新刊めったくたガイド
1978年6月発行の第9号からスタートした「本の雑誌」の看板コーナーが、WEB本の雑誌に登場!
北上次郎 記事一覧
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2021年3月号掲載
『羊は安らかに草を食み』にむくむく元気がわいてくる!
宇佐美まこと『羊は安らかに草を食み』(祥伝社)は、静かに幕を開ける。益恵八六歳の認知症の症状が少しずつ進行しているので、脚が丈夫なうちに、俳句仲間のアイ八〇歳、富士子七七歳が、益恵を連れて彼女がかつ...記事を見る »
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2021年2月号掲載
85年前の台湾が鮮やかに蘇る『台湾博覧会1935』が面白い!
いやあ、面白い。陳柔縉『台湾博覧会1935 スタンプコレクション』(中村加代子訳/東京堂出版)だ。読み始めたらやめられず、一気読みしてしまった。 意外なのはまず、楊雲源という台湾人の生涯が描かれる...記事を見る »
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2021年1月号掲載
王谷晶『ババヤガの夜』に血がどんどこ脈打つぞ!
なんだか愉しくなってくる。どんどこ血が脈打ってくる。王谷晶『ババヤガの夜』(河出書房新社)だ。 暴力団に拉致されても音を上げず、果敢に闘うファイターながら、自分を襲ってくるドーベルマンを殺すことが...記事を見る »
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2020年12月号掲載
宇佐美まことの大きな物語『夜の声を聴く』がいいぞ!
やっぱりいいなあ宇佐美まこと。新作『夜の声を聴く』(朝日文庫)の終わり間近に、「隆太、ちょっとそこで待ってろ。いいもんを見せてやるから」と大吾が言うシーンがある。待っていると「いくぞ。隆太」と声が降...記事を見る »
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2020年11月号掲載
松尾清貴の歴史小説『ちえもん』がすごい!
すごいすごい。松尾清貴『ちえもん』(小学館)だ。冒頭近くの、巨大な石を持ち上げようとするだけのシーンがなぜこれほど興奮を呼ぶのか。それはたぶん、文章に力が漲っているからだ。躍動感に似たその力が、読み...記事を見る »
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2020年10月号掲載
異色のシェアハウス小説、加納朋子『二百十番館にようこそ』
郵便局長に年齢制限があるとは知らなかった。新しく郵便局長になるには、二十歳以上、六十五歳未満という制限がある。その他、ゼロから簡易郵便局を始めるには、業務を行う施設を自分で用意しなければならないが、...記事を見る »
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2020年9月号掲載
苦しさの奥から力が湧き上がる『全部ゆるせたらいいのに』
なんだか辛い話だ。息苦しくなるような暗い話だ。でも、どんどん読み進んでいくと、その辛く苦しい話のずっと奥の方から静かに少しづつ、力とでも名付けたいものが、ゆっくり浮上してくる。一木けい『全部ゆるせた...記事を見る »
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2020年8月号掲載
一瞬の家族の光景を切り取る寺地はるな『水を縫う』
高校生の清澄が言いだして、でもうまくいかなくて、結局は父親の全が仕立てたドレスを、姉の水青が着て、立ち尽くすシーンがある。かわいいものが嫌いだといつも言っていた水青は、童話のお姫様のように気高く、美...記事を見る »
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2020年7月号掲載
『52ヘルツのクジラたち』にどんどん引きつけられる!
町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)の道具立ては、けたたましい。なにしろ、ネグレクトにDV、パワハラと、これでもかこれでもかと詰め込んでいるのだ。もうそういう話など読みたくない、と言...記事を見る »
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2020年6月号掲載
イヤなやつばっかりの『希望のゆくえ』にびっくり!
イヤなやつばっかりだ。 寺地はるな『希望のゆくえ』(新潮社)である。イヤなやつがわんさか登場する小説は珍しくないが、寺地はるながこういう小説を書くとは思っていなかった。冒頭近くに家族写真が出てくる...記事を見る »
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2020年5月号掲載
阿部暁子『パラ・スター』に泣きっぱなしだ!
いやあ、すごいすごい。こんなに泣いたのは近年初。いくら涙腺が崩壊しかかっているとはいえ、泣きっぱなしというのは珍しい。阿部暁子『パラ・スター』(集英社文庫)だ。二月に「Side 百花」が出て、三月刊...記事を見る »
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2020年4月号掲載
伊吹有喜『雲を紡ぐ』の あちこちで立ち止まる
ふわふわとした感触がいい。初めて羊毛に触れたときの美緒の驚きがあまりに新鮮なので、まるで自分が触っているかのように錯覚してしまう。伊吹有喜『雲を紡ぐ』(文藝春秋)だ。 あるいは「子どもといっしょに...記事を見る »
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2020年3月号掲載
異才・竹宮ゆゆこの元気百倍青春小説だ!
最初は少々読み辛い。若いころなら少しくらい読みにくくても辛抱して最後まで読んだものだが、加齢とともに辛抱がきかなくなっているので、これは途中で挫折するかも、とその段階で予感を抱いた。途中でやめちゃう...記事を見る »
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2020年2月号掲載
『里奈の物語』を貫く強さを見よ!
