ヤマビルに新たな光をあてる子どもたちの研究が素晴らしい!

文=すずきたけし

  • ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記
  • 『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』
    樋口 大良,子どもヤマビル研究会
    山と渓谷社
    1,430円(税込)
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  • 告発 誰も晒せなかったSNSのヤバすぎる闇 (書籍)
  • 『告発 誰も晒せなかったSNSのヤバすぎる闇 (書籍)』
    コレコレ
    宝島社
    1,540円(税込)
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  • 決闘のヨーロッパ史
  • 『決闘のヨーロッパ史』
    浜本隆志,菅野瑞治也
    河出書房新社
    2,585円(税込)
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 小学生のころ、ヤングジャンプで泉鏡花の『高野聖』が読み切りで漫画化されていて、その中でたいそうデッカいヤマビルが木から落ちてきて纏わりつかれる僧の絵が今でもトラウマになっている。樋口大良+子どもヤマビル研究会『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』(山と溪谷社)を書店で見かけたとき、あのときの漫画『高野聖』を思い出した。なんとヒルは木から落ちてはこないのである。本書は三重県四日市にある少年自然の家で二〇一一年から始まった小中学生たちによるヤマビルの研究の模様を記した本。子どもとヒルといえば、映画『スタンド・バイ・ミー』で主人公の少年四人が沼でヒルに出くわして叫ぶシーンが思い出されるが、『高野聖』といいヒルは忌み嫌われる生き物だ(ちなみに『スタンド・バイ・ミー』の原作者スティーヴン・キングの息子はジョー・"ヒル"だ。関係ないけど)。いやあ気持ちわるいですよねヒル。しかし本書のヤマビル研究会に参加した子どもたちは、初めこそ得体の知れないグニョグニョして生き物の血を吸うヤマビルにおっかなびっくりするものの、好奇心には抗うことができずにヤマビルの魅力にとりつかれていく。本書には「ヒルヤスミ」という閑話休題的な子どもたちのヒル作文が随所に挟み込まれるが、これがめっぽうおもしろい。悠太くんの「僕のヤマビル解説」ではこう始まる
"ヤマビルは、とてもかわいい生き物です"と。

 彼らの研究は、決して大人が導くものでなく、彼ら自身で課題を見つけ、自らの足をつかって検証していく。ヒルは「木から落ちてこない」ことや、鹿がヒルの生息域の拡大の原因といった定説にあらたな光を当てていくことに感動すら覚える。

 悠太くんはこうも話す。

"学校の理科の実験では、答えが決まっていて、実際にそうなるかを確かめるだけです。でも、ヒル研では誰にもわからないことを自分たちの手で発見していきます"

 ヒル研って素晴らしい。

 僕はもう十五年ほど山岳渓流でフライフィッシングを嗜んでいるが、これまでヒルというものにお目にかかったことがない。もしかすると気づかぬうちに血を吸われていただけなのかも知れないとちょっとゾッとした。ちなみに本書でヒルを餌にして魚を釣っていたが、フライフィッシングの世界ではすでにヒル(リーチ)を模したフライ毛鉤があったりします。

 とても優秀な小・中学生に触れたあとには、いまや大人たちが気になって仕方がない"Z世代"たるデジタルネイティブ世代の実態が垣間見える、コレコレ『告発 誰も晒せなかったSNSのヤバすぎる闇』(宝島社)。コレコレとは著者であるYouTuberの名前で、YouTubeのチャンネル登録者数一五四万人を超え、ライブ配信でネットでのゴシップや若者たちの相談などを行なっている。とはいえ、それ自体が見せ物として楽しまれているのだけれど。帯には「ネット界の文春砲」との文字が踊る本書は、のんきにFacebookで昼ごはんのラーメンをアップしているオジさん世代には見えていない、SNSでZ世代たちがなにをしているのか、なにが起こっているのかを知る手っ取り早い一冊だ。ネットの現実は十代の若者が悪い大人たちから食い物にされ、また親や友人に相談できず、コレコレのライブ配信で相談する。なかでもイジメはSNSによってひと昔前とは様変わりし、イジメられた者はどこにいても自分のスマホに罵詈雑言や誹謗が届き、昔のように学校から離れればイジメから逃げられるという状況ではなくなっている。十代のSNSはまさに"胸クソ"なのだ。せめて読書が彼らの安全地帯になればと思わずにはいられない。

 浜本隆志・菅野瑞治也『決闘のヨーロッパ史』(河出書房新社)は、映画『最後の決闘裁判』の予習にと読んでみた。中世から近世にかけてヨーロッパでは、神が武器を通じて正義を与え邪悪を懲らしめると信じられていたので、決闘による裁判が主流になっていたという。つまり決闘に勝ったほうが神が正しいと認めたというわけだ。本書は決闘が娯楽へと移り変わり、そしてスポーツへと変化していく様を解説しているが、中でも、二〇二〇年の現代においてもドイツとオーストリアでは真剣を使用した決闘が一部の学生の間で行なわれているという衝撃の事実。しかも体を使って相手の攻撃を避けたりしたら失格という正気の沙汰とは思えないルールで、学生結社の通過儀礼としてかなり野蛮な決闘が現在も行なわれている。

 最後に紹介するのは、勝丸円覚『警視庁公安部外事課』(光文社)。テレビドラマにもなった麻生幾原作の『外事警察』で登場した、外国による対日工作やスパイ活動、国際テロリズムなどを捜査する警視庁公安部外事課。二〇〇〇年代初めから配属され一貫して外事畑を歩んだ著者による外事警察の内幕を記した本書。日本における各国の諜報活動では、ロシア、中国、北朝鮮、韓国、アメリカ、イスラエル、オーストラリアなどのほか、ヨーロッパ、東南アジア諸国などが活動していて、ロシアは本格的な訓練を受けた諜報員が活動しているが、中国の諜報員は日本に住む中国人のエリートビジネスマンや教職に就く者を選別し諜報活動に従事させるという。オーストラリアの諜報活動は自国に対する日本人の印象をよりよくすることという、なんか健気で応援したくなる。そのほか、「公安あるある」では、"ウ〇コを漏らす訓練?"というにわかには信じがたい「あるある」が登場。拷問する側のテンションがダダ下がりになるというがホンマかいな。

(本の雑誌 2022年1月号)

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●書評担当者● すずきたけし

フリーライターとかフォトグラファー。ダ・ヴィンチニュース、文春オンラインなどに寄稿。あと動画制作も。「本そばポッドキャスト休憩室」配信中。本・映画・釣り・キャンプ・バイク・温泉・写真・灯台など。元書店員・燈光会会員・ひなびた温泉研究所研究員

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