本年度ベストSF海外部門の有力候補が早くも登場!
文=大森望
今号は短編集が粒揃い。国内SFの注目は、斧田小夜の第2短編集『では人類、ごきげんよう』(創元日本SF叢書)★★★★½。6編すべてに中国(+日本)の怪物・怪異がからむが、小説の骨格はファンタジーでもホラーでもなく、たいへん解像度の高いSF。
第10回創元SF短編賞優秀賞の「飲鴆止渇」は、天安門事件を下敷きに、国家が思いがけない方法で国民を管理する未来を描く。書き下ろしの表題作は、太陽系に突如現れた"アンノウン"の正体を探るための壮大なプロジェクトをAIによる日誌の形式で綴るユーモラスなファーストコンタクトもの。その他、遊牧民の語り部と天才的エンジニアの間に生まれた少年の運命を二人称で語る「海闊天空」、異星開発のためのステーションで宇宙ロバを治療しつづける名医を描く「デュ先生なら右心房にいる」、天上の麒麟と地上の人間の関わりをはるか紀元前から語り起こす「麒麟の一生」、近未来の自動運転車が"耳なし芳一"の悲劇に見舞われる「ほいち」と、作風は変幻自在。とりわけ人間ならざるものの表現がすばらしく、SF作家としての実力を見せつける一冊。
同じ《創元日本SF叢書》の宮澤伊織『ときときチャンネル ない天気作ってみた』★★★★は、ハカセとその助手(天才科学者・多田羅未貴とその同居人・十時さくら)による生配信を視聴者のコメントつきで採録した(という体の)短編連作ドタバタSFコメディ第2弾。読みながら堀晃の『マッド・サイエンス入門』コント版みたい──と思ったら前作の紹介時に同じことを書いてました。今回は、電気、天気、ブラックホールが登場。高次元で収益化を図った結果とんでもない荒らしに襲われる第11話はかなりストーリー性が強め。
一條次郎『おおきな口がまっている』(集英社)★★★½は、全6話の寓話的コメディ連作集。他所でも書いたけど、横田順彌『ポエム君とミラクルタウンの仲間たち』みたいです(たとえが古くてすみません)。ただし、一條作品らしく、ネズミ、犬、ワニ(の着ぐるみ)、プレーリードッグにアライグマなど、キュートな動物たちがフィーチャーされる。第2話の舞台は警察署だが、ドリーム警部は寝てばかり、マグナム巡査は拳銃を舐めまわし、市長を齧り殺して逮捕された容疑者は巨大なうさぎという具合。ところどころ急に七五調になるのが可笑しい。
サラ・ピンスカー『いつかどこかにあった場所』(市田泉訳/竹書房)★★★★★は、2020年のディック賞を受賞した『いずれすべては海の中に』に続く第2短編集。ホラーとファンタジーを中心に全12編を収録する。「二つの真実と一つの嘘」は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞の二冠に輝く超絶技巧の中編。友人の兄が死に、その壮絶なゴミ屋敷の片づけを手伝っている最中に主人公が何気なく口にしたウソから、存在しないローカル番組『アンクル・ボブ・ショー』がなぜか実在しはじめる。エリスン「ジェフティは五つ」に比肩する不気味かつノスタルジックな傑作だ。四冠に輝く「オークの心臓集まるところ」は、架空のバラッドをめぐるネット掲示板の議論の体裁をとる。背筋『近畿地方のある場所について』のアメリカ版というか先取りみたいな実話風怪談の逸品。書き下ろしの「科学的事実!」では、12歳のガールスカウト6人がキャンプに出かけた先の森で信じられない体験をすることになる。他方、「われらの旗はまだそこに」は、ランダムに指名された国民が日替わりで"国旗"を務めることが義務付けられた社会を描くディック的なディストピアSF。「今日はすべてが休業してる」では、文明崩壊を予感させる社会でスケボー少女たちが明日への希望となる。奥付が11月なので今年度扱いになった結果、早くも2026年度ベストSF海外部門の有力候補に躍り出た。
チャイナ・ミエヴィル12年ぶりの新作長編『再誕の書』(安野玲・内田昌之訳/河出書房新社)★★★★は、なんとびっくりキアヌ・リーヴスとの合作。もっとも実際は、キアヌが原案と共同原作を務める全12話のコミック『BRZRKR』(邦訳はハヤコミ連載中)の小説版を任されたということらしい。設定は原作どおりだが話はオリジナルで、コミックには出てこない不死の鹿豚が物語の鍵を握る。主役のBことウヌテは8万年前から生き続ける不死の狂戦士。今は"ユニット"と呼ばれる米国の特殊部隊に属して戦いつつ、自身の肉体の秘密を解明し、永遠の命に終止符を打つ道を探している。ネオとコンスタンティンとジョン・ウィックを合体させたようなダークヒーローを軸に、"永遠の生"という呪いの持つ可能性を徹底的に突き詰める、血と暴力と美に満ちた本格的ダーク・ファンタジー長編。
篠谷巧『マウントウィーゼルを知ってるか』(祥伝社)★★★½は、盗用を防ぐための意図的な間違いとして1975年版の『新コロンビア百科事典』に仕込まれた架空の写真家をネタにしたSF的モダンファンタジー。導入がすばらしく、その後の展開も意表をつく。2020年にエブリスタに投稿した短編の長編化だが、去年邦訳されたベン・シェパード『非在の街』とも響き合う。
市川哲也『シュレディンガーの殺人者』(東京創元社)★★★½は、時間ループネタの本格ミステリ。"学校の七不思議"の取材のため廃校に赴いたライターの田中永遠は、『時が戻る映写室』に監禁され、完全犯罪に挑戦する羽目になる。何回やっても「"事故または自殺に見せかけた殺人"に失敗する犯人」という趣向だが、ある意味、今しか成立しない驚天動地の真相が待ち受ける。
(本の雑誌 2026年3月号)
« 前のページ | 次のページ »
- ●書評担当者● 大森望
書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。
http://twitter.com/nzm- 大森望 記事一覧 »







