WEB本の雑誌

第30回

 カイトの慣らし保育は3日間で終わり、明日からはまる1日、9時から5時まで保育園で過ごします。そして同時に私の初出勤日。カイトもドキドキだろうけど、ママも同じくらい、いやもっとドキドキです。と思ったら前の晩から千葉は台風直撃……オーマイガッ! 神様、明日の朝には台風が去っていますように!との祈りもむなしく、朝から暴風雨。とほほ、まいったなあ。まあしかし、人生こういう日もあるよね。むしろ最悪な状態を最初に経験しとけばあきらめもつくわい、とカイトにカッパを着せて自転車でゴー。雨ニモマケズ風ニモマケズ!カイト自身は別にどうということもなく、平気でママの後ろに乗ってました。まあ5分くらいだからな。保育園でも、いつもどおりに笑顔でバイバイ。カイトは別れ際にごねたり泣いたりしないので、これは本当に大助かり。

 さて、カイトを無事保育園に連れてった後、いよいよ初仕事。とはいえ、20年近く通い慣れた職場にまた戻るだけのことですが。でもやっぱり緊張するなあ!わあ、懐かしの社員通用口!まさかここをまた通る日が来ようとは。社員用エレベーター、社員食堂、何もかも皆懐かしい。ちょっと感無量。そして自分の店へ。

 が、店じたいこそ昔のままですが、その中身は3年半前まで働いてたのと同じ店とは思えないくらい、すっかり様変わりしていたのでした。まずは顔なじみの社員がなんと2人しか残っていない。あとは全部退職もしくは異動。バイトも当然すっかり変わってて、知ってる子は1人だけ。タイムレコーダーも紙のカード入れてガッチャンではなく、今やパソコン登録ですよ。へえ~。

 うちの店は百貨店内のテナントなので、まずは午前中に百貨店の研修を受けて、いよいよお昼からレジ。っていきなりですかい! あの、まったく何も教えられてないんですけど? えっと、えっと、この機械はなんですか? え?新しいポイントカード用? クレジットカードのICタグ?お客様に暗証番号を入れてもらう? なんだかたった3年半の間にえらくいろいろ変わっちゃってますよ!? お取り置きや客注のシステムも変わっていて、新しく覚えなきゃいけないことばかり。うわ、覚悟はしていたけど、これは慣れるまでちょっと大変だわ……。リハビリに時間かかりそう。しかも私はパート扱いなので、皆より労働時間が短いというハンデがあるから、ぎゅぎゅっと濃縮して覚えなくては。緊張のあまり、お昼になっても空腹すら感じなかったよ……。

 午後は前担当からの仕事の引継ぎ。そう、以前と同じ文芸書をまた担当することになったのです。しかも、その前担当が来週退職してしまうというではないですか! マジですか! さらにはお休みの関係で、彼女と私が一緒に仕事できるのは今日1日のみ。え~、1日で何もかも教えてもらうなんて無理だよ~! しかしそんなこと言っても仕方ない。とにかく3時間ほど、怒涛のように業務を教えてもらう。うわどうしよう、パソコンや端末の使い方、思いっきり忘れてるわ。退職したときに、機械関係のすべての記憶を思いっきり全部デリートしちゃったんだ、私の脳みそ……。ああ、そういえば昔そういうことやったような記憶もあるけど、詳細は一切忘れちまいました、なことばかり。いやまさか自分でも、以前と全く同じ職場・同じ担当に戻ることになろうとは夢にも思わなかったからなあ。とにかく言われたことをメモしまくるも、頭はすっかり飽和状態。いったい何から質問すればよいのやら。

 しかし聞いているうちに、だんだん今の書店の状態がつかめてきました。この3年半で、店は驚くべき変貌をとげていたのです。いや、「何を今さら」なことばかりかもしれませんが、とにかく私が以前働いていた頃とはえらい違い。

 まずは大規模な人員削減。先ほども書いたとおり、社員がすっかり減り、棚もレジも皆バイトが担当。書店に入って1ヶ月や2ヶ月の、商品知識など皆無の子が、いきなり棚を持たされて、入ってきた本を並べ、返品しているのです。そして、それを補う意味でのシステム化がものすごく進んでいました。入荷した本は、分野と棚番号をすべてパソコン登録。お客様に聞かれた本は、以前は担当者を探して内線電話をかけて聞いていましたが、今や担当者すらその本を知らないわけですから、すべてパソコン検索。これなら今日入った新人バイトでも、本を探せるというわけです。

 売り上げスリップは時間短縮のため見ない方針になり、売り上げチェックはすべてパソコン。データは売れ行き上位順に出すので、売れ筋の本は管理・発注できますが、1冊2冊の細かい棚管理はもう自動発注にお任せ。レジは品出しの終わったバイトと社員が交代で入っている。かつては社員は棚担当、バイトはレジ担当というふうにきっちり分かれていたのですが、もうそういう線引きもなくなりました。レジ業務があるので、棚をさわれる時間が激減しました。もうホントに荷物出すのがせいいっぱい。あとはファックス見て、郵便物片づけて、POP書きなどの雑事をこなしたらもう退社時間。しかも私は週4日のパートの勤務時間内に、フルタイムで働いていた頃と同じ、いやレジがあるから以前より多い仕事量をこなさなければいけないのです。ひい~!

 とにかく、昔のいわゆる「職人」といった存在は絶滅し、本の知識はすべてパソコンにお任せ状態で、本のことなど何も知らない若い子たちが店を回している状態に変貌しておりました。つまりはリアル書店の店頭も、アマゾンと同じですよ。「検索して欲しい本を見つけて買う」。もはや書店には本のプロを雇うような金銭的体力が残っていないのですね。

 私の仕事のやり方も、以前とはまったく違う方法を開拓せねばならないんだ、と痛感しました。とにかく効率が最優先。いかに早く、いかにムダを省いて短い時間で自分の仕事を終わらせるか。これを最大目標にして、なおかつ当然ですが売り上げを上げなければならない。保育園のお迎えがあるから、絶対に残業はできないし。いやはや、カイトに負けず劣らず、これからはママも戦いですよ!