名画に絵巻、擬人化まで日本アートの魅力が詰まった3冊

文=内田剛

  • 日本絵画史 解剖図鑑
  • 『日本絵画史 解剖図鑑』
    矢島 新
    エクスナレッジ
    1,980円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 絵巻の楽しみ 角川選書ビギナーズ (角川選書 1208)
  • 『絵巻の楽しみ 角川選書ビギナーズ (角川選書 1208)』
    山本 陽子
    KADOKAWA
    2,200円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 擬人化の日本美術史
  • 『擬人化の日本美術史』
    島尾 新
    淡交社
    2,420円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 絶対に見たことがあるアレの正体、聞いてみた
  • 『絶対に見たことがあるアレの正体、聞いてみた』
    井上マサキ
    大和書房
    1,980円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史 (集英社新書)
  • 『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史 (集英社新書)』
    速水 健朗
    集英社
    968円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

「芸術の秋」でもないのに「クール・ジャパン」の勢いが加速しているのか、日本絵画をテーマにした新刊が続々と登場。ポイントはビジュアル重視の「映え」。教科書でお馴染みの「鳥獣戯画」もメガヒット。飛ぶ鳥を落とす勢いに鳥羽僧正も目を丸くしているに違いない。
 日本の絵画史を俯瞰するに格好のテキストとなるのは、矢島新『名画のリクツがよくわかる 日本絵画史解剖図鑑』(エクスナレッジ)だ。「日本らしさ」はいかに形成されたのか。日本絵画のオリジナリティを、島国という「周辺」にあったゆえの創造力と捉えて、古代の絵画伝来から、近代の西洋技法の受容まで時代ごとに探っていく。あの「風神雷神図屏風」はやまと絵と水墨画のハイブリッドといった視点が実にスリリングだ。
 冒頭の「サクッとわかる日本絵画史」(この4ページは一読の価値あり)からグイっと引き込まれる。個人的には『玉虫厨子』、雪舟『天橋立図』、尾形光琳『燕子花図屏風』、葛飾北斎『富嶽三十六景神奈川沖浪裏』、高橋由一『花魁』の解説が印象に残ったが、本書の重要な読みどころは、日本絵画の入門書でありながら図版が写真ではなく、すべてイラストであること。繊細なタッチの表現だからこそ、絵画の見どころがより一層鮮明になる。これはぜひ本書のページを開いて実際に体感してもらいたい。
 続いては「選書」コーナーで見つけた一冊だ。「新書」と違って「選書」は新聞書評に載るような好著が多いものの、書店で探すのがけっこう難しい。店によってはコーナーがなく、ジャンルごとに散っていたり、片隅に追いやられている例も珍しくないのだ。山本陽子『絵巻の楽しみ』(角川選書)は、見つけた瞬間、にんまり嬉しくなった。帯文にある「泣きべそ不動明王」、「モテる仏僧」、「女装する天皇」に興味がわき、「みんなこんなにも表情豊かだったのか!」という煽り文句にも心を奪われた。忙しい日常、表情を失ってハニワ顔で過ごしている自分にとってこれは必要な一冊と確信した。内容も期待以上。広く人口に膾炙した国宝から知られざる珍宝まで、ワクワクが止まらず、上質なミステリー小説を読むような感覚だ。
「もともと絵巻はそんなご大層なものじゃなかった。」「マンガを楽しむように、絵巻を見てみてほしい。」という、「はじめに」の口上が軽妙で素晴らしい。博物館や美術館にあるというだけで、どこか堅苦しいお勉強のイメージが激変。アートへの間口をグッと広げてくれるのだ。18のテーマ、それぞれ読みどころたっぷりだが、ぜひ第一章の、「まるで小学生の夏休みの絵日記」のような巻物「絵因果経」をご堪能いただきたい。これで美術アレルギーも一気に解消だ。
 日本アートの魅力を知る本が続くが、ダメ押しは島尾新『擬人化の日本美術史』(淡交社)だ。これまた扱う時代は古代から現代まで。それも「擬人化」という斬新な角度で切り取るとは。著者のお名前の通りまったく新たな刺激を与えてくれる。
「縄文のビーナス」と呼ばれる土偶から、器物を擬人化した「百鬼夜行絵巻」、堂々たる「タヌキの肖像」のような荒木寛畝「狸」、狐の嫁入り、化け猫、さらには魚や虫なども擬人化されているから面白い。逆に「鳥獣戯画」で擬人化されなかったヘビやフクロウも実際の絵巻で確かめてみたいものだ。
 続いては思わずタイトル買いをしてしまった井上マサキ『絶対に見たことがあるアレの正体、聞いてみた』(大和書房)だ。ウェブメディア「デイリーポータルZ」掲載記事を中心にまとめた一冊。子どもから大人まで楽しめる、身近でユニークなネタが満載。まさに「読む社会科見学」。これは立ち止まらざるをえない。
 例えば旅館のお膳で火をつけるアレ、袋に入っている「たべられません」のアレ、コンビニで強盗に投げるアレ。名前は知らないけれど、どこかで見たことがあるモノたちを作っている会社に突入取材して、様々な裏話を聞き出していく。ラストのテーマが、本書のカバーでニヤリ。ここにもモノづくりに情熱を傾けた職人たちがいた。どこからか「プロジェクトX」のテーマ音楽が聞こえてくる。
 マジで機械は奇怪。ラストは「新しいものを使いこなせないあなたへ」というキャッチコピーに激しく同意し、膝を打ちながら読んだ速水健朗『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』(集英社新書)をご紹介。生きづらい現代社会を象徴するのは、異常気象による厳しい寒暖差と日進月歩のテクノロジー。うまく対応できないのは自分のせいじゃなくて、機械の方に問題があるのだと思う。肉体と精神の衰えを、けっして認めたくない。年をとると誰かのせいにしたくなるものだが、本書を読めば、使いにくい機械がなくならない理由が明記されており、ちょっぴり安心できる。
 人工の冷気はどうして不気味なのか。テクノロジーの受け入れにおける「35歳」の壁。役所でなぜたらい回しにされるのか。提示されるテーマの考察がそれぞれ興味深い。本来、「炊飯」と「保温」だけでいいはずの炊飯器のボタンがなぜ増えるのか、その答えも象徴的で分かりやすい。
 セルフレジ、タッチパネルでの注文や決済、QRコードでの予約などなど。機械に触れなければ、もはや日常生活さえもままならない。機械音痴だからといって避けて通れないのだ。電話で問合せても、なかなか繋がらない上に音声ガイド。どんなにイライラが募れども、その感情を持っていく先がないこともストレスなのだが、機械を開発するのも使うのも同じ人間だ。機械をもっと理解する機会をくれた本書に感謝しよう。

(本の雑誌 2026年6月号)

« 前のページ | 次のページ »

●書評担当者● 内田剛

ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。

内田剛 記事一覧 »