雪風シリーズ13年ぶりの新刊『アグレッサーズ』が楽しい!

文=大森望

  • アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風
  • 『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』
    神林 長平
    早川書房
    2,090円(税込)
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  • マゼラン雲(スタニスワフ・レム・コレクション)
  • 『マゼラン雲(スタニスワフ・レム・コレクション)』
    スタニスワフ・レム,後藤正子
    国書刊行会
    2,970円(税込)
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  • 最後の宇宙飛行士 (ハヤカワ文庫SF)
  • 『最後の宇宙飛行士 (ハヤカワ文庫SF)』
    デイヴィッド・ウェリントン,中原 尚哉
    早川書房
    1,430円(税込)
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  • 法治の獣 (ハヤカワ文庫JA JAハ 13-1)
  • 『法治の獣 (ハヤカワ文庫JA JAハ 13-1)』
    春暮 康一
    早川書房
    1,100円(税込)
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  • 大人になる時 (竹書房文庫 く 7-2)
  • 『大人になる時 (竹書房文庫 く 7-2)』
    草上 仁,日下 三蔵
    竹書房
    1,540円(税込)
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  • 眼を開けたまま夢を見る
  • 『眼を開けたまま夢を見る』
    樋口恭介
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  • 翻訳を産む文学、文学を産む翻訳: 藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち
  • 『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳: 藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』
    邵丹
    松柏社
    4,180円(税込)
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「シン・ウルトラマン」観ながら、そう言えばウルトラマンもファーストコンタクトもの(+侵略もの)だったなあと今さらながらに思ったわけですが、今月は小説でもコンタクト(地球外知性/生物との接触)を描く話題作が4冊揃った。

 神林長平『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』(早川書房)★★★★½は、『アンブロークン アロー』以来13年ぶり(!)のシリーズ第4作。FAF特殊戦は、ジャムが地球に侵入したことを前提に、敵をシミュレートするアグレッサー部隊を新設。無人機レイフとともに部隊に加わった雪風は地球連合軍飛行部隊との模擬戦に参加するが......。ジャムの欺瞞工作をめぐりひたすら哲学的対話をくり広げた前作と対照的に、今回はスリリングな空中戦が軽やかに描かれる。新キャラの田村伊歩大尉(日本海軍のエース)が印象的。ここはどこの特車二課ですか? みたいな休暇エピソードも挿入され、たいへん楽しく、あっという間に読める。なお、シリーズ第5作はすでにSFマガジン6月号から連載が始まっている。

 スタニスワフ・レム『マゼラン雲』(後藤正子訳/国書刊行会)★★★½は、生前の著者が長く封印してきた第2長編。翻訳も不許可だったので、1955年の原書刊行から67年を経て、今回が初邦訳。

 時は32世紀。227名のクルーを乗せた巨大な恒星間宇宙船ゲア号がアルファ・ケンタウリ目指して探査の旅に出る。主人公の生い立ちから語り起こすスタイルはユニークだが、SF味の伝わりにくい翻訳とも相俟って中盤はいかにも古めかしい。終盤、ファーストコンタクト・テーマが浮上してからは俄然レムらしくなるが、6年後の『ソラリス』との間には"越えられない壁"が......。もっとも、本書を原作とするチェコ映画「イカリエ−XB1」('63年)はさらに古めかしく見えるけど。

 デイヴィッド・ウェリントン『最後の宇宙飛行士』(中原尚哉訳/ハヤカワ文庫SF)★★★½は、2019年刊のファーストコンタクトSF。導入部は21世紀版『宇宙のランデヴー』だが、中盤以降は映画「イベント・ホライゾン」的なモダンホラー展開に(ちょいダレる)。絶望的な状況で最善を尽くす女性宇宙飛行士を描く冒険小説でもあり、ラスト1行がすばらしい。なお、ネタに使われている実在の天体オウムアムアについては、すずきたけし氏のページで紹介されているアヴィ・ローブのノンフィクション『オウムアムアは地球人を見たか?』参照。

 春暮康一『法治の獣』(ハヤカワ文庫JA)★★★★は、「オーラリメイカー」で第7回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞した著者の第2作品集。同作と同じく《系外進出》と呼ばれる未来史シリーズに属し、太陽系外の惑星に生息する異星生物との接触を描く3中編を収める。表題作は、知性を持たないはずなのに法に従って生きる一角獣似の異星動物シエジーの話。彼らの惑星の近傍に人類が建設した円環状のスペースコロニーでは、人間の法律ではなくシエジーの法のみを住民に適用する壮大な社会実験が実施されていた......。巻末の「方舟は荒野をわたる」は、直径100m、高さ20m、重量6万トンの巨大な群体生物が主役。厚さ50センチの透明な膜に包まれたその生物は、内部に蓄えた水の中に数十万種に及ぶ惑星の全生物資源を抱え込んで移動する、生ける〈方舟〉だった......。ユニークな角度から描かれる奇天烈な異星生物群が楽しい。

 以上4冊、いずれも地球外生命とのコンタクトをテーマにしながら、それぞれまったく違う世界を構築しているので、ぜひ読み比べてみてほしい。

 つづいて短編集を3冊。草上仁『大人になる時』(日下三蔵編/竹書房文庫)★★★½は、既刊短編集に未収録の10編+新作2編の全12編。思いきりダークなイヤミス「犬のプレゼント」と、よくあるクローンネタに鮮やかなひねりを利かせた「スカイダイブ」の黒さが冴え渡る。

 ラリー・ニーヴン『デッド・ゲスト・オブ・オナーのスピーチ』(浅井和徳、大串京子、山本さをり訳/はるこん実行委員会)★★★½は、恒例のはるこんGoH短編集(ファン出版)。全4編のうち、表題作は、2058年の世界SF大会の死者ゲストとして、架空のSF作家が冷凍処置から蘇生するファニッシュな短編(2017年発表)。「ミスペック沼の夜」はジェイムズ・ブランチ・キャベルのファンタジーにちなんで命名された植民惑星が舞台の戦争もの。他に〈ドラコ亭夜話〉シリーズの2編、「猥談」と「質量消失」を収録。

 樋口恭介『眼を開けたまま夢を見る』(Kindle版)★★★½は、電子書籍で個人出版された全17編の商業誌未発表作品集。自身のSNS炎上体験を題材にした(推定)「国際道徳基準変動通知」とか、前半に入っている一発ネタのSF系フラッシュフィクション群(「言語機能の契約失効に関する大切なお知らせ」とか「字虫」とか「円盤」とか)も面白いが、白眉は、パワプロに熱中する小学生男子二人組がダイソーでおもちゃのバットとボールを買って初めての"野球"に挑む非SFの「野球」。涙なくしては読めないオタク少年小説の名作だ。

 最後に邵丹『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳 藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』(松柏社)は、海外文学の翻訳とそれが日本の小説に与えた影響について考察する文学論(東京大学而立賞を受賞した博士論文が原型)。後半3分の1はヴォネガット及びSF翻訳の話が軸になり、伊藤典夫、浅倉久志や"翻訳勉強会"の功績が詳細に語られる。なお、同じ著者の『三体』三部作論もネットで読める。

(本の雑誌 2022年7月号)

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●書評担当者● 大森望

書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。

http://twitter.com/nzm

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