WEB本の雑誌

第15回

 カイトはほんっとにマザコンで、もう朝から晩まで「ママ、ママ、ママ」って私のことを連呼しっぱなしなんですよ。1日トータルで500回くらいいってるかも、という勢い。ベビースイミングに連れてっても、コーチから「“ママ、ママ”って声が聞こえると、ああカイトくんが来たなってすぐわかりますよ」と言われちゃうし。どこに出かけてもぴったりママに張りついて、いつも決して10センチ以上は離れない。助手席からカイトを降ろしたのち、私が運転席のキーをかけに車の逆側に行くときですら、絶対に私にくっついてくる。まさに腰ぎんちゃく。まあ、ひとりでふらふらどっかに行っちゃうことはないので、迷子にならないから安全といえば安全ですが、こんなにマザコンでこの先大丈夫なんでしょうか?

 家族でお出かけするときも、疲れてくると必ず「ママ、だっこ!」か「ママ、おんぶ!」。パパが「カイト、パパが抱っこしようか?」と言ってもぶんぶん首を振って「ううん、無理!ママ!ママ!」と断固拒否。パパの出番は、カイトが前後不覚に熟睡したときのみ。手をつなぐのすら、パパだといやがるという徹底ぶり。いやあ、ママ、愛されてるのはうれしいんだけど、ちょっとキミの体重は腰に来るのよね……。しかし拒否するわけにもいかず、結局ママの背中がカイトの指定席。一緒に歩いているときも、「ママ、いま、ことりさん、ピーっていったね」とか「ママ、いし、あったねー、ほらね」とか、ずっととぎれることなく何かしら私に話しかけている。

 夜10時ぐらいにカイトを寝かしつけ、ああやれやれと私がパソコンに向かって本日の悦楽タイムにひたった後、12時頃ゆっくりお風呂に入っていると、寝室のほうから何やらドタドタと不穏な足音と「うわああああああん!!」という号泣が……。ああまたか……。なぜか決まって就寝2時間後あたりに、いつもカイトは目が覚めてしまうのです。そして横にママがいないことに気づくと、この世の終わりのように不安と絶望を顔に浮かべて大泣きして、私を求めて風呂場まで走ってくるのです。「カイちゃんごめん、ママいるよ~。大丈夫だよ~ちょっと待ってて~!」とあわてて湯船から出て体を拭くのもそこそこに秒速でパジャマを着ると、「はいはい、じゃあねんねしようね~」とまたおっぱい&添い寝。いえ、いつもその時間に起きるってわかってるなら私もその時間にお風呂に入らなきゃいいんですけど、松本は寒いので、湯冷めしたくないからどうしても夜中の寝る直前に入りたいのですよ。

 自分で男の子を育ててみて、男性がマザコンになるわけがよくわかりましたよ。父親と娘は、どんなに仲良しでも、朝から晩まで一緒にいる親子はまれだと思うんですよ、パパはお仕事で昼間はいないという家が多いだろうから。しかし、母親と息子は、もう朝から晩まで24時間ベッタリ状態なわけです。そしてその間ずっと、「カイちゃんかわいいね~、だーいすき!」なんて抱っこしながら耳元で甘い声でささやかれているわけですから、そりゃあ刷りこまれますよね(笑)。外で働いてるお母さんだって、朝晩の世話とか、何かにつけパパよりはずっと子供に接してる時間が多いだろうし。こんなにも盲目的に自分を愛してくれて、食べることから排泄まで何から何まで献身的に尽くしてくれる異性と、この世に生まれた直後から片時も離れず一緒なんですから、そりゃあマザコンになるのも無理ないなあ、と。

 また男の子のかわいさってのは、母親にとってはなんとも格別なものがありますから。これも自分で男の子を持ってみて、初めてわかった感情。どう言ったらいいかなあ、女性にとって、男性って潜在的に「自分より大きくて、強くて、しっかりしてて、頼れる」みたいなイメージがあると思うのです。それが、こんなにちっちゃいぷにぷにのつぶれ丸顔で、つぶらな瞳にかわいい声で「ママ~」なんて言われた日にゃ、えっちょっと待って、仮にもオトコなのにアナタ、こんなにキュートでいいの!?ありなの!?っていう驚きといいますか。そもそも女性って、ちいさくてかわいいものが大好き。それが自分の血を分けた異性とくれば!

 実は私、かねてより愛する男性を(具体的に誰かという意味ではなく、イメージ的に)自分の胸の中にすっぽり抱きしめてあげたいというひそかな願望があったのです。というか、人間って本能的に愛しい者を「むぎゅー」したいと思う生き物なんじゃないかと。でも男性が女性を「むぎゅー」するのはほどよいサイズだと思うのですが、女性が男性を「むぎゅー」するには、たいがい相手がデカすぎてダメなんですよね。こう、すっぽり相手を包み込むというよりは、自分が大木にしがみついてる、という図になってしまう。相手がもっと小さかったらいいのになあ、って胸の片隅で思っていたのです。そこにわが息子! そう、彼ならそれが可能なのですよ! 思う存分わが胸に抱きしめることができるのです!

 さらに最近のカイトは、いつも私にされてることの真似っこで「カイ、ママのことだーいすき!」と言いながら、ママの口だのほっぺだのそこらじゅうにぶちゅーっとキスしてくれるのです。おかげでこっちはすっかり悩殺されてしまい、ますます息子をかわいがり……と熱愛度は加速する一方。

 でもかわいがってはいますが、甘やかしてはいませんよ。ダメなときにはバシッと叱るし、手も叩く。怒鳴ることもしょっちゅうあります。しかし彼は母親が自分をめちゃめちゃ愛してることをよく知っているので、「ふっ、なんだかんだ言ったって、オレのこと好きなくせに」なんてカンジになめられてるような気も……。だから怒ってもあまり効果がないんですよね。とほほ~。

 本当にこの先、ママと離れてひとりで幼稚園や保育園でやって行けるのかしら、とときどき心配になる今日この頃。いや、むしろ必要なのはこちらの子離れなのかな?