特別編
■カフェ・ビエンチャン【臨時】営業中! 2009 その6
●二月二十一日(土)
早朝。カメちゃんと一緒にチャンタ・ゲストハウスにあるレストラン、通称"坂野亭"に行って朝食。寝不足に加えて、心地よい二日酔い。
坂野亭はビッグ坂野が調理人を勤めているレストラン。カレーが美味い。だから朝からカレー。しかし野球部出身の体育会系のせいなのか飯の量が半端ではなく多い。客はこれを"坂野盛り"と呼んでいるが、喜んでいる客と多すぎて食えないと思っている客の半々で賛否は分かれるところだ。
おれは老境を間近に控えたオッサンなので胃袋も小さく縮んで量は食えない。だから、おれの皿に限っては少なくしろと以前住んでいたときに散々注意していたのだが、どうやら忘れていなかったようで今回は適度盛り。よしよしと肯いて食う。
ところで今回、ビッグ坂野にはラーメンを作れ作れとけしかけていたのだが、遂にやる気になって先週完成。ずいぶん昔に池袋大正軒の味を受け継ぐ人気ラーメン店の経営に関わったことがあったので、そのときの作り方をいろいろと伝授したのだ。クロダ・プロデュースである。しかし目指したものは大正軒とは違った東京風のあっさりとした醤油味。これが絶品だった。作ったスープの量が少ないこともあって三日間で完売してしまったが、こんなにうまく出来るとは思わなかったというのが正直なところ。ビッグ坂野は、月に一回限定でメニューに出すと張り切っていたから、ビエンチャンの名物になるかもしれない。
午前中は何をするわけでもなく、ただぶらぶら。店も先夜で終了してしまったのでメニューを考える必要もなく、帰国する二十三日まではノンビリと世界平和について思いをめぐらすだけだ。
昼になって、とんでもないことが発覚。使わせてもらっていたブルースカイにあるカメちゃんの部屋の鍵を失くしてしまったのだ。実はこれで二度目。小学生じゃあるまいしと思うが、モノをよく失くすのは幼少期からの癖である。何でも失くす。とにかく失くす。だからなるべくモノを所有しないことにしているのだが、鍵ばかりは持たないわけにはいかない。それで結局失くして困る。今回もまた。
マスター・キーを持っているカメちゃんは仕事で会社だ。さすがに言い出せない。だが、このままでは部屋に入れない。おれの荷物も置いてある。何より使わせてもらっているパソコンで送らなければならない仕事もあった。
ちょうどやって来たアラ主任の携帯を借りてカメちゃんに連絡する。
「暇だから、これからカメダさんの会社に見学に行きますね」
バイクで二〇分。ビエンチャン郊外にある会社に着くと、門の前でカメちゃんがニヤニヤして待っていた。
「また鍵失くしたんですね」
「はい...」
お見通しであった。
夕方からブルースカイの一階で飲み始める。仕事が休みのアラ主任、ヨシダはるか嬢、ビューティ・ホリイに会社から戻ってきたカメちゃん。料理は昨日作ってお客に出さないまま忘れていた豚肉のビール煮。豚肉をタマネギやニンジンと一緒にビアラオで煮たものだ。厨房で働く小娘たちが、酔っぱらい豚だと言って笑いこけていたが、ビールで煮たせいでとても柔らかく、マスタードをつけて食べるとすこぶるウマイ。それに余ったクレソンでこしらえたサラダ。これだけで腹がいっぱいになってしまったが、ついでに昨晩の夜更かしがたたってウツラウツラ。まだ夜の七時になっていないというのに、気分はベッドの上である。
しばらく夢うつつで飲んだ後、皆でメコン河沿いにあるカクテル・バー"SAKURAN"に。東京の歌舞伎町にある店がビエンチャンに出したというバー。いなかった一年半の間に、こんな店が出来ていたとは驚きだが、ただただ眠たいのみ。合流したバルタン伊藤やストロング西山さんと格闘技の昨今などについてしばらく話していたが、どうにも瞼が重くなってきて先に帰る。
十時前には就寝。
爆睡。
●二月二十二日(日)
