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第16回   「人事異動」

 人事異動があり、2月いっぱいで南町田店を去ることになった。丸2年の勤務だった。

 南町田店は、東急田園都市線・南町田駅前に作られた「グランベリーモール」というショッピングモールの中にある。「ビル」ではなく、アメリカ風の屋外モールなので、雨が降ると急激に客数が減る(半減覚悟)という不安定性が難点ではあるが、気候のいいときには、遊園地や公園のような、のびのびとした空気を味わうことができ、特に子どもやペットを連れて買物をしたい人には、喜ばれる環境だといえる。

 周辺は新興住宅街で、新しい家族が多い。20代後半から30代の若い夫婦とその子どもがメインターゲットで、いちばん売れる雑誌は『VERY』と『コロコロコミック』。ジャンル別の売上構成比をみると、雑誌の次が児童書で、へたをすると、『ぐりとぐら』や『いないいないばあ』のような定番絵本が、一般書の新刊を押しのけて週間ベストセラーの上位に食い込んだりする店である(万一この先、競合関係の変化等により売上がひどく落ちこむようなことがあれば、いっそのこと児童書専門店にして、広域からの集客を狙うという手もある、なんてことを半分冗談・半分本気で考えるほどである)。

 初めての店長職で、それらしい働きができたかどうか怪しいが、それでもこの2年の間、いろいろと手を加えてきた。思いついたことはできるだけ早く実行するように努めたが、しかしまだやりのこしたことがある。児童書の(2度目の)拡張と、それに伴う「ティーンズ」棚の設置は、いよいよレイアウト図面上のパズルの組み合わせがなんとかうまくはまりそうだというところまできた矢先の人事異動だった。もちろん後任店長に引き継ぐわけだが、自分の手でやってみたかったという思いは残る。「ティーンズ」棚というのは、かつてアメリカの書店を視察してきた上司が書いた報告書の中に、そういうコーナーがあったとあり、そういえば日本の書店ではあまり見かけないけれど、それは作ってみる価値がありそうだと思い、以来、考えていたテーマだった。最近、朝日新聞に、森絵都などを取り上げながら、この分野の隆盛について書かれた記事が載っていたが、「文芸書」と「児童書」の狭間に、面白い作品が多く生まれているのを、まだ書店の棚がしっかり表現しきれていない、という現状がある。もちろん、「ヤングアダルト」というジャンル分けはこの業界に昔からあり、たいていは「児童書」の一角に並んでいるのだが、「児童書」の世界においてそれらはあくまで傍流であり、絵本や伝統的な童話の奥に隠されているケースが多い。また、著者や出版社によって、「文芸書」に置かれたり「児童書」に置かれたりして、読者の興味関心に沿った分類になっていない場合が多く、書店としては、「機会ロス」の問題として、取り組むべき課題であるとも思う。私の場合は、いわゆる「ヤングアダルト」に、「文芸書」系の青春小説や学園小説の一部を加え、そこにコバルト文庫等々の「ティーンズ」文庫や、ノベルスの一部、あるいはアイドル関連の書籍や、イラスト系のキャラクター絵本、さらに、性・恋愛・思春期、引きこもり・不登校・リストカット、自殺、少年犯罪等々の問題群に関する書籍まで含めて集積し、「児童書」卒業後の読書をサポートできないかと考えていたが、この構想は、人事異動に伴い、私の手からは離れることになる。

 そして今度は、全く違う客層の、新店の立ち上げに関わることになった。都心のオフィスビル、店の約半分をビジネス書が占める。さて、頭の切り替えが必要だ。
 それにしても、南町田店で過ごした2年間は、予想以上に楽しいものだった。いつも真剣で前向きなスタッフに恵まれたことが大きいと思う。こんなところで言うのもなんだが、「ありがとうございました」。

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