アート&デザイン200年の革命的表現を見よ!

文=すずきたけし

  • アート&デザイン表現史 1800s-2000s
  • 『アート&デザイン表現史 1800s-2000s』
    松田行正
    左右社
    4,950円(税込)
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  • 日本の「ゲームセンター」史 娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ
  • 『日本の「ゲームセンター」史 娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ』
    川﨑 寧生
    福村出版
    5,060円(税込)
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  • [フォトミュージアム]世界の美しい灯台
  • 『[フォトミュージアム]世界の美しい灯台』
    デイヴィッド・ロス,秋山 絵里菜
    原書房
    4,180円(税込)
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  • 裸の大地 第一部 狩りと漂泊 (裸の大地 第 1部)
  • 『裸の大地 第一部 狩りと漂泊 (裸の大地 第 1部)』
    角幡 唯介
    集英社
    1,980円(税込)
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 松田行正『アート&デザイン表現史 1800s2000s』(左右社)を書店で見かけたとき、オーラをまとった本の出で立ちが目にズギャンと飛び込んできた。ちょっぴり懐に厳しい価格ながらも、全頁フルカラーで図版九割ととても目に優しくて美しい佇まいで、パラパラとページをめくっただけですぐに本書を抱えてレジに並んでいた。一八〇〇年代から二〇〇〇年代にかけて世界的に革命をもたらした表現をアートやデザインで解説した本書。ページをめくると冒頭から日本の劇画を紹介していたのでコミックまで網羅しているのかと思いきや、小林永濯の「道真天拝山祈祷図」という一九世紀の日本画家による絵であった。また一九一四年、第一次世界大戦が勃発した年になると"イギリスはキミがほしい"というコピーとともに「指差す」構図のイギリスの新兵募集のリクルートポスターが大成功。本書はこれを「脅迫系リクルート・ポスター」と呼び、この構図はアメリカや共産圏などで流行する。同じ年には、それまでデザインの常識にはなかった「文字を傾ける」という表現が登場。違和感と迫力で市民権を得て、「新しいタイポグラフィの先駆のひとつ」と称賛される。グラフィックデザイナーの杉浦康平氏は、「本は小宇宙である」という発想から地球の地軸の角度を当てはめたという。

 文化史の本としてもう一冊紹介したいのが川﨑寧生『日本の「ゲームセンター」史 娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ』(福村出版)だ。ゲーム史本というのはここ数年いくつか登場していて、小山友介『日本デジタルゲーム産業史 増補改訂版』(人文書院)や、中川大地『現代ゲーム全史』(早川書房)などがあり、ゲーム専門誌の編集であった石井ぜんじの『ゲームセンタークロニクル』(スタンダーズ)は類書としても近い。博士論文を書籍化した本書は、ゲームセンターの"場"に焦点を絞り、ゲームセンターの誕生から現在までの社会的役割と課題や問題をまとめている。一九七四年生まれでゲーセン最盛期にドンピシャの小学三年生だったすずきは、本書の「子供向けゲームコーナー 駄菓子屋や玩具屋に広がったゲームプレイの形」の章を食い入るように読んだ。もちろん元が博士論文なので郷愁は抑えられてはいるものの、駄菓子屋とビデオゲームという関係性だけで既にノルタルジーを掻き立てられる。本書では当時の子供たちのゲームプレイの目的について"クリアする""魅せる""スコア稼ぎ"などが挙げられているが、はたと自分はなにが目的でゲームをプレイしていたのか?と考え込んでしまった。当時を振り返ってみると、学校でゲームを禁止されていたので、常日頃から先生に密告されないかとビクビクしながら登校していたことを思い出し、案外それが快感だったことに気づいた。また、一九八六年には二万六五七三店舗あったゲームセンターが二〇二〇年には三九三一店舗にまで減少していることにも驚いた。ゲームセンターという娯楽施設の役割は終わりを迎えているのかもしれない。

 役割を終えているといえば灯台である。デイヴィッド・ロス『世界の美しい灯台』(秋川絵里菜訳/原書房)は久々の灯台本である。灯台は美しい。使命感を帯びた建築の潔さ、人里離れた岬の突端にポツンとそびえる孤高の輝き......そこへきて、近年はGPSなどの技術発達により灯光による航路標識である灯台の役割が終わりつつあるという儚さ......。本書で紹介されている世界の灯台の中には既に役割を終えて廃灯となり保存されているものがあるものの、現役の中で最も古いのはフランスのコルドゥアン灯台で、なんと一六一一年に点灯を開始してから現在まで現役なのだ。もちろん日本の灯台も掲載されており、石垣島の御神崎灯台、北海道の神威岬灯台と能取岬灯台の三灯台が紹介されている。ということでなにを隠そうこのすずき、灯台を含めた航路標識の普及を図る社団法人「燈光会」の会員なのである(昨年の夏からだけど)。それまで立ち寄りはしていたものの、とくに深い興味もなかった灯台であったが、昨年にふと立ち寄った青森の尻屋埼灯台が明治九年(一八七六年)に建てられた歴史的な建築物であることを知り、一〇〇年以上経っても現役で稼動しているその灯台に魅せられた。以降、旅先で眺める風景に灯台という新たな視点を得て、僕は全国の灯台を巡って写真に収めている。

 新たな視点を発見したといえば、探検家から漂泊の極地旅行家、そして狩猟者への覚醒を綴った角幡唯介『狩りと漂泊』(集英社)が面白い。今回は漆黒の『極夜行』から打って変わって白夜の極地行だ。前著『狩りの思考法』(アサヒ・エコ・ブックス/清水弘文堂書房)では文明社会における未来予測の安寧と極北での刹那的思索との対比が印象的ではあったが、本書では極北での徒歩漂泊の実践によって、それまで見ていた"土地"の風貌が刷新され、極地探検家から漂泊する狩猟者に著者が覚醒するその瞬間を生々しく見せてくれる。角幡唯介が記す探検記・冒険記の面白さは、本人が日常とかけ離れた体験をしているのにもかかわらず、読者が自分のことのように置き換えて感じられるその思索の普遍性にある。到達至上主義の問題や目的をもつことで見失う風景や体験などは、厳しい極地行で紡がれていく言葉ながら、その意味は私たちが日常で見過ごしていることであると気づかさせてくれる。本書は探検記であるにもかかわらず、その読書体験は非日常よりも日々の自分を見つめることにつながるのだ。とはいえ、空腹に悩まされ相棒の犬と食料を奪い合う後半は笑いながら読んでしまった。

(本の雑誌 2022年6月号)

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●書評担当者● すずきたけし

フリーライターとかフォトグラファー。ダ・ヴィンチニュース、文春オンラインなどに寄稿。あと動画制作も。「本そばポッドキャスト休憩室」配信中。本・映画・釣り・キャンプ・バイク・温泉・写真・灯台など。元書店員・燈光会会員・ひなびた温泉研究所研究員

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