十分な睡眠のおかげで体調は快調。さらに失くしたと思っていたカメちゃんの部屋が出現。なんとブルースカイのチーフであるコンちゃんが持っていたのだ。どうやらおれが渡したらしい。そのことをすっかり忘れていたおれは単なるボケおやじか。
午後二時。定休日の坂野亭の厨房を借りてパスタを作る。お世話になった皆を呼んでの昼食会。カメダさん、アラ主任、ヨシダはるか嬢、ビューティ・ホリイ、そして坂野亭主人・ビッグ坂野の面々。
メニューはフレッシュ・トマトを使ってトマトソースを作りスパゲティ・ポモドーロを。もう一品は買ったまま使わないでいたフェタ・チーズと豆腐とトマトのサラダ。ポモドーロのパスタは絶品の出来だったが、サラダのほうは豆腐の味が悪くて大不評。おれのせいじゃない豆腐のせいだと言い訳をしたら、味見をして買ってこなかったのが悪いとブーイングを浴びる。豆腐を買うときに味見なんて出来ないだろうが! と言いたかったが言わずにスマンと謝る。最終日だ。波も風も立たせずに楽しくやろうというオトナの態度。
それにしても店が終了したのに嬉々として料理を作っているおれは、いったい何なのであろうか。まだまだ店を切り盛りし足りないのか。カフェ・ビエンチャンを再開せよという神の指令か。
アラ主任がデザートに絶品のミルクレープを作って来る。
うまいっ!
本来の仕事が忙しくてカフェ・ビエンチャンではその腕があまり発揮されなかったことが、あらためて残念に思える。彼女のスイーツ作りの腕は超級なのだ。今回の臨時開店にあたっては、その超級スイーツを目玉にしようと考えていたのだが。
ワインをしこたま飲んだ後は全員でメコン河沿いのオープン酒場に行き、沈む夕日を見ながらビアラオ。しかし手足にとまる蚊をビタビタ叩くのが忙しくて、皆夕日どころではない。
夜十時。カフェ・ビエンチャンの売り上げを一人で支えていたといっても過言ではない大常連のヤマダ焼肉大王が日本から来る。ラオスへの短期出張だ。
「お久しぶりです」
「どもども」
最後の最後になって、またまたカフェ・ビエンチャンにかつての仲間がお出ましだ。店を開けたら彼らはやって来る...。不思議な店だ。カフェ・ビエンチャンは。
「どうでした? お店は?」
「盛況だったよ」
もし店が開いている間であったなら、大王の大好きな牛タン炭火焼きを出したのだが、残念。
午前二時まで大王、カメちゃんと飲む。
ビエンチャン最後の夜。
明日は帰国だ。
● 二月二十三日(月)
早朝。サワナケットでの調査から戻ってきた文化人類学者の卵インディー嬢がやってくる。
「お土産です」
タケクで買ってきてくれたラオハイ。素焼きの壷に麹菌や米がびっしりと詰まっており、そこに水を注いで十分もすると不思議なことにさっぱりと甘いお酒が出来上がるという、ラオスやタイ東北部の村々で作られている地酒。
「ありがとう。嬉しいなあ」
元貧日会副会長であったインディー嬢の心使いに涙する。
午後五時四〇分の便でタイのウドンタニからバンコクへ。
短い再会は終わった。
皆はそれぞれ自分の仕事に戻った。
そしてカフェ・ビエンチャンはまた眠りについた。
再びがあるかどうかは分らない。
だが一つだけ確認したことがある。
カフェ・ビエンチャンは楽しい。
もちろんそこに集まる人たちも。

☆作った料理=*自家製ベーコンと夏野菜のラタトゥイユ*皮蛋豆腐*韓国冷麺*ビーツとニンジンのヨーグルトクリーム・サラダ*夏野菜のペペロンチーノ*フェイジョアーダ*焼きナスだれの冷し中華*夏野菜のサラダ*夏野菜のクリーム煮*無農薬マッシュルーム・フライ*無農薬レタスのサラダ*ポークチャップ・タコス*鶏レバーのクロスティーニ*ヤギ肉ジンギスカン*クレソンとトマトの山盛りサラダ*チョコレート・ムースとマンゴスチンのシャーベット添え(アラ主任作)*バナナのラム酒マリネ*番外=豚肉のビール煮・スパゲッティ・ポモドーロ・トマトと豆腐とフェタ・チーズのサラダ=以上20品
