"光の巨匠たち"のインタビュー集が面白い!

文=すずきたけし

  • マスターズ・オブ・ライト[完全版]
  • 『マスターズ・オブ・ライト[完全版]』
    デニス・シェファー,ラリー・サルヴァート,高間賢治,宮本高晴,ネストール・アルメンドロス,ジョン・アロンゾ,ジョン・ベイリー,ビル・バトラー,マイケル・チャップマン,ウィリアム・フレイカー,コンラッド・ホール,ラズロ・コヴァックス,オーウェン・ロイズマン,ヴィットリオ・ストラーロ,マリオ・トッシ,ハスケル・ウェクスラー,ビリー・ウイリアムズ,ゴードン・ウイリス,ヴィルモス・スィグモンド
    フィルムアート社
    3,850円(税込)
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  • 社長たちの映画史 映画に賭けた経営者の攻防と興亡
  • 『社長たちの映画史 映画に賭けた経営者の攻防と興亡』
    中川 右介
    日本実業出版社
    2,420円(税込)
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  • 調べる技術: 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス
  • 『調べる技術: 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』
    小林 昌樹
    皓星社
    2,200円(税込)
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"マスターズ・オブ・ライト"=「光の巨匠たち」。なんと神々しいネーミングなのだろう。デニス・シェファー、ラリー・サルバート編著『マスターズ・オブ・ライト[完全版] アメリカン・シネマの撮影監督たち』(髙間賢治、宮本高晴訳/フィルムアート社)は、映画史に残る名作を手がけた撮影監督たちのインタビュー集だ。一九八八年に刊行された際には割愛された四名のインタビューが今回収録され完全版となって復刊した。いつの時代も監督がクローズアップされる映画だが、それと同様に、もしかすると完成された作品において監督の能力以上に映画の出来を左右するのが撮影監督だろう。撮影監督は監督が作品で描こうとするイメージをフィルムに定着させる全責任を負っているのである。たとえば『明日に向って撃て!』(一九六九)の撮影監督コンラッド・ホールは、それまでの映画に見られた鮮やかな彩度に対して反感を持ち、脱色し、色彩を抑え、カラーを壊すよう腐心した。本作はそれまでのアメリカ映画を変えたアメリカンニューシネマの潮流を代表する一本であるが(劇中音楽「自由への道」は先ごろ亡くなったバート・バカラックによるもの)、映画でいうところの"ルック"もまた新しい映画だった。色彩については『ゴッドファーザー』(一九七二)の撮影監督ゴードン・ウィリスの話も興味深い。本作を観たことがある人ならば明暗の深みとリッチな画を思い浮かべるが、そこにはイエローに近い琥珀色(アンバー)をライティングで加えているのである。また『ローズマリーの赤ちゃん』(一九六八)でウイリアム・フレイカーは、劇中に登場するアパートの一室ごとにライティングを変え、台所は陽気で明るく、赤ちゃんの部屋は沈んだ感じにするなど工夫を凝らした。撮影監督はまさにその"光"によって物語を作り上げているのである。フレイカーは『ローズマリーの赤ちゃん』の監督ロマン・ポランスキーからレンズを変えて撮り直してくれと言われ、指定されたレンズで撮影するとぴたりと決まったといい、ポランスキーの監督としての力を評価している。撮影監督から見た監督の力量を推し量る視点もまた面白い。

 中川右介『社長たちの映画史 映画に賭けた経営者の攻防と興亡』(日本実業出版社)は、ありそうで無かった映画会社の社長を軸に映画史を眺めた一冊。現在の日本の映画は製作委員会を募りプロダクションなどが製作し、撮影所を借りて撮影する。完成した映画は配給会社を通じて全国の映画館にかけられる。しかし一九七〇年代までの日本映画界は、映画会社自らが映画を製作し、自前の撮影所で撮影し、監督や俳優も専属で、配給も自前の直営映画館で行っていた。松竹、東宝、東映のほか日活、大映など各映画会社の社長たちは、映画に夢を持つ者、ビジネスとして見る者、出世の足がかりと見ている者など、さまざまな思惑が渦巻く人間臭さが強烈だ。そして映画界という世界が閉じられた狭いものである負の側面も見えてくる。戦後の映画産業が映画会社六社、すなわち六人の社長により支配されているのである。なかでもスリリングなのが映画が斜陽へと向かうテレビの登場前夜からだ。一九五八年には年間入場者数が十億人だった(日本人が年間に一二・一回も映画館に行っていた)映画は娯楽の王様として我が世の春を謳歌した。しかしテレビの登場によりたった五年で年間入場者数はピークから半分の五億人となってしまう。日本映画界絶頂期に結ばれた、各映画会社間での俳優や監督の移籍や協力を制限する悪名高き"五社協定"に、数々の名優や監督が犠牲となった。映画界が危機に瀕しているにも関わらず各社は団結せず、この協定により俳優をただのコマとしてしか見ていない幹部たちには憤りを感じずにいられない。そんな五社協定を突き崩すべく立ち上がった三船敏郎率いる三船プロと石原裕次郎の石原プロのエピソードは、まるで映画の如く爽快な結末に胸が熱くなる。

 映画やドラマの記事を書くときに苦労するのが資料集めである。Googleで検索すればと思われるかもしれないが、記事を書く以上はネットで調べられるものではなく、文献などに当たりたい。そんな資料探しに持ってこいなのが小林昌樹『調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』(皓星社)である。国会図書館で長年にわたり利用者の調べ物相談(レファレンス)に従事した著者による調べ方のコツ(チップス)である。検索とひと言にいっても、検索には、検索内容に合ったデータベースを知っておかないと話にならない。本書ではそうした"専門ツール"の紹介から、「知らないことを知るための」"アタリ"のつけかたまで、調べる手順と優先順位がわかる。また明治大正から昭和前期までは関東大震災や戦争などでレファレンスの難易度が上がるというのも興味深い。個人的にテレビや映画の記事を書く際はテレビ番組誌や芸能雑誌などからインタビューや特集を探すのに苦労するのだが、そんな時に参考にしたいのが雑誌記事索引のチップスである。雑誌記事索引(雑索という)は、国会図書館の「元祖雑索」、本書版元の皓星社が運営する「ざっさくプラス」、そのほか「マガジンプラス」や「Web OYA-bunko」など数多くのツールが存在する。なかでもアイドル研究では、大宅文庫に行く途中にあるアイドル専門古書店カルチャーステーションのサイトが人物に特化した記事索引の代替DBとなっているというのは、その筋の人たちには貴重な情報ではないだろうか。資料探しに苦労している人には必携の一冊である。

(本の雑誌 2023年4月号)

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●書評担当者● すずきたけし

フリーライターとかフォトグラファー。ダ・ヴィンチニュース、文春オンラインなどに寄稿。あと動画制作も。「本そばポッドキャスト休憩室」配信中。本・映画・釣り・キャンプ・バイク・温泉・写真・灯台など。元書店員・燈光会会員・ひなびた温泉研究所研究員

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