぜひどうぞ!
今月は、少々趣向の変わった警察小説が二作刊行された。
天祢涼『県警の番人』(河出書房新社)は、Q県警内部で〈県警の番人〉と恐れられる監察官・鏡真人をめぐる連作短編集。警察小説の醍醐味のひとつは、警察という特殊な組織の「論理」と警察官個人の「倫理」のせめぎ合いにある。が、鏡からはそうした"人間らしさ"は一切感じられない。彼の判断基準はただ一つ。「Q県警のためにはなにが最良か」だけである。そんな鏡について、定年前の巡査部長、所轄の生活安全課捜査員、刑事課の女性警部補、県警本部監察官警視、鏡の直属部下がそれぞれの事件を通して語る。全五話いずれも短編として完成度が高く、特に鏡と同じ監察官が語り手の第四話は、人間のままならなさがいっそ鮮やかなまでに描かれる。だが、やはり白眉は連作集として読んだ時の第五話だ。各話、舞台裏で暗躍している鏡の姿は浮かぶのに、彼自身の輪郭はなかなか見えない。鏡真人とは何者なのか? 一冊を通して積み重ねられてきた問いの答えを、最終話で立体的に立ち上がらせる手法が見事である。
もう一冊は新人のデビュー作。『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリ受賞作である宮島明道『刑事の境界線』(宝島社文庫)だ。複数の事件を並行して描くモジュラー型の警察捜査小説で、盗犯係の若手刑事・馬場みどりと、組織犯罪対策係のベテラン刑事・為井忠之が交互に視点人物となる。この二人、見事なまでに正反対で、馬場が警察組織内の性差別にも屈せず信念を貫こうとする中、悪徳刑事の為井は言い訳しながら──〈県警の番人〉鏡と違い自分のために、そのくせ刑事の矜持を捨てることもできないまま──悪事に手を染める。そんな為井が妙に魅力的に見えるのは、著者の筆の巧いところである。二人が追う事件はなかなか重ならないが、一度交錯し始めたらもうノンストップ。勢いよく加速する物語に、引き込まれること間違いナシである。過去にDJ大会で二度チャンピオンになったという経歴含め、今後大注目の書き手の登場である。
梨『霊媒クラブ』(イースト・プレス)は、ホラー分野で大活躍中の著者による学園ものの連作短編集だ。舞台は遠渓中学校。この学校の生徒会は通常の業務以外に、学内で発生した『怪異が人為的に再現可能であると示す』という仕事を担っていた。遠渓中の『怪異』は、実は生徒がある理由から人工的に捏造したものが多く、「霊媒クラブ」と称される生徒会は、それらが人為的に再現可能か検証する組織なのである。
ネット上の都市伝説、異界に通じる穴、旧校舎のヒトダマ......生徒から寄せられる怪異の相談を、生徒会の個性的なメンバーが"解決"していく。生徒会の目的はあくまで学内の治安維持で『怪異の正体を突き止める』ことではない。生徒会が学校=体制側である点がミソで、怪異を作り出す生徒VS怪異を"解決"する生徒会の間に、一風変わった緊張関係を生んでいる。なお、電子書籍には限定の書き下ろし短編が収録されており、次作への布石と今作の表紙の裏話が語られるので、抵抗のない方は電子がオススメ。
最後は白井智之『本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件』(実業之日本社)。話題になった背筋『口に関するアンケート』同様、豆本サイズである。が、著者はあの白井智之。このサイズ、一〇〇頁に満たない短さでしっかり本格ミステリをやってのけるのだから、横転ものである。手がかりは、殺人計画を立てる男たち、宇宙人を監視する小学生、本好き刑事の三者、それからあなたの手の中に。こちらは電子ではなく、実物を手に取ることを強く推奨!
(本の雑誌 2026年9月号)
- ●書評担当者● 梅原いずみ
ライター、ミステリ書評家。
リアルサウンドブック「道玄坂上ミステリ監視塔」、『ミステリマガジン』国内ブックレビューを担当。1997年生。- 梅原いずみ 記事一覧 »





