新鋭・真門浩平の短編集『終着駅で待ち合わせ』に脱帽!

文=梅原いずみ

  • 終着駅で待ち合わせ (ミステリ・フロンティア)
  • 『終着駅で待ち合わせ (ミステリ・フロンティア)』
    真門 浩平
    東京創元社
    1,870円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 夜の喜劇: 東川篤哉短編集
  • 『夜の喜劇: 東川篤哉短編集』
    東川 篤哉
    東京創元社
    1,980円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 犯人は現場に首だけ戻る
  • 『犯人は現場に首だけ戻る』
    倉知 淳
    実業之日本社
    2,200円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 神の代役 HBD調査鑑別室 (一般書)
  • 『神の代役 HBD調査鑑別室 (一般書)』
    乾 ルカ
    ポプラ社
    1,980円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 永遠の記憶
  • 『永遠の記憶』
    東野 圭吾
    文藝春秋
    2,310円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

 今年の夏は短編集、連作集が傑作揃いである。

 荒木あかね『おむこさんは殺人鬼』や阿津川辰海『少女は殺人の夢を見る』など、新世代の書き手の力作が刊行された中で、ここでは真門浩平『終着駅で待ち合わせ』(東京創元社)を取り上げたい。著者は、第一短編集『ぼくらは回収しない』所収の「ルナティック・レトリーバー」で第一九回ミステリーズ!新人賞を、連作集『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』で、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」第三期入選を果たした注目の新鋭。三作目となる本書は、設定や真相など、さまざまな"意外性"を楽しめる五つの短編が収録されている。

 いずれも秀作なのだが、過食に悩む女性が明晰夢の操作を覚え、夢の中で食欲を満たす「夢落ち」の衝撃ときたら! 論理とは相反する「夢」という要素から、閉ざされた山荘というゴリゴリの本格ものを練り上げる著者の手腕に脱帽である。優秀な兄の死を機に、家族が陰謀論に染まる「非運の死」も必読。陰謀論に傾倒する心理と、論理的に真相を追求するミステリを組み合わせることで、理不尽な出来事に意味を求めてしまう人間の姿が浮かび上がる。収録作は基本的に独立しているものの、どの物語も根底には「人の優しさに対する信頼」がある。不信感や絶望を抱く出来事が相次ぐ世の中だからこそ、人間への信頼を取り戻させてくれる本書のような作品は心強い。

 ベテランの作品では、東川篤哉『夜の喜劇 東川篤哉短編集』(東京創元社)を推す。〈謎解きはディナーのあとで〉〈烏賊川市〉など、シリーズものの印象の強い著者による、初のノンシリーズ短編集である。収録作五作すべて「夜」が舞台で、冒頭の「鳥越さんは立派な被害者」は、うっかり婚約者を殺してしまった青年が必死に弁明する倒叙ものだ。クズ野郎と言って差し支え無いのに、必死に言い訳する青年を謎に応援したくなる。占い師の予言をめぐるドタバタ劇「どうか僕を占ってください」、天才奇術師の死に探偵と助手が巻き込まれる「陽奇館(仮)の密室」。いずれも展開はユーモラスでオチも洒脱ながら、推理の切れ味は抜群。犯人含め、登場するキャラクター全員を憎めない点も流石である。

 連作集では、こちらもベテランの倉知淳『犯人は現場に首だけ戻る』(実業之日本社)が良かった。強盗殺人が起きた家の門柱に置かれた犯人と思しき人物の生首、車に跳ねられたうえに右腕を切られた死体、切断された足がズボンにご丁寧に戻されていた死体、プレハブ小屋で発見されたバラバラ死体......四つの「切断された死体」をめぐるホワイダニットに、フリーライターの折本と久世のコンビが挑む。

 作中では、警察が民間人に一日だけ捜査体験をさせる「非正規雇用捜査官制度」が導入されており、二人は"派遣さん"として関係者から話を聞いていく。登場人物が限られているとはいえ、なぜ切断したのか?から可能性を潰し、論理的に犯人を絞っていく過程は鮮やか。特に、非正規雇用捜査官という設定がある趣向に繋がる最終話「幽明境を(首も手足も)異にする」は、本格ミステリとして大変捻られている。

 ユニークな設定の連作ミステリでは、乾ルカ『神の代役 HBD調査鑑別室』(ポプラ社)も挙げておきたい。"HBD"という、過度な悲痛が心肺停止を引き起こす現象が存在する世界が舞台で、北海道の「HBD調査鑑別室」に配属された新人・一ノ瀬美羽が主人公だ。鑑別室の主な仕事は、死の要因となった絶望を特定し、そこに第三者の思惑がなかったかを調査すること。他者には些細な出来事に思えても、当人には心臓が止まるほどの悲痛になりえる。それを意図的に起こすのは、殺人と変わらない。「悲しみ」という死の原因を探る鑑別室のメンバーが、それぞれの方法で人の心に寄り添おうと尽力する姿が印象に残る。

 最後に、東野圭吾『永遠の記憶』(文藝春秋)。七月二三日に六八歳で亡くなった著者の遺作である。日本ミステリ界の巨匠の早すぎる訃報が与えた衝撃は計り知れない。どれほど多くの人が、東野さんの作品で読書の面白さを知っただろう。もう二度と東野さんの新刊が読めないと思うと、あまりに寂しい。

 天才物理学者・湯川学の活躍を描く〈ガリレオ〉シリーズは、著者を代表する人気シリーズのひとつ。シリーズのほとんどが映像化されており、三作目『容疑者xの献身』は直木賞を受賞した。その人気シリーズの最新作にして一一作目となる『永遠の記憶』は、主要人物のひとりである内海刑事がスーパーマーケットで刺される場面から始まる。彼女と犯人に繋がりはなく、動機も不明。犯人は分かっているのに、どこか違和感が残る。この不可解な事件に、湯川と、彼の友人で相棒の刑事・草薙が挑む。

 本書は二部構成になっていて、第一部で内海が襲われた事件のおおよそは見える。が、全貌が明らかになるのは第二部だ。湯川と草薙は、襲撃犯のある持ち物に疑問を覚えていた。その疑問は第一部の謎とともに、二人に大きな影響を与えた"あの出来事"へと繋がっていく。そうか、東野さんが書きたかったことはこれなのか。だから本書は、「ガリレオ、最後の謎」と最初から銘打たれていたのか。湯川と草薙が辿り着いた真相に、東野さんが込めた強い思いを感じずにはいられない。もちろん、それをどう受け取るかは読者次第であることも織り込み済みだったろう。東野さん、本当にありがとうございました。心からご冥福をお祈りいたします。

(本の雑誌 2026年10月号)

« 前のページ | 次のページ »

●書評担当者● 梅原いずみ

ライター、ミステリ書評家。
リアルサウンドブック「道玄坂上ミステリ監視塔」、『ミステリマガジン』国内ブックレビューを担当。1997年生。

梅原いずみ 記事一覧 »