『ヤンキーと地元』打越正行

●今回の書評担当者●HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎

「なんで大阪弁しゃべらへんの?」
と言われたことは一度や二度ではありません。
大阪生まれで大阪育ちの私ですが、標準語を話す人と会話する際は標準語になります。その方が「通りがいい」と感じるからです。私自身、大阪弁にこだわらないということもあります。
しかし、大阪を地元とする人にとっては、大阪出身者が標準語を話すことに違和感を持つようです。ゆえに「なんで?」と聞くのです。ふつうは大阪弁しゃべるやん、と。
そういうところだよ、と思いながら「なんでやろなあ」と答えるのみです。

『ヤンキーと地元』は、著者の打越正行さんが社会学の調査方法のひとつである参与観察として、沖縄の暴走族、そして建設会社に加わり、地元社会を内部から見つめた記録です。

きっかけは、沖縄で大学生活を送り始めた打越さんが、コンビニの駐車場でたむろする少年たちの酒盛りに偶然参加したことでした。彼らから「大学も、高校も、一部の人間のためにつくられた場所で、しらけた出来レースが展開される場所でしかない」と聞かされ、自らの無知を思い知らされます。大学院に進学した打越さんは以下のように思いました。

"わからないなら、わかる人に話を聞かなければなにも始まらない、と思うようになった。話を聞かせてもらうには、相手に失礼のないよう信頼関係を築かなくてはならない。そのための方法が、私にとっては参与観察だった。"

ここから、沖縄の暴走族や元暴走族たちと、十年以上にわたる信頼関係を築き上げます。

打越さんは参与観察として、レンタルした原付で沖縄のメイン通りである国道58号線を舞台とした暴走に加わり、十代の少年たちから私服警官と疑われつつも、「ナンパしに行くから一緒に来い」と誘われたり、地元の話を聞かせてもらったりします。少年たちとの関係はどんどん深まっていきます。
それには打越さんの「パシリになるという調査方法」が効果的に働いた面が強くあります。

"たとえば、カラオケで先輩たち(といっても私より年下だが)がいつも歌っている曲を予約し、サビ以外は後輩が歌って、サビになると先輩にマイクを渡すとか、キャバクラに行ってお気に入りの銘柄の泡盛を、先輩の酔い加減に合わせてつくり、いつもの下ネタで場を盛り上げる―。"

これがパシリです。鉄の上下関係を持つ暴走族において、この技能は彼らから信頼を得ることと、調査を進めることに特別に役立ちました。

そして暴走族という「晴れの舞台」以外の時間を彼らはどう過ごしているのか。それを知らないことに気付いた打越さんは、彼らの紹介によって建設会社で働きはじめます。地元の先輩と後輩の暗黙のルール、建築現場での上手な振舞い方、社長が語る歴史など、興味深い話が書かれています。特に、一見理不尽に見える先輩後輩の上下関係に潜む、ある程度の合理性を発見するところは唸らされました。

この本の中には暴力が頻繁に現れます。親から殴られ、後輩を殴り、女を殴る男たちが出てきます。また副題にもあるように、風俗経営者への聞き取り内容や、ヤミ仕事に手を染めた知り合いの話も出てきます。
暴力を正当化することはできません。しかし、自己責任という言葉でなにか解決したような気になることも正しい態度ではないと思います。
わからないことを、わかろうとすること。そこからしか何も始まらないのです。

彼らの環境は、沖縄が押し付けられた多大な負担と無関係ではありません。しかし、彼らは沖縄だけに存在する特殊な人びとでもありません。「地元」は日本各地に存在しています。顧みられることがなかっただけ、言及されなかっただけなのです。
この本は、"沖縄で出会ったヤンキーの拓哉は、「仕事ないし、沖縄嫌い、人も嫌い」と吐き捨てるように言った"という文章から始まります。沖縄が持つ、ひとつの側面が強烈に焼き付けられた言葉だと思います。

この本で共同研究者として記載された上間陽子さんも、沖縄で社会学の調査を行っています。沖縄の女性たちから聞き取りを行う上間さんの調査から、また別の側面が見えてきます。

つづく

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HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
大阪生まれ、沖縄在住。2006年から書店勤務。HMV&BOOKSには2019年から勤務。今の担当ジャンルは「本全般」で、広く浅く見ています。学生時代に筒井康隆全集を読破して、それ以降は縁がある本をこだわりなく読んでみるスタイルです。確固たる猫派。