WEB本の雑誌

第24回

 時のたつのは早いもので、ばたばたしているうちにふと気がつけば、松本から千葉の我が家に戻ってから、はや4ヶ月がたとうとしています。カイトが1歳半の時に松本への転勤が決まり、3歳になる直前にまた無事に帰ってこられたわけですが、ようやくこちらでの生活も落ち着いてきました。お姉ちゃんもすっかり元の学校に慣れ、前の友達や新しい友達をたくさん家に連れてくるようになり、カイトも近所の子たちとたくさん遊ぶようになり、私も家の中や庭のことが一段落。というわけで、かねてからの懸案をそろそろ実行に移そうかと思っているのです。また外で働こうか、と。

 理由はいろいろあるのですが、まずはなんといってもお金の問題。いままでは赤ちゃんだったからいいけれど、3歳になればもう一人前。これからは子供2人の養育費が何かとかかる。ダンナの給料でやれないことはないかもしれないけど、やっぱりそれだとかなりきゅうきゅうになる。節約はもちろん大事だけど、何より収入をあげるのが一番。攻撃は最大の防御というではないですか。私もダンナの稼ぎからボカスカ本を買うのはさすがにちょっと気が引けるし(笑)。自分の欲しいものくらい、自分のお金で買いたい。

 カイトも3歳半近くなり、おむつも外れそうだし、もうママと1日じゅう家にいるのもだんだん煮詰まりがちになってきた。男の子は女の子よりちょこまか動くから、もっと広いところを走り回って発散したいみたいだし。そろそろ、もっと広い外の社会、保育園で過ごしたほうが、いろんな体験ができて本人にとっても新鮮で楽しいんじゃないかな、と。お友達もいっぱいできるし、遊びの種類もずっと豊富だし、他人と交わることで社会のルールも覚えられるだろうし。今度の4月には幼稚園だから、もう社会生活を覚えさせてもオッケーな年齢に達していると思うし。

 そして何より、私が家にこもっているのに飽きてきました(笑)。なんかこう、カイトとふたりで「家」という小さな鳥籠に閉じ込められてるような気がしてしまって。外に出るといってもスーパーとか公園とかワンパターンなところばかりだし。もちろんカイトといるのは楽しいし、そのかわいい様を見ていると心がなごむけど、なんていったらいいかなあ、子供といると、オトナ頭を使わないんですよね。知的欲求が満たされないというか。会話もほんわかするけど、脳がくるくるっと回転するようなピリリとした刺激はないんだなあ。身の回り3メートルくらいのことしか考えない状態。人によっては、こういう穏やかで平和な子育て専業主婦業が一番、外になんか出たくないという方もいらっしゃると思うんだけど、私はどうもやっぱり煮詰まっちゃってダメみたい。家事もあまり好きじゃないし(苦笑)。

 カイトもだいぶいろんなことがわかるようになって自我が出てきて、私と彼のやりたいことの違いがどんどんクリアになってきた。親子といえども、同じ人間ではないし、何より知的レベルが違うんだから、やりたいことが違うのは当然のこと。そろそろ1日じゅうべったり状態から卒業して、それぞれ別の道をいったほうがお互いの幸せなのではないか。ああ、もう、1日ほんの数時間でいいから、自分ひとりで好きなように動きたい! いつでも何をしていても、そばにいる小さな子の動向に注意力の30%を割かねばならない状態でなく、身軽な状態で100%おのれの自由に動きたい! 社会に出て、いろんな人と話して、学んで、自分のスキルを磨きたい。家庭の中では私は家族から必要とされているわけだけど、それだけでなく、やっぱり外の社会でもほんの少しでいいから誰かに必要とされたいのです。社会という大きな機械を動かす、ごく小さな歯車として参加したいのです。

 また働くにあたって、不安もたくさんあります。保育園の空きがあるんだろうか、カイトは保育園でちゃんとできるんだろうか(牛乳飲めないんだけど大丈夫かな……)、3年半も社会と隔絶してすっかり頭がボケているのに、社会復帰できるんだろうか、新しい仕事覚えられるんだろうか、使い物になるんだろうか、また以前のように家庭と仕事の両立ができるんだろうか、またダンナとケンカ三昧になってしまうのではないだろうか、体力的に続けていけるんだろうか、などなど。

 この3年半、専業主婦をしながら、私もいろいろ考えました。働いてた頃なぜあんなにつらかったのか、どうすればよかったのか。当時はじっくり考える暇すらなかったんですね。やっぱりもっとダンナに協力を要請するべきだったんです。たとえそれがかなえられなくても、自分は今こういう状態でこう大変だから、助けてくれとヘルプコールをするべきだった。言わなくてもわかってくれる、なんてことはまずありえないんだと。ちゃんと口ではっきり「こうして欲しい」と伝えなければダメだったんですね。言えばもう少しやってくれたかもしれないのに。文句言うより自分がやるほうが早いからと、ついつい私ばかりが仕事と家事すべてを背負う形になってしまい、その長年の不満が地層となって胸の底に厚く堆積していて、その重さでへとへとになってたと思うのです。

 だから、しんどくなりすぎないよう、もうあまり無理はしない。とりあえず今はパートという形で社会復帰して、フルタイムで働くのは、もう少し子供の手がかからなくなってからにする。以前よりもっと賢く、家庭と仕事のバランスをとっていきたい。娘も来年は中学だし、ある程度家事戦力になってもらおう。保育園のお迎え頼んだり、炊事ももっと手伝ってもらえたらうれしいなあ、なんて勝手な願望ですが。

 60歳まであと20年近く。ホントはこのままずっと専業主婦としてやっていこうと思ってたんだけど、やっぱり我慢できませんでした(笑)。でもターシャ・テューダーだって、50歳過ぎてからあの広大な庭を造り始めたんですよ。40過ぎてからの再出発だって、きっとまだ遅くない。うまくいくかどうかはまだわからないけれど、今、すごくドキドキワクワクしています。第2の人生に向けて、今、新たな扉をノックしたところです。