"没落ジャパン"をはぐれ者4人が駆け抜ける!
文=大森望
日々のニュースを見るにつけ、この国の将来に漠たる(確たる?)不安を抱く人は多いんじゃないかと思いますが、倉田タカシ8年ぶり3冊目の長編『タフな狩り』(集英社)★★★★は、笑っちゃうほど悲惨な2063年の〝没落ジャパン〟が舞台。
フード革命と食糧危機を経て、2044年にW災害〈天丼〉に見舞われた日本では政府が消滅し、〈工場〉と呼ばれる200余の共同体が分立。国民の9割は安価な労働力として海外企業に売り飛ばされ、奴隷同然に働かされている。主役は高額報酬につられて集まった老若男女のはぐれ者4人(谷、小布施、田中、スミス)の急造チーム。ヨコイカントリーパークから逃げ出した機械の〈獣〉を狩る簡単な仕事のはずだったが......。
基本は痛快SFアクションながら、主人公格の谷(めっちゃ嫌われそうなタイプ)がアプリの〝カピバラさん〟にしじゅう人生相談していたり、小布施が連れてる四足機械ファンキーポニーの口癖が「いやな予感がします」だったり、武蔵小杉が大変なことになっていたり、歩く家が殴り合ったり......とオフビートなネタ満載。山田正紀『火神を盗め』の21世紀版というかディストピア版? この未来を覚悟していれば、たいていのことは笑ってやり過ごせるかも。
しかしこの未来よりさらに悲惨というか壮絶なのが、中国SFの巨匠、韓松の『悪夢航路』(山田和子訳/早川書房)★★★½。『無限病院』に続く《病院》三部作の第二作ということで、我らが主人公・楊偉は、ありえないほど巨大な病院船(でもちゃんとモデルがあるらしいから恐ろしい)の中で目を覚ます。そこは巨大AI司命が君臨し、超患者が仕切り、『病院工学の原理』が行動指針として尊ばれるあまりにも異様な世界だった──というのはまだ序の口。中盤に入ると、プロフェッサー・エターナルが創始した〝ナラティヴ移植セラピー〟により、病院船は(作中でビデオ上映される)『宇宙戦艦ヤマト』的な世界と融合し、前代未聞のワイドスクリーン不条理バロックSFと化す。すごいと言えばすごいんだけど読み通すのは前作以上に大変かも。あ、『ブラック・ジャック』と『紅の豚』も出るよ。
魔法と科学が融合した1912年のカイロを描くP・ジェリ・クラークの改変歴史スチームパンク長編『精霊を統べる者』が「ベストSF2024」海外篇で第1位を獲得したのはちょっと驚いたが(日本の読者にそこまでウケるとは)、新刊の『カイロの死せる精霊』(鍛治靖子訳/創元海外SF叢書)★★★★は、その姉妹編3編を収めるシリーズ第2弾。
表題作は、奇ッ怪な殺ジン事件を軸に、エジプト錬金術・魔術・超自然的存在省の若き辣腕捜査官にして同省初の女性エージェントのファトマとその恋人シティの出会いを描く前日譚。全体の半分強を占める「空中ケーブル〇一五号憑依事件」は、ファトマと同期入省のハメド捜査官が博覧強記の新米オンシと男子コンビを組み、ジンがケーブルカーにとり憑いた怪事件に挑む。こちらは京極夏彦《百鬼夜行》シリーズのカイロ版みたいなたいへん楽しい憑きもの落とし超自然ミステリー。
才谷景『海を吸う/庭に接ぐ』(河出書房新社)★★★½は、文藝賞短編部門の優秀作を受賞した「海を吸う」と、その後〈文藝〉に発表された中編「庭に接ぐ」のカップリング。前者は体に空いた穴をめぐる幻想小説。後者は、カフカ的というよりもクローネンバーグ的なぬとぬとぐちょぐちょ感が横溢する異形の介護小説。イメージ喚起力のきわめて高い文体がクセになる。
星新一生誕100年を記念して編まれた『ショートショートなSF』(ハヤカワ文庫JA)★★★½は、日本SF作家クラブ編の書き下ろしアンソロジー第7弾。ボウリング場に現れた毛糸のセーターの杉子さんが大騒動を巻き起こす巨匠・筒井康隆の「楽天ボウル」から、ターンテーブルからロストバゲージがどんどん湧き出してくる新人・岡田悠の「鳥取空港 手荷物受取所」まで、新作ショートショート50編を収める。〝地球上の躊躇の総量〟というアイデアを核にした山本浩貴(いぬのせなか座)の「偏秒」、世界中の磔刑像が喋り出す酉島伝法「予鳥」、地球が巨大な潮汐に見舞われる松崎有理「海の価値」、鉄塔SFの新機軸、坂永雄一「天動説の発見」、福音書をゲーム化する赤野工作「/*ナイジェルによる引継書*/」が個人的ベスト5。
日本SF作家クラブ・韓国SF作家連帯編『日韓SF交換日記』(KAGUYA Books)は両国のSF作家団体の交流から生まれたユニークな本。メインの交換日記は両国の作家12人ずつがペアを組み往復書簡的にエッセイを交換。対談や座談会の採録も含め、小説だけではわからない韓国SF事情がヴィヴィッドに伝わってくる。
筒井康隆『筒井康隆、九十歳のあとさき』(新潮社)は副題の「老耄美食日記」に、その時期書かれたエッセイ類(『百年の孤独』解説とか)を併録。老いてますます盛んな文豪の超人ぶりを堪能できる。
その他SF周辺のノンフィクションでは、SFが描いてきた未来とAI研究の関わりを論じた三宅陽一郎『AIはニュータイプの夢を見るか 人工知能と想像力のあいだ』(青土社)、SWを通じて軍事戦略を語る『『スター・ウォーズ』に学ぶ現代の戦争 戦略の逆襲』(マックス・ブルックスほか/奥山真司・中谷寛士訳/文藝春秋)、万城目学、飛浩隆、京極夏彦、佐藤究、魚豊ら14人とのトークを収めた小川哲の対談集『こうやって作家は言葉を紡ぐ』(実業之日本社)も出ている。
(本の雑誌 2026年8月号)
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- ●書評担当者● 大森望
書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。
http://twitter.com/nzm- 大森望 記事一覧 »










