WEB本の雑誌

第1回

 えー、これまで「二人目の出産」というタイトルで、赤ん坊と小学生の2児の子育てについてあれこれ書かせていただいていたのですが。あのミギャミギャと子猫のような声で泣く、背骨が入ってないんじゃないかと思うほどぐんにゃりした赤ん坊も、今やイタズラ盛りの2歳児。思い出しただけでも下腹がじんとするようなあの出産時の痛みの記憶も、だいぶ薄れてまいりました。もういいかげん「出産」でもないだろうと、いったん仕切り直して「ふたりの育児」とタイトルを改めまして、再スタートすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

 前回の連載をお読みでない方にプロフィールをざっとご説明いたしますと、女児1名を育てつつ書店勤務を続けておりましたが、悩んだ末に2人目を産むことを決意。17年勤めた会社を辞め、2004年の春に男児を出産。専業主婦にシフトチェンジし、現在10歳で小学5年生の娘、2歳の息子カイト、出版業界に身を置くダンナとともに、信州は松本にて楽しくも忙しい日々を送っております。

 さて、今年4月に無事2歳を迎えたカイト。私のひそかな目標としては、このお誕生日を境にめでたく卒乳、だったのですが……ダメ! もう全然ダメ!無理! なんでアンタはこんなにおっぱい星人なわけ? なんで1日、いや半日たりともおっぱいなしではいられないの? カイトが居間で遊んでて、私がその脇でパソコンを打っていたり本を読んでいたりすると、ひどいときは10分置きくらいに膝によいしょっと登ってきて、勝手に服をめくり始める。やーめーてー! ていうか今飲んだばっかじゃん! んもう、そんなに喉乾いてるのかはいはい、とコップで水を飲ませても(直接飲むこともできるけど、ストローのほうが好き)、ストローから口を離すやおっぱいを欲しがるってのはなんなの? お風呂上りもそう。水も飲んでくれるんだけど、そのあと必ずおっぱいを飲まずにはいられない。これはやっぱり水分だけの問題でなく、抱っこ&おっぱいの感触が好きってことなのかしら? 甘えたいってこと?スキンシップ? 確かに、こっちが降参しておっぱいを出すと、とろけるようにうれしそうな顔で「へへっ」と声出して笑うからなあ。あの笑顔にはどうしても負けてしまうのよ。

 もちろん、寝起きも、寝かしつけるときも必ずおっぱい。いまだに産院で着ていた授乳パジャマで寝ています。出産前から2枚を交互に使っていた授乳用ブラは、ついにレース部分が擦り切れてオシャカに。今から新しいのを買いなおすのもバカらしいんだけど、かといって普通のブラをするわけにもいかないので、先日泣く泣くベビー用品売り場でおニューを買いましたよ、とほほ……。

 こんなにいつまでも飲ませてていいものかとさすがに不安になり、ネットや本で少し調べてみました。その結果、どうやら3歳くらいまでは、母乳好きな子は飲ませても別に全然平気だそう。好きなだけ飲ませてあげなさい、と。昔は(といっても上の娘の頃だから10年たってないけど)卒乳は1歳以内とか1歳半とか、なるべく早めにすませるのが主流だったけど、今は「1歳や1歳6ヶ月で母乳をやめさせなければならない医学的根拠はない。欲しがるうちは、たとえ2、3歳でも与えたほうがいい。自然に母乳を卒業する『卒乳』を待つべきです」(新潮文庫『赤ちゃん学を知っていますか?』産経新聞「新・赤ちゃん学」取材班より引用)という考え方らしい。WHOは最低2年以上、母乳の継続をすすめているし、現在の母子手帳には「断乳」という言葉はないとか。へえ~、ほんの数年でずいぶん言うことが変わるもんだねえ。

 ってことは、やっぱり、おっぱいは子供の精神安定剤なのね。そういえば、カイトはママが何か別のことに夢中になってるときに飲みたがることが多い。あれってやっぱり「かまって」のサインなのかもしれないな、と気がつきました。わかったよ、もう好きなだけお飲みなさいな。外出先でもおっぱいをせがまれたり、夜中に何度も起こされたり、乳首が痛かったりとママはちょっと大変だけどね……でもあのとろとろ笑顔のためならガマンガマン。キミが「もういらなーい」と言うまでつきあってあげましょうか。

 そんな彼が最近夢中になっているもの2題。それは「アンパンマン」と「となりのトトロ」。ついこないだまでは見せても無反応だったのに、ある日突然ハマりましたよ。「ウォーター!」と叫んだヘレン・ケラーのように、ある瞬間に天啓のごとくその絵や物語の意味が理解できたんでしょうか。ならばこれも立派な成長の一環ですよね。どこのお子さんも1度は必ず通る道かと思われますが、それにしてもトトロはともかく、アンパンマンのいったい何がそんなに子供をひきつけるんでしょう。あの唐突で猛烈なハマりっぷりを見てると、なんとも不思議でなりません。

 うちにはお姉ちゃんが小さい頃見ていたアンパンマンの絵本やキャラクター図鑑があるのですが、それを出してきてはとにかく1日じゅう見ている。指差すので「それはしょくぱんまん」とか「ばいきんまんね」とか教えてあげると、すぐに覚えて朝から晩までずっとひとりごとで「あんぱんまん、しょくぱんまん」と口ずさんでいる。言葉の響きが好きなのかな?挙句の果てには、ママが夕食の支度をしている台所まで本を持ってきて、「ママ、これ、これ!」と指し示して名前を教えろとせっつく。危ないから今はあっちいっててよう!

 外出すると、どんなに小さなアンパンマンの絵でも目ざとく発見。キミの目玉は、ばいきんまんに「アンパンマン・サーチアイ」に改造されてしまったのか?と思うほど。ファミレスに行けば、レジ上に置いてある小さなドキンちゃんのぬいぐるみを発見して「ドキンちゃん、ドキンちゃん!」と指差して叫ぶ。あ、ホントだ、こんなところに。よく気がついたね。本屋さんに行けば初めての店でも野生のカンで児童書コーナーに向かって突進し、アンパンマンの本を見つけ出す。オモチャ屋はもちろん、お土産物屋、縁日の屋台、スーパーやツタヤに設置してあるガシャポンに至るまで、よくもまあ見つけるよなあと感心するほど。

 トトロのほうは、上のお姉ちゃんが好きだったことをふと思い出して「そろそろ理解できるかな?」と試しにビデオを見せたのが始まり、というか間違いだったよ!(笑) 理解どころか、それ以来「ママ、あるこ、あるこ」とビデオを持ってきては、1日に3回もエンドレスで見せられるハメに。しかもそれが毎日ですよ!ママの脳内もトトロがぐるぐるしてますよ。セリフも覚えてきて、「サツキー!」とか「カンちゃーん!」とか虚空に向かって叫んだりしている。そのうち日常会話にセリフが混じってきたら、キミも立派なオタクの仲間入りだからね(笑)。