☆ドリンク=*ビアラオ*ワイン*スプリッツァ(白ワイン+ジンジャエールのカクテル)*ときどきジン・トニック
●二月二十四日(火)
ソウル経由で札幌に帰着。
雪。
さて。
明日はどこで何をしようか。
●二月二十一日(土)
早朝。カメちゃんと一緒にチャンタ・ゲストハウスにあるレストラン、通称"坂野亭"に行って朝食。寝不足に加えて、心地よい二日酔い。
坂野亭はビッグ坂野が調理人を勤めているレストラン。カレーが美味い。だから朝からカレー。しかし野球部出身の体育会系のせいなのか飯の量が半端ではなく多い。客はこれを"坂野盛り"と呼んでいるが、喜んでいる客と多すぎて食えないと思っている客の半々で賛否は分かれるところだ。
おれは老境を間近に控えたオッサンなので胃袋も小さく縮んで量は食えない。だから、おれの皿に限っては少なくしろと以前住んでいたときに散々注意していたのだが、どうやら忘れていなかったようで今回は適度盛り。よしよしと肯いて食う。

午前中は何をするわけでもなく、ただぶらぶら。店も先夜で終了してしまったのでメニューを考える必要もなく、帰国する二十三日まではノンビリと世界平和について思いをめぐらすだけだ。
昼になって、とんでもないことが発覚。使わせてもらっていたブルースカイにあるカメちゃんの部屋の鍵を失くしてしまったのだ。実はこれで二度目。小学生じゃあるまいしと思うが、モノをよく失くすのは幼少期からの癖である。何でも失くす。とにかく失くす。だからなるべくモノを所有しないことにしているのだが、鍵ばかりは持たないわけにはいかない。それで結局失くして困る。今回もまた。
マスター・キーを持っているカメちゃんは仕事で会社だ。さすがに言い出せない。だが、このままでは部屋に入れない。おれの荷物も置いてある。何より使わせてもらっているパソコンで送らなければならない仕事もあった。
ちょうどやって来たアラ主任の携帯を借りてカメちゃんに連絡する。
「暇だから、これからカメダさんの会社に見学に行きますね」
バイクで二〇分。ビエンチャン郊外にある会社に着くと、門の前でカメちゃんがニヤニヤして待っていた。
「また鍵失くしたんですね」
「はい...」
お見通しであった。

しばらく夢うつつで飲んだ後、皆でメコン河沿いにあるカクテル・バー"SAKURAN"に。東京の歌舞伎町にある店がビエンチャンに出したというバー。いなかった一年半の間に、こんな店が出来ていたとは驚きだが、ただただ眠たいのみ。合流したバルタン伊藤やストロング西山さんと格闘技の昨今などについてしばらく話していたが、どうにも瞼が重くなってきて先に帰る。
十時前には就寝。
爆睡。

十分な睡眠のおかげで体調は快調。さらに失くしたと思っていたカメちゃんの部屋が出現。なんとブルースカイのチーフであるコンちゃんが持っていたのだ。どうやらおれが渡したらしい。そのことをすっかり忘れていたおれは単なるボケおやじか。
午後二時。定休日の坂野亭の厨房を借りてパスタを作る。お世話になった皆を呼んでの昼食会。カメダさん、アラ主任、ヨシダはるか嬢、ビューティ・ホリイ、そして坂野亭主人・ビッグ坂野の面々。
メニューはフレッシュ・トマトを使ってトマトソースを作りスパゲティ・ポモドーロを。もう一品は買ったまま使わないでいたフェタ・チーズと豆腐とトマトのサラダ。ポモドーロのパスタは絶品の出来だったが、サラダのほうは豆腐の味が悪くて大不評。おれのせいじゃない豆腐のせいだと言い訳をしたら、味見をして買ってこなかったのが悪いとブーイングを浴びる。豆腐を買うときに味見なんて出来ないだろうが! と言いたかったが言わずにスマンと謝る。最終日だ。波も風も立たせずに楽しくやろうというオトナの態度。
それにしても店が終了したのに嬉々として料理を作っているおれは、いったい何なのであろうか。まだまだ店を切り盛りし足りないのか。カフェ・ビエンチャンを再開せよという神の指令か。

うまいっ!
