WEB本の雑誌

第10回

 今回は、母親の「自分の時間」について。

 ひとり身のときは、何もかもが自由です。自分の好きなように時間を使える。どこに行こうが、何しようが、何買おうが、自分の勝手。これが結婚すると、ある程度の足かせというか、まあ二人三脚ですから、多少は自由が削られる。でもそれでも、相手とうまく折りあいをつければ、ひとりの時間はあるわけです。が、子供ができると、とたんに事態はでんぐりがえります。

 まあ妊娠中から外出などはだんだん制限されてゆきますが、いざ出産したらあとはもう、母親は二人三脚どころか、全身羽交い絞め状態。いつも子供を最優先にしなければならず、自分は泣く泣くあきらめなければならないことがいっぱいあるのですね。

 数え上げればきりがないですが、仕事を筆頭に、コンサート、観劇、映画、美容院、飲み会、スポーツ、友人との旅行、イベント類、こじゃれたレストランでの食事、ショッピング(特に服飾類)、エトセトラ。仕事を除いて、あとはダンナもしくは祖父母が代わってくれない限りまずアウト。特に夜遊びの類はダメですね、カイトはママじゃないと寝ないので。まあこのあたりは、現在無職でお金もないことだし、やむをえんだろう、とため息ついてあきらめてます。映画は少し時期がずれるけどレンタルビデオですませたり、ショッピングはもっぱら通販を使ったりと、代わりの手段をとることもできますし。それでも谷山浩子コンサートの案内メールが来たりすると、「はうう~~行きたい~~」と悶絶することもしばしばですが。

 じゃあ外出はあきらめるとして。なら、家でやることならいいだろう!と思うけど、それがそうもいかないわけで。

 子供がまだ1歳前で、1日のうちで寝てる時間が長いうちは、その合間をぬって案外ちょこちょこと本が読めたりネットができたりするのです。ところが、2歳半ともなるともうダメ。お昼寝は毎日ほぼ2時間なのですが、それ以外は朝7時から夜10時まで、フル活動。しかもテキはもう口がきけるので、私がちょっと本なぞ広げようものなら「ママ、ごほん、おしまいよ!」と言って、本をパタンと閉じてしまうのです。ええ~ん、ママ、今これ読みたいのに~!「ママ、ボールあそびしよう!」などと言い出そうものなら、私が重い腰を上げるまで「しようよ~、しようよ~」と何十回でも何百回でもリピートし続ける。で、彼が満足するまでボール遊びにつきあわされる。多少の演出が要求されるので、「おおっとお!」などちょっと大げさなリアクションでキャッチしてウケを狙ったり。

 パソコンを立ち上げようものなら、今度は膝の上に無理やりよいしょっと乗ってきて、「ママ、アンパンマンみせて!」とこれまたこちらが根をあげてアンパンマンのホームページを開くまで、ひたすら連呼。ええ~ん、ママはサイトを更新したいのに~!そして画面を指差して「これ、これ!」とアンパンマンのゲームをえんえんとやらされる羽目に……。どのボタンをクリックすればゲームになるとか、またよく知ってるんだなこれが。それに飽きると今度は「お茶犬!」だの「こげぱん!」だの、ああもういつまでやるんですかー!

 ほかにも「ブロックでロボットつくって!」とか「えほんみせて!」とか「なんかたべたい!」とか要求は無限大。とにかく子供はママを四六時中独占したいのね。いつもこっちを見て、いつも一緒に遊んでほしい、一緒に何かやっててほしい。いや、ママだってキミのことは世界一大好きだし、キミと遊ぶのはすっごく楽しいよ。でもね、でもね、ママだってやりたいことがあるんじゃ~~~~~!!!!

 カイトがひとり遊びを始めて、自分の世界に没頭してるときはチャンス。ぬいぐるみを両手に持って、「ぶたさんこんにちは~、いまなにしてるの?」「あ、これおいしそうね~、りんごありますよ、はいどうぞ~」なんてひとりでぶつぶつ言いながら楽しそうに遊んでるとき。こういうときは、ちょろっとネットできたりするんですが、でも自分のサイトを更新するほどまとまった時間はとれず、せいぜいmixiを覗く程度。

 結局、カイトが起きてる間は「自分の時間」というのはほとんどありません。一見だらだら好き勝手してるように見えて、実は全然自分の自由にはできない。唯一使えるのは、やっぱり夜、子供が寝てから。10時過ぎにカイトが寝ると、猛然と自分タイムに突入します。ガガガッとキーボードを叩き、夢中で本を読む。この原稿もたいてい、深夜にしこしこ書いてます。おのれの睡眠時間を削る以外に自由時間を捻出する方法がないのですね。勤めてた頃とまったく同じ。はっと気がつけば夜の1時なんてざら。え、ダンナ? ああごめんごめん、忘れてた!(笑)

 贅沢な悩みだということは重々承知しています。私の母や祖母の時代は、とてもこんなこと望めなかった。たった1世代前ですら。昔は家事そのものも重労働だったし。洗濯機がなかった暮らしなんて、想像すらできません。私が生まれるちょっと前くらいまでは、洗濯機に自動脱水機はついてなくて、手動のハンドルでギリギリと洗濯物を絞って脱水してたとか。それに比べたらスイッチひとつですべて完了、という私の世代はものすごく恵まれています。それはわかってるんだけど、今まで自由だった分、ついつい欲深くなってしまうのですね。ママだって、まだまだやりたいことがいっぱいあるんですよう!

 自分のやりたいことと、子供の要求と。母親の生活は、常にこの二つとのせめぎあいです。これらにいかに折り合いをつけてやっていくかが、楽しく暮らすための重要ポイントでしょう。シーソーがどちらかに傾きすぎてもよろしくない。ほどほどに、自分のことも、子供のこともやっていかないとね。まあいずれ、子供は手が離れますから。その日を密かに心待ちにしていますが、そうなったらなったでさみしくなるのかな?