SCP財団発の本格SFホラー『反ミーム部門は存在しない』が楽しい!

文=大森望

  • 反ミーム部門は存在しない (ハヤカワ文庫SF)
  • 『反ミーム部門は存在しない (ハヤカワ文庫SF)』
    qntm,鳴庭 真人
    早川書房
    1,760円(税込)
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  • ドラゴン・メトロ―地龍鉄道―
  • 『ドラゴン・メトロ―地龍鉄道―』
    馬伯庸
    早川書房
    2,750円(税込)
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  • 燃える夜空に星ちりばめて
  • 『燃える夜空に星ちりばめて』
    実石沙枝子
    双葉社
    1,980円(税込)
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  • マーズ・エンジン
  • 『マーズ・エンジン』
    熊谷 達也
    光文社
    2,420円(税込)
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  • ゾンビ回収婦
  • 『ゾンビ回収婦』
    小砂川 チト
    講談社
    1,980円(税込)
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  • 夏迷宮
  • 『夏迷宮』
    古川 日出男
    講談社
    2,750円(税込)
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  • レムかく語りき (スタニスワフ・レム・コレクション 13)
  • 『レムかく語りき (スタニスワフ・レム・コレクション 13)』
    スタニスワフ・レム,スタニスワフ・ベレシ,沼野充義,後藤正子,菅原祥,木原槙子
    国書刊行会
    5,280円(税込)
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 SCP財団とは、人類文明を脅かす怪異を秘密裏に確保・収容・保護してきた架空の組織。その存在を前提にしたシェアードワールド創作群を俗にSCPと呼ぶ。2ちゃんねるSF板にスレがあり(元々は英語圏の匿名掲示板4chan発祥らしい)チラチラ見ていたものの、そこからこんな傑作が生まれるとは。

 qntm『反ミーム部門は存在しない』(鳴庭真人訳/ハヤカワ文庫SF)★★★★½は、SCPを知らない人にもぜひ読んでほしい本格SFホラーの名作だ。もともと財団サイトに断続的に投稿された一連のエピソード群をまとめた連作だが、そこからSCP用語を抜いて大幅に改稿・増補・再編集したのが本書(SCP版の邦訳は財団の「反ミーム部門ハブ」から読める。自主制作の実写ドラマ版もある)。

 反ミーム部門が扱うのは、人間の記憶や記録を自在に書き換え、認識されることを拒む超自然的存在。イメージ的にはストロス『残虐行為記録保管所』を現実崩壊SFっぽくした感じ? 前半はスパイスリラー風だが、後半はぐっと言語SF度が高くなる。「U−3125は浸食性概念からなる五次元の変異集合体で、わたしたちの物理的現実に浸透している」とか、「వがそこに立っている」とか。否現実増幅器、クリプトモルファ・ギガンテス標本などなどの造語も楽しい。

『両京十五日』で知られる馬伯庸の『ドラゴン・メトロ─地龍鉄道─』(大恵和実訳/早川書房)★★★★½は、異形の長安を舞台にした痛快ジュブナイル改変歴史冒険ファンタジー。数百頭の竜を鎖につないでトンネル網に閉じ込め、地下鉄としてこき使うという奇想天外な設定のもと、邪気が実体化した怪獣・孽龍から長安を守る死闘へとなだれ込む。主人公は大将軍・李靖の幼い息子・哪吒──と言えば往年の名作アニメ『ナーザの大暴れ』(または最近の『ナタ 魔童の大暴れ』)を思い出すところだが、どちらも元ネタは『封神演義』。少年と竜の友情が世界を救うという(日本で言えば)怪獣映画的な図式を見事に換骨奪胎し、わずか200ページ強の中に、お転婆な公主、凄腕エースパイロット、気位の高い道士など定番の多彩な脇役と、玉佩や玉璽、法器、霊宝などの定番アイテムをこれでもかと放り込み、奴隷的労働からの解放という社会性まで入れた全部盛り。山場は巨大ロボも登場し、大笑いしながら楽しく読める。

 実石沙枝子『燃える夜空に星ちりばめて』(双葉社)★★★★は、自由な言論を奪う『一九八四年』的な管理社会の打倒を高らかに謳うホープパンク。二度の世界大戦を生き延びた少数の人類は、七つの復興優先地域で細々と暮らしている。物語の舞台はそのひとつ、日本海に浮かぶ人工島にある六番ユニオン。主人公は、かつて〈死の天使〉と恐れられた元サイボーグ少女兵士スピカ。義翼と電子義眼を持つ彼女は、民間軍事会社の豪放磊落な頭領、マダム・ペッパーに拾われて、空飛ぶ郵便配達員として働いている。そのスピカが仕事を通じて反体制組織と関わったことから、精神的に成長し、やがて大きな変革のうねりに身を投じる。シンプルで力強く、未来への希望に満ちたジュブナイルSF長編だ。

 熊谷達也『マーズ・エンジン』(光文社)★★★½はド直球の本格SF長編。舞台は10万人の入植者が暮らす22世紀末の火星。帯には『頻発する大地震、相次ぐ火山噴火──いったい火星に何が起こっているのか?』とあるが、まあ、題名がマーズ・エンジンですからね。中盤ではホーガンばりの大ネタも炸裂し、クライマックスは火星版「アルマゲドン」的な展開に。途中に挿入される過去パートでは地球時代(というか没落ジャパンで暮らしていた時代)の主人公たちの青春も描かれる。一気に読める冒険SFだが、新味には乏しい。まあ、四六判のこんな火星SFが加藤直之イラスト・岩郷重力デザインのカバーで光文社から出ること自体が新鮮なんですが。

 第175回芥川賞を受賞した小砂川チト『ゾンビ回収婦』(講談社)★★★½は、人間の仕事がAIに奪われた世の中で、主人公がVRゲームのNPCになりかわり、プレーヤーに撃たれたゾンビの死体回収に励むところから始まる労働小説。この題材をこう書くか!という驚きに満ちた文体が魅力。

 4月に出た古川日出男『夏迷宮』(講談社)★★★½は、「きのう第三次世界大戦が始まった」という一文で始まる改変歴史SFというか魔改造歴史幻想小説。ユーラシア大陸の干上がった湖の底を歩く兵士エフこと佐藤衛布は千六百比丘尼と遭遇して人魚の肉の串焼きを提供され、もうひとりの主役イハこと加沙間衣葉は、平安京をイメージした巨大テーマパーク「郡山ピースランド」でキャストとして働く。呼び物のアトラクションは夏迷宮。人気キャラは栗の精霊で征夷大将軍の「たむらマロン」。猪苗代湖では伝説の湖獣イナワシロンが目覚め、妄りに変えられた世界はセカイ化する。ディテールは実に魅力的だが、縦軸が見えにくいせいか、ややとっちらかった印象は否めない。

 最後に、《スタニスワフ・レム・コレクション》『レムかく語りき』(スタニスワフ・レム/スタニスワフ・ベレシ著/沼野充義監訳/後藤正子・菅原祥・木原槙子訳/国書刊行会)は、二度にわたる連続インタビュー(81年~82年と01年)をまとめた大著。SFに触れた部分は微量だが、例によってジャンルSFをクソミソに罵倒するレム節が楽しい。もっと読みたい人は、『SFと未来学』のドイツ語版からの邦訳(山形浩生+Grok訳)がウェブ上にあります。

(本の雑誌 2026年9月号)

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●書評担当者● 大森望

書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。

http://twitter.com/nzm

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