紙面ツアーで世界の超絶美術を観に行こう!

文=内田剛

  • 死ぬまでに観に行きたい世界の超絶美術を1冊でめぐる旅
  • 『死ぬまでに観に行きたい世界の超絶美術を1冊でめぐる旅』
    山上 やすお
    ダイヤモンド社
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  • 昔話の民俗学入門: 民間伝承の秘密を読み解く (創元ビジュアル教養+α)
  • 『昔話の民俗学入門: 民間伝承の秘密を読み解く (創元ビジュアル教養+α)』
    島村恭則
    創元社
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  • パリで見つけた小田原城 (わたしの旅ブックス)
  • 『パリで見つけた小田原城 (わたしの旅ブックス)』
    萩原 さちこ
    産業編集センター
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  • おでん学! (祥伝社新書 724)
  • 『おでん学! (祥伝社新書 724)』
    紀文食品おでん研究班/編
    祥伝社
    1,320円(税込)
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  • カップ焼きそばの謎 (ハヤカワ新書)
  • 『カップ焼きそばの謎 (ハヤカワ新書)』
    塩崎 省吾
    早川書房
    1,320円(税込)
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 アウトドアよりインドア。海外より国内派の自分だが、アートとなると話は別だ。まずは海外で甲斐甲斐しく絵画を巡ることができる『死ぬまでに観に行きたい世界の超絶美術を1冊でめぐる旅』(ダイヤモンド社)をおススメしよう。

 表紙タイトルの「超絶」の文字が金箔押しであるのも「シリーズ累計4万部」の自信の表れであろうが、ともあれ構成がユニークで分かりやすい。山上やすお氏は1年の半分を海外で過ごす添乗員の美術オタク。この著者を案内役に、担当編集者を美術ビギナーの参加者に見立てて、13日間の「紙面ツアー」を体験するという臨場感あふれる展開を楽しめる。

 個人的な注目作品は奇跡的に保存されたダ・ヴィンチの名画「最後の晩餐」、威厳のある子羊ちゃんが印象的な「ヘントの祭壇画」、ドイツの美意識を疑う作者不明の「ピエタ像」など。とことん懇切丁寧で旅に出たくなる。タイトル、アイディア、ボリューム、ストーリー、コスパ。すべての点で大満足。死ぬまでに買っておきたい一冊だ。

「新巻ジャケ」が売れなくなったそうだが、もはや食べ方すらも分からない人が大多数だろう。一方、書店では「ジャケ買い」が大流行。同じ本でも季節によってカバーを変えたり、人気漫画家のイラストで売れているタイトルもあって、店頭は百花繚乱の賑わいである。そんな流れは本来地味な場所である専門書のジャンルにも浸透。島村恭則『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)は、「拍子抜け」とは真逆のインパクト。何とも可愛いカジュアルなイラストは、50過ぎのおじさんが手にするには多少の抵抗があったが、前作『現代民俗学入門』と同じ手にまんまと引っかかる。しかしこれは新手の詐欺ではない。

 河童は妖怪ではない? ネズミの語源は「根棲み」? 笠地蔵はなぜ六体なのか? 玉手箱の正体とは?といった昔話にまつわる素朴な疑問を軽妙に解説。「日本にもいたシンデレラ」のような刺激的なネタや、ネット怪談といった現代の都市伝説まで話は及ぶ。ビジュアル重視の内容で、実に分かりやすく唸りながら読んだ。欄外や巻末に記載されたブックガイドにも興味が広がる。

 頭はすっかり海外に染まっているので『パリで見つけた小田原城』(産業編集センター)に行こう。かつて城が趣味といえば、そこに集うのは超マニアックな男性オタクたちばかりだったが、いまや熱心な女性ファンが目立つ。城イベントの案内人は相変わらずおじさんが多いのだが、城郭ライターである萩原さちこ氏は貴重な存在で著作も多数。その活躍ぶりも目立っている。

 意外性のあるタイトルであるが決してトンデモ本ではない。フィンランド、フランス、スペインへと足を延ばし、城マニアならではの視点で城や要塞、城塞都市を巡る。時代や地域や文化の違いはあれども漂ってくる城の気配。「闘い」の現場には万国共通の思想が感じられるのだ。興味津々の旅路にはヴェルサイユ宮殿と二条城の比較というハイライトや、小田原城だけではなく、五稜郭や箕輪城も浮き上がってくるので見逃せない。読めばきっと日本の城に行きたくなること間違いなし。世界史オンチなのはご愛敬。肩ひじ張らない書きっぷりにも好感が持てて、とかく白黒つけたがる城ファンのみならず紀行エッセイ好きの方にもぜひ。

 さて気分次第で攻めたくなったのでアツアツの『おでん学!』(祥伝社新書)で温まろう。1938年創業の紀文食品のおでん研究班のメンバーたちが30年にわたって収集したデータに基づいた日本全国のおでん事情の成果をコンパクトに収録。人気のおでん屋はどこも大混雑(←ダイコンが入っている)なのだが、その秘密もよく分かる。

 そもそも「おでんっていったい何?」から始まる歴史に究極においしく作れるレシピ、よだれが出そうな種もの図鑑にクイズ、さらに「おでんと文学」のコラムも面白い。戦後の大衆化、コンビニでの展開、平成の「劇場型おでん」、令和の「おしゃれおでん」など、読みながらこの国の食事情の流れも見えてきた。

 気になるのは土地の風土と歴史が詰まったご当地おでんと、はんぺんと牛すじが示す、おでんマップの境界線から知る各都道府県での人気具材の傾向の違いだ。おでんに何を入れるのか? おかずなのか? まさにおでんは地域や家庭を映し出す鏡でもある。これはもう本書をめくっていただくしかない。おでんは「普通」なようでそうじゃないのがミソ。決してカラシてはならない奥深い文化なのだ。

 すっかりお腹がすいてたまらなくなったので焼きそば研究家・塩崎省吾氏による『カップ焼きそばの謎』(ハヤカワ新書)で締めよう。同じ新書のシリーズ既刊に『ソース焼きそばの謎』と『あんかけ焼きそばの謎』があって、いずれも激辛濃厚ソース大盛りのような刺激的な研究書なのだが、しかし焼きそばでこれほどネタがあるとは驚きだ。その情熱や執念はとてもインスタントなものではない。

 焼いていないのになぜ「焼きそば」と呼ぶのか? 焼きそば史上最大の謎に挑むという試みが素晴らしい。さすが謎解きが大好きな早川書房だ。高度経済成長期の終わりとともに出現したカップ焼きそばは、現在の即席麺市場では醤油ラーメンを凌ぐシェアがある。「ペヤング」に「U.F.O.」といった人気商品はもはや国民食だ。メーカーの商品開発にヒット作の栄枯盛衰。当時のCMやパッケージを眺めているだけで日本の近現代史の側面も明らかになってくる。身近な存在だけに「そば」に置いておきたい作品である。

(本の雑誌 2026年3月号)

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●書評担当者● 内田剛

ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。

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