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第2回 2002年1月△日

 書店にとって毎年恒例の季節商品にカレンダーがあるが、これがなかなか曲者なのだ。中小書店では、ただでさえスペースがないのに、プラスアルファの場所を確保しなければならない。その上、ディスプレイに手間がかかる。判型はマチマチだし、見本を出さなければなかなか売れないし、でも見本を出すと結構乱暴に扱うお客さんもいて、ボロボロになってやたら売り場が乱雑にあるわで、頭を悩ますことこの上ない。

 また、返品ができない商品もあるので(通常、本や雑誌は買い切り商品を除けば、委託期間内なら返品ができる。)仕入れる量を決めるのがなかなか難しい。売れ残れば損をするし、たとえ全部売ったとしても、実はもっと売れたのではないか、ということになって、これもまた問題なのだ。そして、カレンダーの発注は、初回注文のみというのが通例で、追加が効かないことが多い。まして、僕の勤める東京ランダムウォークは、カレンダーは全部輸入ものなので返品できないし、追加も無理。(追加できても、荷が海外から届くのは間違いなく翌年だろう。)てなことで、年末から1月中旬ぐらいまでは売れ残りがでない様ディスカウント販売することになる。プライスを貼り替えて、店頭の目立つところへディスプレイ。オープンして、1ヶ月足らずの東京ランダムウォークはまだまだお客さんが少ない。が、さすがに店頭の威力は絶大。みるみる在庫が減ってゆく。レジを打つのもカレンダーばっかり。折角、店内まで足を運んで下さったんだから、本も見てってよ、なんて口が裂けても言えないけど、嬉しいような寂しいような・・・。お客さんによっては見本をレジまで持ってくる(見本には赤マジックで大きくディスカウントプライスを貼ってあるせいかもしれないけど、見本の下にまだ沢山平積みされた在庫があるのです。)結局、店頭まで僕が走っていって見本を戻し、商品をレジまで運ぶ。お客さんも太っちょの僕がダッシュでカレンダーを持ってくると結構感謝してくれる。こんなケースが1日何度となくある。

 先日も、このお決まりのコースで見本のカレンダーを戻しに店頭へ、と、そこには何やらどこかでお見かけした紳士がじっとカレンダーを見つめている。まずは、取り急ぎレジで待つお客さんの所へカレンダーを届ける。まさか・・・。もう一度店頭へ引き返す。なっ、なっ、なんと、やっぱり。超有名国会議員のH先生ではないか。近くにお住まいということは、ストライプハウスギャラリーの館長さんからお聞きしていたが、こんな間近にラフなジャンパー姿のH先生にお会いするとは、ちょっとびっくりだ。
「こんにちは。」にっこりと微笑むH先生。奥様同伴だ。プライベートタイムなのだろう。
「いつも娘がお世話になっているみたいで・・・。」お世話した覚えはないけど、どうも、娘さんがよく来店されているらしい。近くに、面白い本屋さんが出来た由、父上に報告してくれたみたいだ。有難いことです。

 挨拶もそこそこに、「ぜひ、店内も御覧になって下さい、どうぞ。」僕が案内すると、「今日はあんまり時間がないんだけど・・・。」とウィンドー越しに店内を覗き込む。(東京ランダムウォークが入居したストライプハウスビルは、先日の日記でも触れたが、以前美術館だった。建物の作りは、なかなか斬新である。前が、大きな曲面のウィンドーで覆われている。1F売り場は地上より少し低くなっていて、そのウィンドーから覗くと、全体が見渡せて壮観だ。六本木芋洗坂のクリーム色と茶色のストライプのビル、正面が大きなウィンドー、これが目印。ご来店お待ちしております。)
「でも、そそられちゃうなあー。」と呟きながら、嬉しそうに1Fへのステップを降りて行かれる。開店1ヶ月足らずで国会議員の先生が御来店なんて、話のネタとしてはバッチリだよなあ・・・。なんてことを思いつつ僕もすぐ後へと続く。店内を1FからB1Fへとしばし視察(やっぱり議員さんには視察という表現がぴったりしますな。)
 第一声、「これじゃあ娘も長居するわけだ。」と感心していただいた。そう、お客さんには長居してもらって、じっくり本を選んでいただく、そんな書店を僕らは目指している。お世辞でも嬉しくなってしまう。
「ありがとうございます。」と僕。
「今度時間のある時にゆっくりお邪魔します。では。」
ほんの短い滞在だったけど、印象的な独特の流し目の余韻が店内にいつまでも漂っていた。案外気さくでいい雰囲気の人だ。TVの政治討論番組なんかから受ける感じとはだいぶ違っていた。政治家に直接会うとファンになってしまう人は結構いるらしいけど、こういことなのかもしれない。

 H先生が帰ってしまうと店内は急に寂しくなってしまった。あたりを見回すとお客様ゼロ状態。ほとんど宣伝しないでオープンしたお店、認知されるのには時間がかかる。わかっちゃいるけど辛いとこですな・・・。芋洗坂は休日ともなるとめっきり人通りが減ってしまう。六本木地区の大規模な開発が完了すれば、この通りも活気が出てくると思うが。でも、そんな悠長なことも言ってられないし、どうしたもんかな・・・。「H先生、先生のお力でどうか一つ。」などと冗談とも本気ともつかぬことを呟きたくもなる。それにしても、今日の寒さは一段と身に沁みる。仕事が終わったら速攻で家に帰って、熱燗を呑もう。寒い冬の夜はこれが一番!

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