第266回:君嶋彼方さん

作家の読書道 第266回:君嶋彼方さん

2021年に第12回〈小説 野性時代 新人賞〉を受賞した『君の顔では泣けない』(応募時のタイトルは「水平線は回転する」)が話題となり、映画化も決定した君嶋彼方さん。ホラー文庫から広がっていった読書遍歴は? ドラマ好き、映画好きでもある君嶋さん、好きな映像作品や脚本家、監督についても教えてくださいました。

その2「中2からドラマにはまる」 (2/7)

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  • 『昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫 き 7-7)』
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    河出書房新社
    660円(税込)
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  • 『カバチタレ!(1) (モーニングコミックス)』
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――読書と写真以外に、なにかはまったことはありますか。

君嶋:ドラマを相当な数見ていました。放送時間がかぶる時は、ひとつはリアルタイムで見て、ひとつは録画して見るという感じで、毎クール、ドラマの1話目は全部絶対に見るというのを自分に課していました。中学2年生くらいからブログにドラマの感想も書いていました。クールの変わり目には、次のクールにやるドラマの脚本家や出演者を一覧にしたりして(笑)。同世代でドラマを見ている人は少なくて、主婦の人がコメントをくれて交流したりしていました。次第に更新頻度は減っていきましたが、大学を卒業するまで続けていました。

――ドラマを見る時の主なポイントはどこだったのでしょう。役者なのか、脚本なのか...。

君嶋:役者ではあまり見ていなかったです。基本は脚本家で見ていることが多かったですね。第1話で面白くなさそうだなと思っても、どう転がるか分からないから2話3話と見ていって、やっぱり面白くなさそうだなと思うものから順に切っていっていました。たぶん、当時のドラマのタイトルを聞いたらだいたい思い出せます。

――最終回まで見た、面白かったドラマって何ですか。

君嶋:いちばん好きなドラマを訊かれたら「すいか」と答えています。僕が中学生の頃に放送されていたドラマで、木皿泉さんが脚本です。設定自体は地味で、女の人たちがひとつの下宿に集まって、という話で。売り出し中のイケメンとかアイドルが出ているわけでもないし、ほとんど何も起こらないし、正直最初はそれほど食指が動かなかったんです。でも見ていくうちにどんどん面白くなっていって。台詞とか感情の動かし方がうまくて、心が揺さぶられるんですよね。
木皿泉さんの脚本では、「野ブタ。をプロデュース」もすごく好きでした。「すいか」の派手じゃないところが好きだったのに今度はアイドルが主演で、「ああ、狙いにいったんだな」と思ったけれど、見たらめちゃくちゃ面白かった。地上波の連続ドラマは他に「セクシーボイスアンドロボ」や「Q10」を書かれていて、それは全部見ました。BSのドラマだったので僕は見られなかったんですが、『昨日のカレー、明日のパン』は原作小説を読みました。

――脚本家は重要ですよね。

君嶋:そうですよね。でも、僕の周囲ではドラマでも映画でも、監督や脚本で選んで見るという人が少ないんですよね。漫画や小説は作者で選ぶ人が多いのに、ドラマとか映画になるとキャストとか設定で判断する人が多いのが不思議だなと思っています。

――この人の脚本だったらチェックする、という方は。

君嶋:森下佳子さん。僕はたぶん、「白夜行」から入りました。「JIN」や少し前にやっていた「大奥」など、森下さんの脚本は傑作揃いです。
それと大森美香さん。僕は「カバチタレ!」から入りました。「不機嫌なジーン」もよかったし、「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」も。会話のテンポとか、心の声とかがすごく面白い方なんですよね。ストーリーも伏線というか、ここでそれをこう繋げてくるのか、みたいなことをする。「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」は学校の話ですけれど、授業の内容をストーリーの流れに絡めていて、そのあたりがすごく上手だなと思いながら見ていました。

――原作のあるドラマを見て気に入った場合、原作の小説や漫画もチェックしますか。

君嶋:ものによります。ドラマと原作で設定が違ったりすると、読まなくてもいいかなという感じでした。たとえば「カバチタレ!」は、ドラマだと常盤貴子さんと深津絵里さんですが、漫画の『カバチタレ!』は男の人2人の話なんですよ。

――女性の脚本家さんばかりなのはたまたまですかね?

君嶋:気にしていなかったけれど、言われてみるとそうですね。好きな映画監督は男性が多いかもしれません。「嫌われ松子の一生」や「告白」の中島哲也さんとか。園子温さんは、「愛のむきだし」の満島ひかりさんと安藤サクラさんの演技に衝撃を受けましたし、「紀子の食卓」の吉高由里子さん、「ヒミズ」の二階堂ふみさんの演技もすごかった。是枝裕和さんも好きです。「誰も知らない」から入って、いちばん好きなのは「歩いても 歩いても」です。大きな物語は起きないけれど、ディテールの細かさとか、役者さんの演技が素晴らしくてぐっときました。

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