鈴木大介『里奈の物語』(文藝春秋)がすごい。 「農業と下請け製造業の街であると同時に、博打の街でもある」北関東の地方都市を舞台に、濃厚な物語が展開するのだ。 里奈と比奈は、その街の飲食長屋の駐車場...記事を見る »
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2020年1月号掲載
"砂町銀座クロニクル"『まち』がいいぞ!
うかつなことに気がつかなかった。小野寺史宜『まち』(祥伝社)を読み終わったので、本の雑誌の杉江由次君に電話したのである。感想を言おうと思って。面白かったよ、と。ところが彼が、 「あの筧ハイツは、『縁...記事を見る »
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2019年12月号掲載
ダメ男小説の大本命が出たぞ!
ダメ男小説の大本命が出た。足立紳『それでも俺は、妻としたい』(新潮社)だ。 ダメ男小説には、泡鳴五部作のような頑迷な暴力男から、泣き虫男(田山花袋『蒲団』)、陰気な男(近松秋江「黒髪」)、優柔不断...記事を見る »
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2019年11月号掲載
宇佐美まことの物語を信じて読め!
宇佐美まこと『展望塔のラプンツェル』(光文社)が素晴らしい。 物語の表面で語られるのは二つの話である。まず一つは、さまざまな問題と取り組む児童相談所の日々だ。こちらのメインは、児相の松本悠一と、「...記事を見る »
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2019年10月号掲載
『マンハッタン・ビーチ』の怒濤の展開にくらくら!
すごいすごい、残り二〇〇ページを一気読みだ。それは潜水と海の描写なのだが、緊迫感あふれる場面が続いてまことに迫力満点。読書の醍醐味を久々に味わった。ジェニファー・イーガン『マンハッタン・ビーチ』(中...記事を見る »
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2019年9月号掲載
『マネーマッド』の熱い文体に引き込まれる!
なんなんだろうこれは。突如として字が大きくなったりする形式も(しかもその大きさがさまざまだ)、「バブルの狂気! 実録ダークマネーノベル」と帯にあるストーリーの中身も、けっして私の好みではないのだが、...記事を見る »
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2019年8月号掲載
新鋭・砥上裕將の水墨画小説『線は、僕を描く』に拍手!
この小説の美点をどう紹介すれば読者に伝わるのか、いまそれを考えている。ずっと考えている。砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社)だ。 水墨画小説である。水墨画など一度も描いたことのない霜介が、バイト先...記事を見る »
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2019年7月号掲載
フレドリック六十六歳の波瀾万丈の日々
ヘニング・マンケル『イタリアン・シューズ』(柳沢由実子訳/東京創元社)の終わり間近に、フレドリックが若き日のことを思い出す場面がある。彼は元医師で六六歳。スウェーデン東海岸群島の小さな島で、たった一...記事を見る »
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2019年6月号掲載
濃い感情が渦巻く『いきぢごく』から目が離せない!
瓶覗、という名の色があるんだそうだ。かめのぞき。淡い藍色、らしい。初めて知った。そのかんざしをくれたのは姉の夫、幹久だ。彼は言う。「瓶の底に溜まった水の揺らぎ。空の色を映しとったような、そんなはかな...記事を見る »
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2019年5月号掲載
元気がむくむくわいてくる『ノースライト』がすごい!
ふいに蘇る。幼いころに過ごしたダムの村で、腰まである雪をかきわけて学校に通った少年の姿が、読み終えてもう三週間もたつというのに、突然現れる。信濃追分に作った家にぽつんと残されたブルーノ・タウトの椅子...記事を見る »
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2019年4月号掲載
追い詰められた女たちを描く『DRY』がいいぞ!
原田ひ香がこういう小説を書くとは思ってもいなかった。すごいな、一気読みである。『DRY』(光文社)だ。 たとえば、母と祖母と藍の三人が食卓を囲む場面がある。祖母を刺した容疑で逮捕された母を保釈する...記事を見る »
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2019年3月号掲載
『クロストーク』は2018年オールエンタメの「幻の1位」だ!
いやあ、素晴らしい。これほど愉しい小説を読むのは久々で、本が届いた日の夜から読み始め、ひたすら読み続けて翌日の夜に読了。ときどき食事などの休憩ははさんだけれど、一気読みとはこのことだ。コニー・ウィリ...記事を見る »
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2019年2月号掲載
絶好調寺地はるなの『正しい愛と理想の息子』に◎!
おやおや、寺地はるながこういう小説を書くのか。最初はそう思ってしまった。というのは、『正しい愛と理想の息子』(光文社)の帯には、次のような惹句がついていたからだ。 「32歳と30歳。崖っぷち男二人。...記事を見る »
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2019年1月号掲載
朝比奈あすかの婚活小説『人生のピース』を読みふける
児島みさ緒が、婚活パーティで愕然とするくだりが物語の後半に出てくる。ろくでもない男ばかりだったと潤子と礼香に報告したあと、高校時代に男子校の文化祭に行ったことがあるでしょ、と話しだす。ひとクラス四〇...記事を見る »