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第14回

 私という存在の重心は、私の外側に存在するのではないかと思うのだ。というのも、私がそれはもうあらゆるものに振り回され続けているからであって、今ここで自分は微動だにせず視線をめぐらせて周囲を睥睨しているつもりが、じつは地球の自転により中心から半径約6,400㎞の地点で振り回されているのと同じようなものなのだ。ふとしたきっかけでそのことに思い至ると、なんだか身体に加速度を感じて頭がガンガンしてしまうのだ。
 これは単に私が被害妄想であるに過ぎないのかもしれない。2人以上の人間がおり、社会が成立する以上、誰しも少なからず誰か/何かに振り回されているはずだからだ。だが、私が世界の中心よという暑苦しい存在感を漲らせている人物も確かにいるように思われ、時に私のような人間がこうして頭をガンガンいわせる羽目になるのだ。

 私は決してマイナス思考ではない。地下街を歩いているときに急に天井が崩れてきて埋まったらどうしようとか歩道橋を歩いていて突然橋脚が折れて道路に墜落したらどうしようとか考えることはしばしばあるが、これは単なる妄想であってマイナス思考ではない。そうした妄想においては自分は崩れる天井の破片を巧みに躱しながら地上に駆け上ったり、崩れる足元の地面を見事に踏み越えながら無事に端まで辿り着くのである。そのとき自分はルパン三世を意識している。馬鹿というべきであろう。マイナス思考というよりはプラス思考、ペシミストというよりはむしろオプティミストである。危機的状況においても自分だけはアプリオリに助かったり生き残ったりすると考えているのであり、もっと現実的な例でいうと、仕事の締め切りにどう考えても間に合わないのになんとかなるだろうと高を括っていたりするのである。身の程知らずのプラス思考。この点がどうやら私の致命的な部分であるようだ。

 ところで、それに振り回されるものとして真っ先に私が思い当たるものに「時間」がある。「時間」に振り回される。このことは私の人生においてのみならず、万人において当て嵌まるものではないかとふと思ってしまうが、どうやらそうではないようだ。わが店のビジネス書売場を見渡してみると、「時間管理」「タイムマネジメント」の本が氾濫している。こうしたテーマの書籍はもちろん以前から存在するのだが、近頃とみに活発化しており、たくさんの本が出版されている。そういえばわが店でも先日までミニフェアで展開していたのであった。ものは試しと、「時間の達人」の本を何冊か読んでみた。

 『時間の教科書』(「おちまさとプロデュース時間の教科書」をつくる会編・日本放送出版教会)。テレビ番組(おもにバラエティ)で企画・構成・演出・プロデュースなどを手がけるほか、様々な分野で仕事をするおちまさと氏プロデュースのシリーズの最新版。第一弾『企画の教科書』のときは別の店にいたが、かなりよく売れた記憶がある。
 『企画の教科書』のときもそうだったが、小手先のテクニックというよりは「時間とは何か」と題された一節に顕著なように「時間」というものの考え方・捉え方といった「当たり前のこと」をやさしい言葉と的確なネーミングで再発見させようとする内容だと言っていい。その点については先にあげた「時間とは何か」を述べる第1章第2節の前に、第1節として「時間とは何か、を考える前に」として「既成概念にとらわれない」ことを述べるあたり用意周到な念の入れようである。
 もちろん技術的なことも書かれているのだが、その多くは基本的には普段からよく言われていること、他の書籍に書かれていることと大差ない。時間は逆算で考えるなどは当然どの本にも書かれていることである。「表現のしかた」の違いなのだが、逆にいえばその点こそがこの本が売れている大きな要因であると考えられる。ただ「ランチは目上の人と『しか』食べない」というルールを自らに課すことで「時間を巻ける」だけでなく「あなたブランド」という面白い財産を築くことができ、そうしてできた人脈からいい意味での偶然をもたらす「偶然体質」になることができるという考え方にはこの本の発想の特徴が現れているようで興味深かった。

 『時間管理セルフチェック』(ローター・J・ザイヴァート著・飛鳥新社)は、書き込み式のワークブック。ドイツで有名企業のタイムマネジメントアドバイザーをしている人らしい。90頁足らずの本であるが、まさに「基本」というべき考え方が順序よく並べられていて、とんでもなく秩序立った内容だと感じられた。著者自身の体験談が一切なく、ほんとにマニュアルみたいなワークブック。目標管理・優先順位などこれぞ王道といった感じだが、このまとまり方はすごいと思った。こういったワークブック式の本で実際に書き込みする人はいるのだろうか。私はしない。

 『とにかく短時間で仕事をする!コツ』(松本幸夫著・すばる舎)は、タイトルが挑発的。著者は日本の企業での研修や講演で時間管理などについて教える。本書は先の本とは正反対に「小手先のテクニック」集。言い方が悪いか。経験をもとに、生産性を高めスピードを上げるためのやり方を教えてくれるのである。こちらも基本的には基本的なことばかりなのだが、著者自身の経験から「この企画書を仕上げたら、PRIDEのDVDを観よう」というような「ご褒美作戦」を提案するなど涙ぐましいところもある。ヒントは多く詰まっているので、きっかけを掴むにはいいかもしれない。

追記1:時間管理の本を読みながらいつの間にか熟睡してしまい、翌朝肝を冷やす思いをした私にはタイムマネジメントなど無意味なような気がする。

追記2:さらによく考えてみると、私を振り回しているのは「時間」ではなく、それに関わる「人びと」ではないかと思うのだが、これを主張すると被害妄想以外の何者でもないと言われそうなので考え直すことにする。嗚呼。

追記3:以上をもちまして、簡単ではございますが、3ヶ月にわたり更新を怠っていた私の言い訳に代えさせていただきます(代わってないか)。御清聴ありがとうございました。

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