理山貞二のデビュー作品集『すべての夢、果てる地で』がついに出た!

文=大森望

  • すべての夢、果てる地で (創元日本SF叢書)
  • 『すべての夢、果てる地で (創元日本SF叢書)』
    理山 貞二
    東京創元社
    2,200円(税込)
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  • 宝石のこえ
  • 『宝石のこえ』
    野沢 きみ
    講談社
    2,310円(税込)
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  • 此方より 小林泰三未収録短編集 (角川ホラー文庫)
  • 『此方より 小林泰三未収録短編集 (角川ホラー文庫)』
    小林 泰三
    KADOKAWA
    1,496円(税込)
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  • 鳥かごに集めた想い
  • 『鳥かごに集めた想い』
    サマンサ・ソット・ヤンバオ,金井 真弓
    早川書房
    4,180円(税込)
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  • 機龍警察 漆黒社会 (ハヤカワ・ミステリワールド)
  • 『機龍警察 漆黒社会 (ハヤカワ・ミステリワールド)』
    月村 了衛
    早川書房
    2,420円(税込)
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  • 積読の流儀
  • 『積読の流儀』
    中野善夫
    国書刊行会
    3,520円(税込)
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「〈すべての夢│果てる地で〉」が創元SF短編賞を受賞してから14年。同作など6編を収める理山貞二のデビュー作品集『すべての夢、果てる地で』(創元日本SF叢書)★★★★½がついに出た。受賞作は、イーガン「ルミナス」ばりの活劇で始まる量子論SF。謎めいた題名はディラックが考案したブラ−ケット記法が下敷き。人類文明すべてを記録するケット宇宙の巨大人工知性〈館長〉は、それと直交するブラ宇宙に、フェルミ粒子のみから成る自律機械フォッグメンを送り込む。その名が〈問いのアーサー〉や〈解のアイザック〉だったり、SFの非在が世界に決定的な影響を与えたり、福島正実編『時間と空間の冒険』初刊本が重要な役割を果たしたり、濃過ぎるSFネタがいくらか気恥ずかしいが、「想像とは、ヒルベルト空間上の別の場所(他の並行世界)を観測する行為である」という大技から出発して、山田正紀『エイダ』を百枚に圧縮したようなめくるめく想像力が堪能できる。

 その他、巻頭の「折り紙衛星の伝説」は金星の雲層に紙飛行機(的なグライダー)を飛ばすハードSF。「四元数の悪魔」は三つの虚数軸を持つ四元数世界から召喚された巨大怪獣が関西に上陸する超絶バカSF。5分未来を予見できるクルー同士が知力を尽くして宇宙船内で戦うハードSF活劇「ディセロス」、エントロピーに逆らう"時間慣性"を帯びた"時空璧合誘発体"が宇宙の知性を引きつけるという大ネタを宇宙怪盗活劇にぶちこんだ「キャプテン・セニョール・ビッグマウス」と、書き下ろしの「黒い星の伝説」の3編は、設定と一部登場人物が共通し、ゆるやかにつながる。巻末には堀晃の熱い解説つき。

 デビュー作つながりで、野沢きみ『宝石のこえ』(講談社)★★★★は、第20回小説現代長編新人賞受賞作。語り手は、宇宙人の地球来訪後、宇宙人奨学金制度の審査に合格して上京し、今は大学に通いつつ"宇宙人の店"で働く女性。防音の個室で宇宙人と差し向かいで声を聞かせ、相手が宝石を出現させたらセッションが終了する。SF的な背景には深入りせず、私という人間がどのように形作られてきたかが少しずつ語られるうち、「ここは私の居場所ではない」という痛切な思いが浮上してくる。鈴木いづみやティプトリーのいくつかの短編に近い、純文学寄りの作風だ。ひとりぼっちの異星人として地球に暮らす女性を描いたマリー=ヘレン・ベルティーノ『プラネット・ダイアリー』(橋本輝幸氏が8月号で紹介済み)とも読み比べたい。

 小林泰三『此方より』(角川ホラー文庫)★★★½は、2020年に病没した著者の文庫オリジナル短編集。02年〜21年にSFマガジンや小説新潮などに発表され、著者短編集未収録だった14編を集める全700ページの大冊だ。分量的な柱は、それぞれ創土社の書き下ろしクトゥルー競作集2冊に寄稿された100ページ超の中編2編、「大いなる種族」と「此方より」。ともに『C市からの呼び声』に連なる怪物ホラーだが、とくに凄いのが表題作。"幽霊"の実在を物理学的に証明しようと奇怪な実験を重ねていた科学者の足跡を追って、壮絶なバカSFネタが炸裂する。「量子密室」は、妻を量子状態に置いて完全犯罪を目論む犯人がつくった"密室"に、おなじみの超限探偵∑が挑む。巨大スケールの真相に思いきりくだらないオチがつく「虹色の高速道路」もすばらしい。ハードSFと超自然ホラーを融合させた独特の作風が満喫できる1冊。

 サマンサ・ソット・ヤンバオ『鳥かごに集めた想い』(金井真弓訳/早川書房)★★★は、浅草の路地裏にある行列のできる人気ラーメン店の入口の先にときどき出現する名前のない質屋をめぐる異色ファンタジー。この店では、客が過去の人生で行った〈選択〉を質草として受け取り、小鳥の姿で鳥かごに入れて保管し、飼育員と呼ばれる謎の管理者に引き渡す。主人公は父のトシオから店を引き継いだ21歳のイシカワ・ハナ。だがその初日、何者かに店を荒らされ、〈選択〉の一羽と父親が失踪する。ハナは、たまたま(スーパーカミオカンデに赴任する途中で)店を訪れた若き物理学者のミナトザキ・ケイシンとともに、父親を探して異世界に旅立つ。著者はマニラ生まれの英語作家。日本人が読むと、作中の(人名を含む)日本語や日本的なモチーフが、異国的というよりむしろノイズになりそうだが、今世紀の宮崎駿アニメ的な不条理感に満ちたなんともユニークな長編だ。

 月村了衛『機龍警察 漆黒社会』(早川書房)★★★★は、シリーズ5年ぶり7冊目の長編。和義幇の大幹部・關剣平の凄絶な過去が明かされ、"第一部完結篇"にふさわしく、クライマックスでは人身売買組織をめぐる壮大な機甲兵装バトルの火蓋が切られる。

 最後はエッセイ集。幅広の帯に「本を買え、天に届くまで積み上げろ。」と(タイトルと見紛うほど)大きく書かれた中野善夫『積読の流儀』(国書刊行会)は、幻想文学の翻訳者として知られる著者の初の単著。海外SF/ファンタジー界隈では学生時代から名うての愛書狂というか耽読家で、コラムや架空書評を書かせても同世代では右に出る者のない達人だったことを思えば遅すぎた1冊か。のっけから本誌・浜本発行人が登場し、(開き癖をつけないために)決して90度以上開いてはならない本を平気でごしごしと押し開く極悪非道によりずんばらりと切り捨てられる。しかしその中野善夫も今は電子化のために蔵書を切り刻んで愧じないのだから、けだし君子は豹変するものである。この勢いで、めっぽう面白かったファンジン時代の若書き(黒歴史?)もぜひ本にまとめてください。

(本の雑誌 2026年10月号)

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●書評担当者● 大森望

書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。

http://twitter.com/nzm

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