本来の仕事が忙しくてカフェ・ビエンチャンではその腕があまり発揮されなかったことが、あらためて残念に思える。彼女のスイーツ作りの腕は超級なのだ。今回の臨時開店にあたっては、その超級スイーツを目玉にしようと考えていたのだが。
ワインをしこたま飲んだ後は全員でメコン河沿いのオープン酒場に行き、沈む夕日を見ながらビアラオ。しかし手足にとまる蚊をビタビタ叩くのが忙しくて、皆夕日どころではない。
夜十時。カフェ・ビエンチャンの売り上げを一人で支えていたといっても過言ではない大常連のヤマダ焼肉大王が日本から来る。ラオスへの短期出張だ。
「お久しぶりです」
「どもども」
最後の最後になって、またまたカフェ・ビエンチャンにかつての仲間がお出ましだ。店を開けたら彼らはやって来る...。不思議な店だ。カフェ・ビエンチャンは。
「どうでした? お店は?」
「盛況だったよ」
もし店が開いている間であったなら、大王の大好きな牛タン炭火焼きを出したのだが、残念。
午前二時まで大王、カメちゃんと飲む。
ビエンチャン最後の夜。
明日は帰国だ。
● 二月二十三日(月)
早朝。サワナケットでの調査から戻ってきた文化人類学者の卵インディー嬢がやってくる。
「お土産です」
タケクで買ってきてくれたラオハイ。素焼きの壷に麹菌や米がびっしりと詰まっており、そこに水を注いで十分もすると不思議なことにさっぱりと甘いお酒が出来上がるという、ラオスやタイ東北部の村々で作られている地酒。
「ありがとう。嬉しいなあ」
元貧日会副会長であったインディー嬢の心使いに涙する。
午後五時四〇分の便でタイのウドンタニからバンコクへ。
短い再会は終わった。
皆はそれぞれ自分の仕事に戻った。
そしてカフェ・ビエンチャンはまた眠りについた。
再びがあるかどうかは分らない。
だが一つだけ確認したことがある。
カフェ・ビエンチャンは楽しい。
もちろんそこに集まる人たちも。

☆作った料理=*自家製ベーコンと夏野菜のラタトゥイユ*皮蛋豆腐*韓国冷麺*ビーツとニンジンのヨーグルトクリーム・サラダ*夏野菜のペペロンチーノ*フェイジョアーダ*焼きナスだれの冷し中華*夏野菜のサラダ*夏野菜のクリーム煮*無農薬マッシュルーム・フライ*無農薬レタスのサラダ*ポークチャップ・タコス*鶏レバーのクロスティーニ*ヤギ肉ジンギスカン*クレソンとトマトの山盛りサラダ*チョコレート・ムースとマンゴスチンのシャーベット添え(アラ主任作)*バナナのラム酒マリネ*番外=豚肉のビール煮・スパゲッティ・ポモドーロ・トマトと豆腐とフェタ・チーズのサラダ=以上20品
☆ドリンク=*ビアラオ*ワイン*スプリッツァ(白ワイン+ジンジャエールのカクテル)*ときどきジン・トニック
●二月二十四日(火)
ソウル経由で札幌に帰着。
雪。
さて。
明日はどこで何をしようか。