埴輪から納豆、熨斗紙まで「包む」を学ぶ!

文=内田剛

  • 「包む」の民俗学
  • 『「包む」の民俗学』
    新谷 尚紀
    淡交社
    2,420円(税込)
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  • 全国暗渠観光ガイド: 街と歴史のウラ名所めぐり
  • 『全国暗渠観光ガイド: 街と歴史のウラ名所めぐり』
    髙山 英男,吉村 生
    学芸出版社
    2,530円(税込)
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  • プロ野球 神試合図鑑
  • 『プロ野球 神試合図鑑』
    長谷川 晶一,鈴木ユキタカ(ヒゲ編)
    三才ブックス
    2,200円(税込)
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  • 図説 妖怪・幻獣づくし (ふくろうの本)
  • 『図説 妖怪・幻獣づくし (ふくろうの本)』
    兵庫県立歴史博物館,鳥取県立博物館
    河出書房新社
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  • ヘンな道路標識
  • 『ヘンな道路標識』
    後藤 欣樹
    イカロス出版
    1,760円(税込)
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 人は何かに包まれているだけで癒される生き物。まずは包容力抜群の一冊からご紹介。かつて書店員だった自分はラッピングが苦手だったため、「包む」には若干アレルギーを感じるが、それは包み隠しておこう。『「包む」の民俗学』(淡交社)の著者・新谷尚紀氏はその道の第一人者であるから、難解な専門書を想像したがまったく心配無用。内容は「おふくろさん」も大喜びの身近なテーマばかりで実に読みやすい。
「なぜ日本人は包みたがるのか」。縄文時代に遡って知的冒険は進んでいく。埴輪にみる衣服、平安貴族の寝殿造、ちまきに納豆。風呂敷に熨斗紙。衣食住から贈り物、まさに日本人の心にまで話題は及び、豊かな学びの余韻に包まれる。レジ袋の有料化からマイバッグが一般化し、「包む」行為がより生活に結びつくようになった。ポテトチップスの袋が白黒化するそうだが、図版多数あれども本書の中身は白黒で時代を先取り。書店でご購入の際にはプレゼント包装を依頼してもいいだろう。
 次に取り上げる「暗渠」も、水の通り道に「蓋をした」という意味では「包まれた」場所といえるかもしれない。髙山英男・吉村生『全国暗渠観光ガイド 街と歴史のウラ名所めぐり』(学芸出版社)は、これまで見逃されがちだった「街角の違和感」にスポットを当てた一冊で、ガイドブックとして活用できる。しかも「全国」なのだから、かつては日陰の存在だった「暗渠」も随分と明るいイメージになったものだ。これも著者である「暗渠マニアックス」のお二人の尽力の賜物なのだろう。
 隠された「水の記憶」を味わう全国23都道府県29都市31事例を収録。鉄道廃線のようなかつての水や水路の痕跡。生活の跡をたどりながら土地の声を聞く。なんとも知的興奮を掻き立てられ、まさに暗渠は「新しい観光資源」であると実感できる。個人的なオススメは、「がっかり返上」のはりまや橋、暗渠で味わう「ドブ板通り」。京都や神戸、名古屋や福岡にも名所があるので、旅行や出張のお供にぜひオススメしたい。
 小学校時代の定期購読雑誌は「月刊ジャイアンツ」だった自分にとって、野球本のコーナーは書店でも特に気になる場所。毎年「プロ野球選手名鑑」が出れば球春到来を感じ、その年の試合結果や記録を集めた分厚い「ベースボール・レコード・ブック」を見て年の瀬を感じているのだが、そんな中でキラッと光っていた新刊が長谷川晶一(著)鈴木ユキタカ(イラスト)『プロ野球 神試合図鑑』(三才ブックス)だ。これぞまさにプロ野球ファン垂涎の一冊。
「神試合」というと天覧試合、「江夏の21球」といった、昭和の名勝負のイメージを思い浮かべるかもしれないが、本書は21世紀(2001~2025年)の試合に限っているから、いま現役バリバリの選手も続々と登場しているのが嬉しい。近鉄を含めて13球団ごと51の神試合をセレクトした選者は、泣く子も黙るマニアたち。あの選手、あのプレー、劇的な展開などが鮮やかに蘇る。気の合ったファンたちと居酒屋でワイワイと野球談議をしているイメージだ。これなら何杯でもいける。同じ試合を勝った側、負けた側でセレクトしているのも面白い。劇的な幕切れ、涙の復活、殊勲のヒーロー、悲願の日本一、大記録の瞬間、伝説の引退試合。勝とうが負けようが、一生忘れられないゲームあり。神が宿った試合こそ「噛みしめる」価値があるのだ。さあ、これを読んで球場へ行こう。未来の「神試合」は今日のゲームかもしれない。
 贔屓チームの躍動は現実の夢であるが、続いては寝る前に眺めたら、悪夢を見そうな一冊だ。人は年をとっても未知なる存在にロマンを求めるものだが、その象徴ともいえるのが「妖怪」のような存在だ。『図説 妖怪・幻獣づくし』(河出書房新社)は「ふくろうの本」シリーズだからこれも「包み」つながり。編者が「兵庫県立歴史博物館/鳥取県立博物館編」とあるように展覧会の公式図録で、「妖怪の自然史」と「幻獣見聞録」の二部構成だ。妖怪に了解無用。これはもう先入観抜きにページをめくってもらいたい。
 新発見の「筑前化物絵巻」はもちろん、ツチノコ、天狗、鵺、河童、人魚たちが続々登場。グロテスクだったり、ユーモラスだったり。水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎」そのままの世界があれば、門外不出の秘宝のような謎の物体もある。幻想なのか、現実なのか。誰が、何のために創り出したのか。表現や造形は多種多様であれども、その多くが生身の人間の要素を持っていることに違いないだろう。いつまでも見飽きることはない。一家に一冊あれば魔除けにもなりそうだ。
 今回の紹介本はジャンルがバラエティーに富んでいるため、交通整理が必要だ。最後に『ヘンな道路標識』(イカロス出版)で落ち着こう。著者の後藤欣樹氏はWebサイト「道の顔・標識写真館」を主宰し全国47都道府県、1000の自治体を踏破した強者である。道路標識って全国どこも同じかと思っていたら大間違い。こんなに個性的で奥深いものだったとは。「仙台まで388㎞」、日本最高地点、東京五輪限定、クマやシカだけでなくカニやカメ注意の標識など。東京都文京区はオリジナル警戒標識多発地帯という情報もあり。無機質な看板はよく見ればどれも雄弁で、人と車と土地にまつわるドラマが感じられる。
 しかし「ナゾの標識」を、よくぞここまで集めたものだ。道路との付き合い方がガラッと変わる刺激が素晴らしい。道はやっぱり未知の場所で油断大敵。これからは罰則が厳しくなった自転車の運転と同じくらい「ヘンな道路標識」に気をつけよう。

(本の雑誌 2026年7月号)

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●書評担当者● 内田剛

ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。

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