見たくないけど見たい『禁断の世界』が最高に面白い!

文=すずきたけし

  • 怪異と遊ぶ
  • 『怪異と遊ぶ』
    一柳 廣孝,大道 晴香,怪異怪談研究会,一柳 廣孝,大道 晴香
    青弓社
    2,640円(税込)
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  • オウムアムアは地球人を見たか?: 異星文明との遭遇
  • 『オウムアムアは地球人を見たか?: 異星文明との遭遇』
    アヴィ ローブ,松井 信彦
    早川書房
    2,750円(税込)
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  • 陰謀論入門: 誰が、なぜ信じるのか?
  • 『陰謀論入門: 誰が、なぜ信じるのか?』
    ジョゼフ・E・ユージンスキ,北村京子
    作品社
    2,640円(税込)
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  • 科学で解き明かす 禁断の世界
  • 『科学で解き明かす 禁断の世界』
    エリカ・エンゲルハウプト,ナショナル ジオグラフィック,関谷 冬華
    日経ナショナルジオグラフィック社
    2,420円(税込)
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 最近の心霊動画はすごい。防犯カメラの映像に映った"なにか"や、ひとりでに椅子が動いたり、ドアが閉じたり開いたり、誰かが覗いていたりと、けっこう気軽に怪異を見ることができる。それも際限なく。しかし数こそあれどその出来は玉石混交ピンからキリまで。やはりゾッとさせる動画にはキラリと光るセンスを感じるのだ。センスって本当に大事。と、怪異と気軽に触れ合える時代をゾクゾク感じながら読んだのが一柳廣孝・大道晴香編著『怪異と遊ぶ』(怪異怪談研究会監修/青弓社二四〇〇円)。"怖いもの見たさ"の言葉があるように、本書は「怖い」は「楽しい」という視点で十人それぞれが怪異を論じている。例えば「皿屋敷」。「いちま〜い、にま〜い」と武家の家宝の皿を割って殺されたお菊さんの幽霊が、夜な夜なお皿の枚数を数える有名な怪談だが、この怪談は「型」が明確なために古くから「怖さ」よりもパロディとして遊ばれ、もはやお菊さんはコメディエンヌとなっているという。このあたりは現代でも『リング』の「貞子」や映画『呪怨』の「伽椰子」&「としお」のように"キャラ"として扱われている様と同じである。また一九八〇年代に流行した降霊術「こっくりさん」は明治時代に西欧から伝わり、初期のものはかなり遊戯性が高かったという。しかし一九八〇年代には「恐怖」の要素が強まり、当時のオカルトブームと相まって学校での禁止令などからタブーとされる。しかし商業コンテンツとして「恐怖」を脱色した「キューピッドさん」が装いも新たに登場する。「恐怖」は人を遠ざける一方で、その内に「娯楽」を抱いていることを実感できる一冊だ。

 お次は異星人である。

 アヴィ・ローブ『オウムアムアは地球人を見たか? 異星文明との遭遇』(松井信彦訳/早川書房二五〇〇円)は、二〇一七年に太陽系を通過した天体「オウムアムア」が実は異星文明によってつくられた人工物ではないか?という大胆な仮説を記した本だ。「斥候」や「偵察兵」という意味のハワイ語「オウムアムア」と名づけられたこの天体は、人類が初めて発見した恒星間天体(星間空間に存在していて、恒星などの天体に重力的に束縛されていない天体)で、"光をよくはね返し、妙な自転を見せ、円盤状の可能性が高く、太陽の重力だけで説明できる軌道から逸れていた"という、ゾクゾクするような仮説は実にロマンチックだ。とはいえ、主流の研究との距離感や、この仮説に対してのアカデミック界隈の冷たい眼差しを敏感に感じ取っている著者の心情も見て取れて、異星文明を持ち出すって結構大変なのねと感じられる。

 さて、怪異、異星人とくればお次は陰謀論である。

 ジョゼフ・E・ユージンスキ『陰謀論入門 誰が、なぜ信じるのか?』(北村京子訳/作品社二四〇〇円)は陰謀論について学んじゃおうという本である。陰謀論とはなにか? なぜ信じてしまう人がいるのか? インターネットによって陰謀論は増加したのか? 陰謀論は危険なのか? などなど、実例とともに解説している。とくに興味深かったのが「四章 陰謀論の心理学と社会学」だ。"認知的閉鎖欲求"と呼ばれるものは、不確実な物事への不寛容から「単純な答え」である陰謀論を受け入れる可能性が高いという。また"意図性バイアス"は、結果から出発して動機、行動と逆にたどっていくために、誰かが意図的にそれを起こしたに違いないと考える思考。そして社会学的要因として陰謀論は"集団"の対立から始まるという。集団は「男性」「女性」や「国」「人種」「階級」「職業」「党派」などさまざまな差異に基づき、人々がどの陰謀論を信じるかは所属する集団によって決まる。自分の所属する集団への攻撃は自分自身への攻撃と受け取り、敵対する集団に対しては偏見に満ちて悪意があると考えがち。そして自分の集団への利益をもたらすことはしばしば正義と混同されるという。ワクチン反対が陰謀論と容易に結びついている現在においてぜひ一読をお勧めしたい。

 最後はエリカ・エンゲルハウプト『科学で解き明かす 禁断の世界』(関谷冬華訳/発行日経ナショナル ジオグラフィック社/発売日経BPマーケティング二二〇〇円)を紹介したい。ナショナルジオグラフィックの人気ブログ『Gory Details』を書籍化した本書は、世の中の"見たくないけど見たい!""知りたくないけど知りたい!"という事柄をレポートしている。たとえば「頭を取り換える」では、まさにそのまま、生きた人間の頭を別の体と取り替えることは可能か?ということをレポートしている。歴史的に犬で(なんということだ!)実験した実例とともに、理論上可能と豪語するマッドな外科医と、難病により身体を取り替える手術をしようとする患者の話はかなりスリリングだ。また虫系の話はかなりヤバイ。二〇一〇年に十九歳の少年がふざけてナメクジを飲み込んだ。数日後足に痛みを感じ、やがて昏睡状態に。一年後意識が戻った時には首から下が動かなくなっており、そのまま二〇一八年に彼は亡くなった。原因はナメクジについていた広東住血線虫という寄生虫だった。この寄生虫は人間の脳内に入り込むことができ、場合によっては脳が回復不能な損傷を受けるという。怖いですね〜恐ろしいですね〜。そのほか、身の毛がよだちながらもゾクゾクたのしいエピソード満載で、今のところ本年ナンバーワンの面白さ。著者は子供の頃に歯科医院が捨てたゴミの山から石膏でできた患者の歯型を拾い集め、部屋の窓辺に歯型を並べ、「月明りに光りながら笑っているような門歯を眺めながらくつろいだ」という。どうですかこのセンス・オブ・ワンダー! やはりなにごともセンスというのは大事なのだ。

(本の雑誌 2022年7月号)

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●書評担当者● すずきたけし

フリーライターとかフォトグラファー。ダ・ヴィンチニュース、文春オンラインなどに寄稿。あと動画制作も。「本そばポッドキャスト休憩室」配信中。本・映画・釣り・キャンプ・バイク・温泉・写真・灯台など。元書店員・燈光会会員・ひなびた温泉研究所研究員

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