身の回りの"機械"の生い立ちとしくみを探る!

文=すずきたけし

  • 今と未来がわかる 身近な機械 しくみと進化 (ビジュアル図鑑)
  • 『今と未来がわかる 身近な機械 しくみと進化 (ビジュアル図鑑)』
    森下信
    ナツメ社
    1,760円(税込)
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  • 私たちの生活をガラッと変えた物理学の10の日
  • 『私たちの生活をガラッと変えた物理学の10の日』
    ブライアン・クレッグ,東郷 えりか
    作品社
    2,640円(税込)
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  • 創造論者vs.無神論者 宗教と科学の百年戦争 (講談社選書メチエ)
  • 『創造論者vs.無神論者 宗教と科学の百年戦争 (講談社選書メチエ)』
    岡本 亮輔
    講談社
    1,980円(税込)
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  • UFO vs. 調査報道ジャーナリスト: 彼らは何を隠しているのか
  • 『UFO vs. 調査報道ジャーナリスト: 彼らは何を隠しているのか』
    ロス・コーサート,塩原通緒
    作品社
    3,520円(税込)
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「へぇ~」と声に出し続けてしまった森下信『今と未来がわかる 身近な機械 しくみと進化』(ナツメ社)は、冷蔵庫や電子レンジ、テレビや照明、洗濯機からパソコン周辺に携帯電話、そして車や自転車の乗り物まで、私たちの身の回りにある"機械"の生い立ちからそのしくみをビジュアルで解説した一冊。高度経済成長期にテレビ、洗濯機と並んで「三種の神器」と呼ばれた冷蔵庫は、なんとなんと今から一〇〇年以上前の一九一八年にアメリカで開発されたという。日本では一九三〇年に芝浦製作所(現東芝)が初の国産の冷蔵庫を製造し、一九五二年に一般家庭向けに発売となる。冷蔵庫のしくみは、ガス圧縮方式の場合では冷媒という物質が気体になるときに周囲の気化熱を奪って庫内を冷やす。また「照明」は、あまりに当たり前すぎて意識すらしていなかった「明かり」の歴史について改めて知ることができて面白い。とくにLED(発光ダイオード)は、一九六二年に赤色LED、一九七二年に黄緑色LEDが開発されていて(だから昭和の家電のディスプレイは赤や黄色の表示だった)、一九八九年には赤﨑勇と天野浩が青色LEDを開発。この青色LEDの開発により、色の三原色が揃ったことですべての色をLEDで発光できることになったことから、二〇一四年に二人にノーベル賞が授与されている。また同年には高輝度青色LEDの量産技術を開発した中村修二もノーベル賞を受賞している。

 便利な世の中になった現代において、そもそも我々の生活を一変させた技術はだれが発明したのだろうか? ブライアン・クレッグ『私たちの生活をガラッと変えた物理学の10の日』(東郷えりか訳/作品社)は、そうした生活を一変させる元となった科学的発見が起こった一日をピックアップして、物理学の歴史をめぐる。冷蔵庫の技術は、一八五〇年二月一八日にルドルフ・クラウジウスが発表した「熱の動力について」があるからこそ実現した。クラウジウスは熱力学第二法則において「熱が低温の物体から高温の物体に移動するには、同時に何か関連した別の変化がおこらなければならない」と表現した。この理論によって冷蔵庫は熱を庫内から別の場所へ移動させることで冷やすことができるのである。照明に革命をもたらしたLEDはジェームズ・R・ビアードとゲイリー・ピットマンによって一九六二年八月八日に出願された。LEDの重要性は、従来の白熱電球と比較すると理解しやすい。それまでの白熱球は消費する電気エネルギーのわずか四%しか光へと変えられていなかったのに対し(残りは熱として放出していた)、LEDは電気エネルギーの五〇%以上を光に変換する。液晶テレビやパソコンのモニター、携帯電話の画面など実に様々なところで使用されている。百年以上にわたり照明に白熱球が使用されてきたことを思えば、LEDは革命と呼ぶにふさわしい。本書は物理学によって歴史が変わった"あの日"を巡る知的興奮に満ちている。

 しかし科学はいま、我々が知らないところで激しい戦いを繰り広げていることをご存知だろうか。岡本亮輔『創造論者vs.無神論者 宗教と科学の百年戦争』(講談社選書メチエ)は、科学と宗教の戦いに密着した一冊。キリスト教原理主義者と呼ばれる、聖書が絶対の真実だとする創造論者(クリエイショニスト)と、科学を元にする無神論者(エイシスト)との論争は以前からあったものの、両者の戦いは二〇〇〇年代以降に激化しているという。一九二五年にテネシー州デイトンで、かの有名なスコープス裁判が騒動を巻き起こす。税金が投入された教育機関では聖書が語る神の創造を否定し、人間が下等な生物の子孫だと教えることを禁じていたバトラー法に違反したということで、高校で進化論を教えたジョン・トマス・スコープスが告発された裁判である。当初は軽犯罪として裁かれる単純な裁判であったが、事は次第に聖書の無謬性についての論争へと発展。伝説の弁護士クラレンス・ダロウと、原理主義者で大物政治家である検察側のウィリアム・ジェニングス・ブライアンの舌戦はとてもエキサイティングである。創造論者にとって聖書が真実であることは科学的に無理があるのは自覚しているようで、ついには創造論を疑似科学で武装するという、インテリジェント・デザイン論(ID論)が登場。「聖書のための科学」を掲げ、どんな奇異な現象も神がデザインしたとして解釈する無敵のロジックを作り上げる。それに対して登場したのが『利己的な遺伝子』で知られるリチャード・ドーキンスを筆頭とした、四騎士と呼ばれる新無神論者たち。しかしかれらの反転攻勢はキリスト教原理主義者だけでなく、他の宗教にも及んでいくのであった。

 最後はロス・コーサート『UFOvs.調査報道ジャーナリスト 彼らは何を隠しているのか』(塩原通緒訳/作品社)。先日、アメリカ国防省はUFO(未確認飛行物体)とUAP(未確認空中現象)の目撃情報を一般公開するホームページを立ち上げた。またメキシコ議会では砂糖菓子みたいな宇宙人のミイラが公開された。世の中どうなっているんだ?と思ったら本書を読んで欲しい。どうやらアメリカ政府や軍、そのほかの国もUFOやUAPについてマジで調査しようと意気込んでいるようなのである。著者は目撃者や関係者に取材し、その詳細を記しているが、その取材対象はパイロットや軍関係者など、身許のたしかな人物ばかりで、みなが地球上の技術ではない「人工物」を見たと証言している。ああ、本当になにかが存在しているのかもしれないと思えてくる。近年まれにみる素晴らしいUFO本である。

(本の雑誌 2023年12月号)

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●書評担当者● すずきたけし

フリーライターとかフォトグラファー。ダ・ヴィンチニュース、文春オンラインなどに寄稿。あと動画制作も。「本そばポッドキャスト休憩室」配信中。本・映画・釣り・キャンプ・バイク・温泉・写真・灯台など。元書店員・燈光会会員・ひなびた温泉研究所研究員

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