ポリティカルSF活劇第2弾『天空龍機』ますます快調!
文=大森望
2023年の翻訳SFマイ・ベストに推した『鋼鉄紅女』の待望の続編、シーラン・ジェイ・ジャオ『天空龍機 鋼鉄紅女2』(ハヤカワ文庫SF上下)★★★★が出た。
舞台は、巨大金属生物、渾沌の攻撃にさらされる世界。主役の武則天は巨大ヒト型兵器・霊蛹機に搭乗し敵を迎え撃つが、前作終盤、伝説の皇帝・秦政を目覚めさせたうえに現政権の中枢を霊蛹機で押し潰し、"世界の秘密"を知る。本書はその直後に始まる(訳者による前作の詳細な粗筋つき。YouTubeには著者自身による超早口な紹介動画もある)。女性の権利を回復し、クーデターを成功させた則天だが、うっかり皇后を名乗ったおかげで則天武后×始皇帝の最強夫婦が爆誕。新政権の安定を保ち、国を治めることが本書前半の主眼になる。始皇帝はゴリゴリの労働主義者で、毛沢東が乗り移ったような演説をぶちかまし、大胆な改革を断行するが、他方で苛烈な夫婦バトルも勃発。必然的にメカバトル成分は大幅に減少するもののSF度は上昇。文字通り革命的なポリティカルSF活劇の快作だ。
ニール・スティーヴンスン『ターミネーション・ショック』(山田純訳/パーソナルメディア)★★★½は、四六判並製本2段組674頁の大長編(原書21年刊)。主役はネーデルラント女王サスキア。開巻冒頭、極秘の使命を帯びてみずから自家用ジェットを操縦しテキサスまで飛んでくるが、滑走路で野ブタに衝突し着陸に失敗。地元のハンターに救われてともに旅することに──という快調な導入とはあんまり関係なく、小説の本題はテキサスの大富豪が地球温暖化防止のために進める巨大プロジェクト。メキシコ国境近くにPina2bo(ビッグガン)と呼ばれる巨大施設を築き、二酸化硫黄を成層圏へ発射するという壮大なソーラー・ジオエンジニアリング計画だ。各国の思惑が複雑にからむばかりか、本筋と関係ないディテールや蘊蓄がとめどなく語られるため途中かなりくたびれるが、サスキアのキャラが魅力的な分、同じ気候小説でも、同じ坂村健の企画・解説で同じ版元から2年前に出たS・ロビンソン『未来省』よりは楽しく読めた(むしろナオミ・オルダーマンの『未来』に近いかも)。分量の割にお値段は格安です。
高田大介『図書館の魔女 霆ける塔』(講談社)★★★★は今や日本を代表するファンタジーに成長したシリーズの第4作。宿敵ミツクビの罠に落ち、雷鳴轟く塔に幽閉されたマツリカの日々と、一の谷の面々によるマツリカ救出作戦が軸になる。これまた四六判ソフトカバー1段組666頁で、言語学地政学地質学料理その他の蘊蓄が惜しみなく披露されるが、クライマックスに向けて一直線に盛り上がる構成なので牽引力が強く、キリヒト登場以降のカタルシスは爆発的。
水戸部功の蒸着箔デザインが目を惹く大恵和実・藤吉亮平編『宇宙大将軍侯景SFアンソロジー 梁は燃えているか』(志学社)★★★★は、6世紀(南北朝末期)中国で宇宙大将軍を名乗った梟雄・侯景をネタに日中の作家15名が書き下ろした競作集。特別誂えの餐車で須弥山バーガーを売りまくる十三不塔「太清元年のフードトラック」に始まり、万物は波でもあり粒子でもある徳から成ると説く『量子』をめぐる田場狩「徳音」とか、南梁星際帝国の興亡を描く陸秋槎「法身は滅しない」とか、文明SLGの宇宙開発RTAが思わぬ結果を招く長谷川京「エクストリーム・グリッチ」とか多種多様。他に林譲治、立原透耶、勝山海百合、木海、楊楓、梁清散らが参加。
乾緑郎『私たちに残されたわずかな永遠』(祥伝社)★★★½は、二つの世界に生きる13歳の少女二人の運命を交互に描く書き下ろし長編。一方の世界は月の洞窟に建設された居住施設ルナアーク(22世紀)。他方は巨大なアリのような社会性生物のコロニーと人類の町(中世風)とが共存する遠未来の異星。70年代SF風の懐かしいテイストが逆に新鮮。
綾崎隼『雨のやまない世界で君は』(朝日新聞出版)★★★½は、氷の彗星の破片が衝突したことで気候が激変した近未来の物語。雨のやまなくなった北半球からの脱出をめぐる主人公たちのドラマを(若干のミステリ要素を交えつつ)繊細かつ叙情的に描き出す。
Kaguya Booksが創刊した新書サイズの中短編叢書〈Kaguya群星文庫〉からジュブナイルSFが2冊。大木芙沙子・蜂本みさ『かわいいハミー/せんねんまんねん』★★★★は短編2編のカップリング。前者は映画を軸にした叙情的ロボットSFの傑作。淡々とした語り口が胸に迫る。後者は時を超えた対話を魅力的な大阪弁で綴る。木江巽『真夜中あわてたレモネード』★★★½はゲンロンSF新人賞最終候補作。少年が海辺で拾った巻き貝のような物体は高次元知的生命だった......。奇妙な触れ合いをあたたかくユーモラスに描く。
最後に小説以外を3冊。〈文學界〉の連載をまとめた『筒井康隆自伝』(文藝春秋)は読み始めたら止まらなくなる名調子。90代の今もキレキレです。『筒井康隆エッセイ集成1 SFを追って』(日下三蔵編/早川書房)は、昭和時代に書かれた全雑文を集める2巻本の第1巻。『全集』でしか読めなかったエッセイ群に加え、最初期のSF作家クラブ会報の無署名記事など単行本初収録も多数(編者解説によれば2巻本の3分の2以上)。稲葉振一郎『滅亡するかもしれない人類のための倫理学 長期主義・トランスヒューマン・宇宙進出』(講談社選書メチエ)は、SFで書かれてきたような議論(暗黒森林理論とか)が倫理学界隈でどう扱われているかがよくわかる1冊。
(本の雑誌 2026年1月号)
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- ●書評担当者● 大森望
書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。
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