へんな学部から死体の授業まで学びで夏を乗り切ろう!

文=内田剛

  • へんな学部: 令和ニッポンのユニーク学問最前線
  • 『へんな学部: 令和ニッポンのユニーク学問最前線』
    西岡壱誠,未来図編集部
    笠間書院
    1,980円(税込)
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  • 法医学教授が教えている 死体の授業
  • 『法医学教授が教えている 死体の授業』
    飯野守男
    飛鳥新社
    1,870円(税込)
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  • 地図で読み解く日本の山岳鉄道
  • 『地図で読み解く日本の山岳鉄道』
    川島令三,岡田直(編著)
    カンゼン
    2,090円(税込)
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  • 橋の名は。
  • 『橋の名は。』
    本郷和人
    アチーブメント出版
    2,200円(税込)
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  • まちかど給水塔図鑑
  • 『まちかど給水塔図鑑』
    高水湧基
    創元社
    2,200円(税込)
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 酷暑の夏がやってきた。これだけ暑いと頭の中もヘンになりそうだが、少しでもまともなうちに冷房の効いていそうな学校へ行こう。西岡壱誠著/未来図編集部監修『へんな学部 令和ニッポンのユニーク学問最前線』(笠間書院)は、「学び」の最前線が手に取るように分かる貴重な一冊。

 少子化のため「大学全入学時代」で定員が埋まらなくなったいま、大学側はアイディアを絞って学生を集めている。まさに生き残りをかけた「個性化」競争の時代に突入したのだ。いまや大学は偏差値ではなく「好き」で選ぶ流れになってきている。

 恐竜を本格的に学びたければ福井県立大学恐竜学部を一択。京都精華大学マンガ学部や桜美林大学航空学群、佐賀大学コスメティックサイエンス学環、関西国際大学経営学部ゴルフマネジメントコースならば専門職への道に近づく。40ヵ国以上から約150人の学生が集まる「ミネルバ大学」はキャンパスがなく、授業はすべてオンライン。4年間で世界7都市を移動しながら学ぶという驚愕のシステムである。大学の学部を見れば「いま」が見える。AIに仕事を奪われないヒントもあり、もしかしたら人生が変わるかも。

 奥深い学問への探求はまだまだ続く。暑さで死にそうな方には、死体の世界をおススメしたい。解剖医・飯野守男氏による『法医学教授が教えている死体の授業』(飛鳥新社)は、知られざる「死」の現場に踏み込んだショッキングな内容。どうか思う存分に凍りついてもらいたい。

「死」を深掘りすれば「人間」そのものを理解することにもなる。司法解剖の生々しい実態は、あまりにも悍しくて、とてもここには書けないレベル。第2章「解剖しないとわからない「死因」のケーススタディ」を読んでおけば、今後の生き残りに役立てられるかもしれない。入れ歯、風呂、三食フライドポテト、便秘がなぜ死因となるか。推理しながら読むべし。第3章「ドラマや漫画で描かれる「死体」の嘘」はフィクション好きの読者は必読の項目だ。

 冷や汗をかいたあとは、さらに暑さを逃れるために避暑地に行こう。標高の高い場所に行くなら山岳鉄道。川島令三監修/岡田直編著『地図で読み解く日本の山岳鉄道』(カンゼン)は、登山鉄道、ケーブルカー、普通鉄道の山岳区間まで全国43路線の成立と仕組みがカンゼンに分かる一冊だ。

 箱根登山鉄道のスイッチバック方式は知っていたが、山岳鉄道がこんなにも魅力的とは。表紙の1933年ごろの「比叡山と鞍馬山」の絵地図に惹かれて手にしたが、美麗な全ページまるごと新鮮な驚きに溢れていて読み応えあり。

 普通鉄道として日本一の急勾配である小田急箱根鉄道線。日本一の高低差561メートルを誇る叡山ケーブル。かつての日比谷線の車両が走る長野電鉄長野線。温泉宿にあるケーブルまでも紹介してあって見逃せない。高所を目指して重たい荷物を黙々と運び続ける鉄道の姿が、人生という名の坂道を登り続ける人間の姿と重なって思わず共感してしまった。

 熱中症対策に欠かせないのは水分補給だ。水のある場所には橋がある。本郷和人監修『橋の名は。』(アチーブメント出版)は、日本の121もの橋を端から端までめぐった一冊。ガイドブックとして使える基本情報も充実している。

 日本橋(東京都)、渡月橋(京都府)、猿橋(山梨県)、谷瀬の吊り橋(奈良県)、明石海峡大橋(兵庫県)、関門橋(山口県)、眼鏡橋(長崎県)、通潤橋(熊本県)といった名だたる名橋の立地は、大都会の橋から大自然の秘境までバラエティーに富み、ギネス認定の長い木橋・蓬莱橋(静岡県)や回転する驚きの橋・廻旋橋(京都府)など、構造が珍しい橋も続々登場し興奮必至。

 そもそも橋は彼岸と此岸の境界にあるもの。東西南北、現在過去未来、さまざまな物語が生み出される絶好の場所である。ドラマティックな背景を知れば、見慣れていたはずの橋の表情が変化する。四季折々の風情を織り交ぜたビジュアルも心ゆくまで堪能いただきたい。

 さて今月最高の給水ポイントは『まちかど給水塔図鑑』(創元社)だ。マニアックながらも遊び心をくすぐる一冊。日本全国津々浦々にあって土地のランドマークともなる給水塔は、心の原風景として記憶に刻まれているものも多いだろう。しかしその実態は意外と知られていない。なぜそこにあるのか。デザインの違いなど、あらゆる疑問にズバリと回答。

 著者の高水湧基氏は「UC」のハンドルネームでブログ「日本給水塔」を開設し、日本給水党の党首でもある。メディア出演多数の第一人者。謎めいた給水塔のあれこれは、ぜひオールカラーの写真も眩しい本書をお読みいただきたい。ちなみに個人的なお気に入りは50メートルの高さの「駒沢オリンピック公園オリンピック記念塔」(1964年)、円筒型の「旧野方配水塔」(1928年)、特攻基地の遺構「知覧飛行場跡給水塔」(1941年)。いずれも文化財級の迫力である。

 眺めるだけではなく考察もまた鋭い。給水塔を作品イメージとした映画「バグダッド・カフェ」(西ドイツ・1987年制作)や、文学では筒井康隆のショートショート『給水塔の幽霊』、窪美澄の長編小説『給水塔から見た虹は』にも言及。知れば知るほど魅力が増していきクセになる。本書を持ってぜひ街に繰り出そう。先行して発売されたシリーズ2点『まちかどガードパイプ図鑑』、『まちかど送水口図鑑』も知的好奇心をかきたてる。どれもこの夏に学びたい、大人の自由研究の題材にもぴったり。今回は随分と水分をいただいたので、記録的な猛暑も乗り越えられるはずだ。

(本の雑誌 2026年9月号)

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●書評担当者● 内田剛

ブックジャーナリスト、NPO法人本屋大賞実行委員会理事、ポプラ社「全国学校図書館POPコンテスト」アドバイザー。30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。これまで書いたPOPは6,500枚以上。「小説幻冬」連載など、ブックレビューの執筆や講演活動、POP講習会を実施。著書に『POP王の本!』(新風舎)、『全国学校図書館POPコンテスト公式本 オススメ本の作り方(全2巻)』(ポプラ社)がある。無類のアルパカ好き。

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