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特別編

■カフェ・ビエンチャン【臨時】営業中! 2009 その2

1KUNSEI.JPG●二月十日(火)
 いよいよ臨時開店の日。朝から料理の仕込み。自家製の豚の簡易ベーコンとハム。そこで三日前から塩に漬け込んでいた豚肉に燻煙をかける。燻製器はカメちゃんのお手製。チップは桜。百均で買ったのを持ってきたのだ。しかしなかなかうまく煙がかからない。今晩はこの簡易ベーコンとハムに夏野菜の煮込み"ラタトゥイユ"を添えて出す予定。料理はその一品のみ。結局メインとするはずのスイーツは作れずじまい。明日以降、アラ主任に手伝ってもらいやるしかない。まあ開店と言っても臨時開店なのだから客も許してくれるだろう。それにそれほどお客が来るとは思えない。などと考えるのはラオス思考か。
 午後四時。山口オヤジが顔を出す。開店準備を手伝ってくれるというのだ。しかし料理が一品では何もすることがない。
「一品じゃ駄目ですって。皮蛋豆腐でも作りましょうよ」
 何もすることがないので二人で開店前のビアラオを飲んでいたら、山口オヤジが突然そんなことを言う。
「そうですね」
 ということでもう一品追加。さっそく近所に材料を買いに。でもどうして皮蛋豆腐なんだ? まあどうでもいい。とにかく品数二品に増加。
 カメちゃんが仕事から帰ってきて、いよいよ開店。
「カフェ・ビエンチャンの看板ありますよね」
 閉店したときにブルースカイに預かってもらっていたのだ。
「ありますよ!」
 しかしカメちゃんの言葉とは裏腹に、どうしても見つからない。
「おかしいなあ。絶対あったはずなんだけど」
 結局看板は見つからず。
「お客さん、どのくらい来はるやろ」
 山口オヤジが心配そうな声を出す。
「そうそう来ませんよ。来ても八時過ぎた頃じゃないですか」
 と答えたところにお客さんが。中年男性。知らない顔。
「いらっしゃい!」
「WEBの連載を読んで来ました。本も読みましたよ」
 まさか臨時営業のお客第一号が連載の読者とは思いもしなかった。しかしとにもかくにも嬉しい。聞けばバンコク在住で元テレビカメラマンだという。あの98年サッカー・ワールドカップ出場を決めたジョホールバルでの伝説の試合を中継したそうだ。
「来ましたやん」
 山口オヤジがニヤリと笑って、さっそくお客さんの接待に。
「遅くなりました!」
 大使館の仕事を終えたアラ主任がやって来る。これでカフェ・ビエンチャン最強の二人が揃ったことになる。もう一人はもちろんおれだ。
 とそこにエビ博士バルタン伊藤が。
「腹減ったあ! 何か食わせてください!」
「ベーコンとラタトゥイユ。それに皮蛋豆腐しかないよ」
「ええええっ!」
「何か腹に溜まるものが食いたきゃ、他の店に行ってくれ!」
「ははは。さすがカフェ・ビエンチャン!」
「差し入れ持って来ました」
 現れたのはメコン河沿いで豚シャブの店を出している日本人のオジサン。二日前に知り合ったばかり。なのに店で出している豚シャブセットを持ってきてくれたというのが嬉しい。
4OYAJI.JPG さらにヨシダはるか嬢やビエンチャン郊外にサトウキビを植えラム酒製造をしている脱サラ日本人オヤジ四人組も現れる。面識はなかったが、WEBを読んでくれていてメールをもらったことがある人たちだ。
「作ったラム酒です。味見してください」
 飲んでみた。
「うまい!」
「でしょう」
 聞けば全員酒造りの素人だそうだ。それがラオスで畑から始めたのだ。こういう人は大好きである。
「四月にはいよいよ出荷です。日本でも売りますよ」
 こういうオヤジたちには是非とも成功してもらいたい。そして不況だ失業だと頭を垂れている日本のオヤジどもに勇気を与えてほしい。欲するものを実現する場所は世界中にあるのだ。一歩踏み出すかどうか。勇気などいらない。苦しさを楽しめる心があればそれでいい。
 それからは入れ替わり立ち代りで総勢十五人の客。牛タン炭火焼きを期待して腹を減らせて来たが、ないと聞かされて泣く泣くお帰りになった客五名を入れたら二十人だ。正直そんなに来るとは考えておらず、嬉しい悲鳴。とは言っても料理は二品しかないから、以前と違って仕事は楽でただ泥酔。結局深夜一時過ぎまで大騒ぎ。カフェ・ビエンチャンの大いなる力を思い知った初日であった。
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●二月十一日(水)
 日本は祝日ということで大使館勤めのアラ主任も休み。そこで昼から二人でスイーツ作り。ところが前日の疲れが抜けずに、おまけに暑くてダラダラ。韓国冷麺を作る宣言していたおれもスープまでは作ったが、麺を買ってくることを忘れて結局メニューに載せられないという体たらく。いかんいかんとアラ主任とビールを飲んでいたところに先日も来たWEB読者の元テレビカメラマン氏。
「また来ました。明日バンコクに帰りますので」
「それはわざわざ」
 開店二日目は客0も考えていたので嬉しい誤算。
「こんばんは」
 次に入ってきたのは驚きの顔。カフェ・ビエンチャンを作っていたときにいろいろと手伝ってくれていた文化人類学者の卵、インディ嬢ではないか。
「さっき日本から着いたところなんですよ。また研究調査です。とにかくお腹すきましたから何かください」
「じゃあラタトゥイユを」
 今日のメニューはこれしかない。
3HORII.JPG「お腹すきました」
 そう言ってやって来たのはラオス人に美容技術を教えているビューティ・ホリイ、昨日に続いてのお出ましが嬉しい。
「ではラタトゥイユを」
 一品メニューを偉そうに出すおれ。しかしこれがカフェ・ビエンチャンなのだ。
 結局この日のお客はこの三名のみ。しかし初日とは違って、ゆったりまったりと酔っ払えた楽しい夜なのであった。
「おいしい! これ!」
 声があがった。当たり前だ。カフェ・ビエンチャンだぜ! さて明日こそはきちっと料理を仕込むぞ!







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