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第11回

 先日、実家に帰省したときのこと。カイトが、ご近所の4歳の女の子(仮名まいちゃん)にばったり遭遇したのです。すると彼はニコニコしながらその子に近寄り、そっと抱きつくようにしながら「まいちゃん、まいちゃん、かわいいね~」と言ったのです。おいおい、2歳でナンパですか!15年早いですよ!(笑)冗談はさておき、ちょっとその時びっくりしたのは、カイトがよその子に対して「かわいいね」というほめ言葉を使ったことだったのです。

 私はこのとおり親バカ丸出しなもので、恥ずかしながら家でも1日50回くらい「カイちゃんってホントにかわいいね~」と本人に向かって言ってしまうのです。抱っこしながら、おっぱいを飲ませながら、寝かしつけながら、などシチュエーションはさまざまですが。寝るときには「カイちゃんさあ、ママのところに産まれてきてくれて、ありがとうね。ママはすごくうれしいよ、カイちゃんのおかげで毎日とっても楽しいよ」とまで言います。本人に意味が通じてるかは不明ですが、カイトは耳をじっと傾けて聞いています。

 子供って、ちょっとしたことでもすぐほめてもらおうとするんですよね。積み木でタワーを作れば「ママ、みて!すごいでしょ!」と報告し、ぐるぐると渦巻きを描けば「ママ、ほら、これできたよ!」と見せにくる。「うわあ、カイちゃん、じょうずだね~」「よくできたね、すごいすごい!」とほめてあげると、満足してまた作業に向かう。それを1日に何度でも繰り返すのです。

 自分のしたことを肯定してほしい、自分の存在を認めてほしい、自分がここにいていいのだと確認したい。幼いながらも、子供にはちゃんとそういう気持ちがあるのですね。それはもう必死に、切ないほどに、子供は親のほめ言葉を貪欲に求めています。もっともっとほめて、もっともっと「かわいい」って言って、もっともっと「いい子」って言って!

 親が、本人を肯定する言葉、ポジティブな言葉をたくさん言ってあげると、それは落ち葉のように子供の心に少しずつ降り積もっていくような気がするのです。いつかそれが堆肥となって、子供の心を育てる大事な栄養となっていく。そして自分の心がよいものでじゅうぶんに満たされて熟成されれば、自然にそれは外に向かってこぼれていく。自分以外の他人にも、やさしいほめ言葉をかけてあげることができるようになる。僭越ですが、その表れが先述の「まいちゃん、かわいいね~」ではないかと。カイトの心の堆肥から、小さな芽がぴょこっと出てきたような気がして、とてもうれしかったのです。

「お前はバカだ」「ブスだ」「かわいくない」「悪い子だ」、そんなネガティブな言葉ばかり言われていたら、子供だっていい気はしません。子供は自分の悪口にはことのほか敏感です。乳児でも幼児でも、大人の言葉から漂う空気を鋭敏に嗅ぎ取ります。今、みんなが自分のことほめてる、けなしてる。恐るべき直感で、子供はそれを見抜きます。悪口だとわかると、怒ってこちらをぺちんと叩きにくることも。あれは本当に不思議です、言葉の意味すらよくわかっていないはずなのに。そして自分を否定する言葉でできた堆肥からは、おそらくあまり良い芽は出ないのではないかと。
 
 などと思うのも単なる親バカで、実はカイトはただ本当に彼女のことをかわいいと思い、ぽろっと「かわいいね」という言葉が出ただけかもしれませんが。そんなささいなことにも自分の子の長所を発見した気になって大騒ぎしてしまうのが、なんとも愚かな親のサガ。どうぞお許しくださいませ。

 まあここまで深読みしなくても、子供は知らず知らずのうちに周りの言葉をよく聞いていて、それを脳内に録音しておき、ふとした瞬間に再生するというのはよくあります。先日はこんなことがありました。カイトが何の前触れもなく突然お姉ちゃんに向かって「カイちゃんのバカ!ごめんなさいは?ごめんなさいは?」とすごみのある怖い声で問い詰めだしたのです。あんた、自分で自分のことバカって言ってどうすんの(笑)。そう、それはカイトが日頃お姉ちゃんから言われてる言葉と口調そっくりそのままだったのです。

 これを聞いたとき、爆笑すると同時に「ああ、この子の前でうかつなこと言えないなあ」と冷や汗をかきましたよ。どこで何言われるか、わかったもんじゃない。まさに「子供は親の鏡」、いや「鏡」というよりさしずめ「テープレコーダー」ですね(笑)。