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第49回

■カフェ・ビエンチャン人気メニュー秘伝レシピ公開・特別編
 
 海魚や調味料の一部を除いて、日本で手に入る食材の大体は揃っているビエンチャンだが、唯一違うのは生鮮野菜に季節感があることだ。日本ならばハウス栽培の効用なのか輸入物が多いこともあってなのか、ほとんどの野菜は一年を通して手に入らない時期というものはないと思うのだが、ビエンチャンは季節に則り、その時期に収穫できるものしか市場に並ぶことはない。もちろん気候が暑いということもあって通年して収穫できる野菜も多いのだが、それでも時期が終われば次の季節までお休みというものも数多い。つまり夏には夏のものを。冬には冬のものを食えということだ。
 これは自然のサイクルに組み込まれて生きている人間にとっては、ごくあたり前のことなのだろうが、あたり前のことがあたり前と思えなくなっているところがいわゆる先進国人てえやつなのだろう。おれもラオスに来る前は食育にうるさい主婦のようにアタマでは理解していたのだが、ビエンチャンの市場で売られている野菜の季節に応じた見事なまでの移り変わりを目の当たりにしてみると、あらためて冬でもトマトが食べられるという日本の食卓の奇妙さに思いが至ったわけだ。だからなのかもしれないが、ラオスに住み季節に応じた食材を使った料理を食べるようになってから、日本で感じていた身体の変調が治ってしまったという人は意外と多い。健康のための粗食がいわれているが、季節に応じた食材を使えば必然的に粗食にならざるを得ないのかもしれない。
 などと書いてはいるが、カフェ・ビエンチャンのメインメニューは粗食とは対極にあるハイ・カロリー食の牛タン炭焼きに豚角煮である。粗食もよろしいが、たまには壊れてみたいのが人間だ。暴飲に身をまかせ、暴食に心を落とし込む。堕落こそ人生。坂口安吾。堕ちよ、脂へ!
 ということで今回は肉好きの堕落した諸兄緒嬢のために、特別にカフェ・ビエンチャンの人気メニューである豚角煮の秘伝レシピを公開いたします。
 カフェ・ビエンチャンの豚角煮は、下茹でと味付け時にラオラオ(=ラオス焼酎)を使うのが特徴。泡盛を使う沖縄のラフテーと同じだ。しかし違っているのは肉の下茹でのときに徹底して脂を抜いてしまうところ。豚角煮の本家である中華料理の東坡肉(トンポーロウ)と同じである。
 家庭で作る際の豚角煮やラフテーは、この下茹でをせずに直接味を入れて煮込んでしまうことが多いと思う。そのため味が重く脂もきつくなっているのがほとんどだ。脂ギトギト角煮である。しかしカフェ・ビエンチャンでは、さっぱりと軽いバラ肉をいくつでも食べられるような角煮を作りたかった。だから肉の下茹でには三時間かける。炭火を熾した七輪で調理しているからこそ、できる方法かもしれないのだが。
 ちなみにラオス人の各家庭では、ガスは金額的に高いのでほとんどが炭火七輪で毎日の食事を調理している。カフェビエンチャンにはもちろんプロパンガスはあるが、長時間の煮込みにはやはり炭火を使う。ガスを使って三時間も下茹でしていたらガス代がかかってしょうがないというものだ。それに店で牛タンの炭火焼を出しているから炭熾しは毎日のことである。使わない手はない。日本なら圧力鍋があるから、それを使って下茹でをすればいいだろう。
 
 ●材料(カフェ・ビエンチャン仕様)
  豚バラ肉ブロック=2kg
  ラオラオ(焼酎)=下茹で用200cc・味付け用=50cc
  醤油=200cc
  黍砂糖=2分の1カップ
 
 作り方は簡単だ。豚バラ肉を8cmくらいのブロックに切り、ひたひたの水に入れ下茹で用のラオラオと一緒に三時間ほどアクを取りながら煮込む。途中水が少なくなってきたら足せばいい。
 煮上がった豚バラ肉は冷水にとり、付着した汚れを指先で取り除く。冷水にとると型崩れしないのだ。
 きれいにした豚バラ肉を土鍋に並べ入れる。土鍋は日本から持ち込んだ大型のもの。ラオスやタイでも素焼きの土鍋が売られているが、保温性や熱効率を考えると塗りがかけられた日本の土鍋が最高だ。
 この土鍋は煮込み料理を効率よく作るのに最適で、日本にいるときも、おでんやシチューなどさまざまな煮込み料理を作るのに利用していたほか、石焼ビビンバならぬ土鍋ビビンバなども作っていた。
 土鍋ビビンバはおれが考え出したインチキ韓国料理だ。土鍋にゴマ油を薄く塗り、そこにご飯を入れてナムルやコチュジャンで味付けした牛肉のたたきをを乗せガスで軽く焼くというもの。インチキ石焼だが味は本格的である。カフェ・ビエンチャンでも貸し切りの宴会でよく出していたが評判だった。
 さて。豚角煮だ。
 下茹でした豚肉を土鍋に並べたら、ひたひたになるまで水を注ぐ。火にかけ沸騰したら分量のラオラオ、砂糖を入れ10分ほど中火で煮る。最後に醤油を入れて蓋をしたまま弱火で20分煮てから火を消し、そのまま三時間ほど置いておけばいい。土鍋の熱で自然にやわらかく味が入ってゆく。そのゆっくりとした味入れは土鍋ならでは。味も丸くなる。だからぜひとも土鍋を使ってほしい。
 三時間後。カフェ・ビエンチャン流豚角煮の出来あがり。バラ肉であるにもかかわらず、そのさっぱりとした味は驚くはずだ。
 ところで下茹でして出来た肉エキスたっぷりのスープは捨てないこと。カフェ・ビエンチャンではハヤシライス用デミグラス・ソースの素として使っていたが、カレーの素としても使えるし、ラーメン・スープなどにも応用できる。荒熱が取れたら鍋ごと冷蔵庫に入れ、冷えて固まった表面の脂を取り除いて使えばいい。固まった脂はラードとして使う。レバニラ炒めを作るときにはサラダ油ではなく、このラードを使えばとてもコクのある絶品もののレバニラ炒めとなる。
 以上、今回は店に来られなかったあなたのためにカフェ・ビエンチャン人気メニューの秘伝レシピを特別大公開してみた。それほど難しくはないので、ぜひともチャレンジしていただきたい。そして出来あがったなら、ラオスの空に向かって乾杯を! セザリア・エヴォラの唄をかけ、もちろんグラスにはキンキンに冷えたビールである!

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