私服で行ける〈異空間〉にワクワクが止まらない!

文=内田剛

  • ふだん着で行ける秘境 ニッポンの異空間
  • 『ふだん着で行ける秘境 ニッポンの異空間』
    関口 勇
    大和書房
    1,870円(税込)
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  • 愛すべき残念城
  • 『愛すべき残念城』
    坂本 犬之介,野神 明人
    新紀元社
    2,420円(税込)
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  • 新・戦国史: 城から迫る乱世の終焉、泰平のはじまり (NHK出版新書 757)
  • 『新・戦国史: 城から迫る乱世の終焉、泰平のはじまり (NHK出版新書 757)』
    NHKスペシャル取材班
    NHK出版
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  • 大正昭和レトロ建築旧夢譚
  • 『大正昭和レトロ建築旧夢譚』
    高殿円
    エクスナレッジ
    2,200円(税込)
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  • かつてこの町に巨大遊廓があった 〜熊本・二本木の歴史と記憶をたずねて
  • 『かつてこの町に巨大遊廓があった 〜熊本・二本木の歴史と記憶をたずねて』
    澤宮 優
    忘羊社
    2,090円(税込)
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 普通の旅はもう飽きたという方に朗報。至福(私服)の刺激がてんこ盛りの『ふだん着で行ける秘境 ニッポンの異空間』(大和書房)からご紹介。著者の関口勇氏は『ワンダーJAPAN』編集長。誰にも手が出せない専門領域に踏み入れた、他の追随を許さぬ充実ぶり。もちろんこれは秘境であって卑怯ではない。

 町のシンボルとなった三菱飯塚炭鉱の遺構、二十年かけ無数の貝でつくられた知多半島の「貝がら公園」、創作ハニワが大量に並ぶ「はにわの西浦」、絶滅危惧種のロボットすべり台、DIY系大仏「布袋の大仏」など。ページをめくればワクワクが止まらない。非日常の風景はなぜこんなにも魅力的なのか。

〈異空間〉を知るほどに世界が広がる。草木に埋もれた過去の遺物があれば、未来に向けた希望が潰えた夢の跡もある。どの場所からも浴びるように感じられるのは、先人たちの強い意志だ。たとえ本来の役割を終えたとしても訪れる者の心を捉えて離さない、時代を超えたパワースポットなのである。

 不透明な空気が漂うこの時代、「残念」がトレンドだ。『愛すべき残念城』(新紀元社)は、悲哀の象徴でもある昭和のオジサンの背中を思い起こさせる。

 著者の坂本犬之介氏は戦国時代をこよなく愛する書き手。注目ポイントは城にまつわる伝説やエピソードを、お城自身に直撃取材するという斬新なアイディアだ。絶妙なインタビューから、城の肉声が聞こえてくる。

 全国三十か所を紹介しており、年に数回の「海割れ」の時にしか渡れない日本最古の海城「甘崎城」、巨大地震によって一夜にして消えさった幻の「帰雲城」といった、マニアックな城が取りあげられているのも嬉しい。残念要素がまったくない最強の山城「高取城」がなぜ「残念な城」なのかは、ぜひ本書を読んでもらいたい。

 NHKスペシャル取材班『新・戦国史 城から迫る乱世の終焉、泰平のはじまり』(NHK出版新書)のメインテーマは、帯文にもあるように「「巨大化する城」の謎を解く!」こと。NHKスペシャル「戦国サムライの城」の書籍化だ。この世に城本はごまん(城の数は約四万)とあるが、本書は最新調査の情報が続々と書かれているのでゾクゾクする。

 石垣、瓦ぶき、天守という三つの要素を備えた「近世城郭」は約四百年以上前に忽然と姿を現し、わずか数十年で全国に広まった。しかし、築城ブームの先駆けとなった織田信長の安土城の実態をはじめ、都市の成立は謎に包まれていた。それが昨今の発掘調査や科学的アプローチの進展によって解明されつつある。

 信長が目指したのは「戦う城」ではなく、「見せる城」。それはまさに「平和の象徴」でもある。豊臣秀吉は権威を示すために城を巨大化させた。築城ブームの終焉は徳川家康の「一国一城令」がきっかけである。天下統一は無益な殺し合いのない世の中を創ること。そうしたアプローチで戦国史を俯瞰すると、これまでとは違った歴史像が見えてくる。「城づくり」を通じて平和に想いを寄せる。歴史を学ぶとは未来にもつながるのだ。

 巨大な城のあとに手が伸びたのは高殿円『大正昭和レトロ建築旧夢譚 関西近代建築の12の謎』(エクスナレッジ)だ。さすが人気作家の筆づかいを存分に堪能できる文章が素晴らしい。

 懐かしき時代と関わった人々の記憶を色濃く伝える古い建物。そこには心に留めておくべきドラマがある。貴重な遺産を守り抜くには特別な人の力が必要なのだ。時代を超えて受け継がれた建築美だけではなく、それを守り抜いた人々の情がじんわりと胸に迫る。各エリアごとに美味自慢の名店紹介も添えられており、絶好のスパイスとなっている。

 モノクロのイラストは、じっくり眺めればまるで上質な水墨画のように感じられる。それぞれの建物に用意された間取り図もまた味わい深い。読んでいるうちに脳内で鮮やかな色彩が浮かんでくるから不思議だ。

 著者ゆかりの土地を訪ね歩く構成で、銭湯、官庁、迎賓館、工場といったかつて賑わった「場」が再現される。どこも気になるのだが、兵庫県朝来市の古民家書店「本は人生のおやつです!!」は今すぐでも行きたいスポット。東大寺の奥にある「フトルミン工場跡」は、たまたま通りかかって「この施設はいったい何?」と驚いたことを思い出した。まさかここで「ヤクルト」に先駆けて販売されていた歴史をもつ乳酸菌飲料が製造されていたとは。橋本遊廓跡もため息が漏れるほどの名所だ。お金の落ちるところに素敵レトロ建築あり。贅を尽くした絢爛な意匠の数々に言葉を失う。

 遊廓つながりでラストは『かつてこの町に巨大遊廓があった 熊本・二本木の歴史と記憶をたずねて』(忘羊社)を激オシしよう。著者の澤宮優氏はデビュー作『巨人軍最強の捕手』以来、二十年にわたって個人的に追いかけているノンフィクション作家だが本作の舞台は著者の地元。まさしく「この著者にしか書けない!」という気概が伝わってきて嬉しい。

 二本松遊廓は熊本にあった西日本屈指の遊廓街で、高層の木造建築が軒を並べる光景が壮観だったという。栄華の陰には娼婦たちの過酷な労働環境があり、軍事都市・熊本の興隆がそのまま〈性〉を商う街の勢いに直結した。遊廓の歴史をひもとけば、近代日本の光と闇が浮き彫りとなる。

 貴重な建築遺構が保存されなかった理由は、遊廓であるがゆえに正当に評価されなかったため。歴史を正しく後世に残す難しさと同時に、大切さにも気づかされる一冊だ。

(本の雑誌 2026年5月号)

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●書評担当者● 内田剛

ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。

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