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第26回 2003年3月□日

 ウソのようなホントのはなしだけど、とにもかくにもこんな感じで東京ランダムウォーク赤坂店出店は決定したのだった。事の始まりは、社長が偶然その赤坂の空き物件の前を通りかかり、ビビビときたらしい。即、不動産屋さんにTEL、とんとん拍子に話は進んでいったようだ。まるで、東京ランダムウォークの入店を待ちわびるかのように、繁華街の一画に、ひっそりと、いや、堂々と、いや、派手々々しく、そのビルは聳え建っていた。地下鉄赤坂見附駅から徒歩1分程、赤坂方面へ向う田町通り添い。隣が東京三菱銀行で、まわりには様々な飲食店が建ち並ぶ繁華街だ。はっきり言って、めちゃくちゃ立地いいです。朝から夜遅くまでたくさんの人で賑わっている。街並はオシャレでアダルトな雰囲気、その中で、一際異彩を放っているのが、これから東京ランダムウォークが1F、2Fに合わせて75坪程で出店することとなる、パンジャパンビルだ。店頭を飾る円柱の柱の色はゴールドです。派手でございます。かなり、いっちゃっております。派手々々しいという言葉があたっているかどうかはわからないけれど、うまい表現が見つかりません。是非、一度その目でお確かめ下さい。ちなみにオープン予定日は4月22日(火)。心より皆様のご来店お待ち致しております。僕も、その日より赤坂店勤務となります。よろしくお願いします。

 そんな訳で3月3日のひな祭りの契約成立以降、嵐のような怒濤の出店準備の日々が僕等を襲った。今回の赤坂店の物件はスケルトン渡しが条件なので、床も天井も壁もコンクリ丸出しのまま、電灯もないし、もちろんエアコンもない。すなわち、店舗としての設備全くなしの状態からすべてを整えていかなければならない。内外装、設備等のプランを業者さんと詰めていく作業が、もうその翌日から始まった。とにかく時間がない。連日、業者さんから送られてくる、プラン、図面、見積りの幾度とない調整、折衝の繰り返し。そして什器のレイアウト、店のコンセプトの話し合い。取次さんとの条件の交渉、搬入の段取り等の打ち合わせ。並行して、本の発注作業、版元さんへの出荷のお願いの挨拶まわり、アルバイトさんの採用、開店の為の備品の調達、等々。めまぐるしく次から次へと難題が日々ふりかかってくる。その間、僕等は、六本木のストライプハウス店と神田店、2店舗の日々の業務にも追われるのだ。ちっぽけなお店だし、六本木はまだまだお客さんが少ない、とはいえ、店を開けていればそれなりにやらなければならないことはあるわけで、まして2店舗とも、常駐2名でやり繰りしているので、1人が新店舗準備の仕事で外へ出なければならなくなると、残った1人で店を守らなければならないのだ。結構こたえます。そして、書店の命ともいえる本の品揃えも、少ないスタッフで75坪程の店とはいえ、1冊1冊あれこれ考えながら選書していくと、かなり大変だ。搬入日から逆算して約1ヶ月前までに取次さんに発注書を渡さなければならないので、店舗のハード面の手配と並行してすぐに選書作業を始めた。実際、日常のお店の業務と新店舗設備等の準備で、選書作業はなかなかはかどらない。取次さんへ提出する期日は刻々と迫ってくるし、焦りに焦った。結局、休みの日や、睡眠時間を削ってやるしかないのだ。二晩程徹夜した。20時間ぶっ通しで選書なんてこともした。その間、パン3個、缶コーヒー3本、ユンケル2本、たばこ2箱。あらかじめ、自分の担当ジャンルの棚ごとの冊数を算出しておいて、それに従って作業を進めていくわけだけど、疲れがピークに達してくると何が何だかわからなくなってきて、結局、勘で“こんなもんだろ”みたいなノリになってくる。だからといって適当にやっているというわけではなく、ボロボロになっても、精神の芯のところでは“いい店つくるぞ!”という最後の気迫みたいなものは崩していないつもりだ。夜が白々と明けてくる頃には、疲れさえも心地よく、恍惚、忘我、無意識に発注書に数字を書きこんでいる。意識がこのようなステージにさしかかると、ようやく選書作業も終わりに近づいてくる。

 選書はきつい作業だけど、書店員にとって、実は反面とても楽しいひとときでもある。目録や注文書の本のタイトルを見ながら、自分のイメージを膨らませ、自分のなかにある理想の書店像に想いをはせる。僕にとって選書は至福の時間ともいえるのだ。だから、少々しんどくても決して手を抜くことはできない。それが書店員としての、かけがえのない矜持なのだ。などと、偉そうなことをいっても、やっぱり終わってみると、あの本注文したかな?とか、あれは注文しなくてもよかったなとか、もっと時間があって落ち着いて選書できたらなあとか、次々と後悔の念が沸き上がってくる。ウジウジ、クヨクヨ。いつもそうだ。新店舗の選書作業が終わるたびに、僕はいつも、ウジウジ、クヨクヨだ。いや、たとえ準備期間がしっかりあったとしても、必ずしも思いどおりの店ができるかというと、そんな保証はどこにもないのだ。合理的に過不足なく計算し尽くしてつくった店が、いい店になるかどうかなど誰にもわからない。ここが店を作るときの難しさだ。人生ままならない。不条理な要素が必ず介在する。重要なのは、単純だけど“いい店つくるぞ!”という気迫、熱なのだ。そして、その熱こそのみが良きものを作っていくんだと思う。

 今日から、新店舗の内外装工事が開始された。昨日まで、スケルトン状態の店舗の中で、仮説の電灯を灯し、ワゴン数台で洋書のバーゲン品を新規に雇い入れたアルバイトさん2人で販売してもらっていた。これが、なかなかの売上をたたきだした。これは、いける!赤坂店の準備にも自ずと力が入るというものだ。バーゲンセールの撤収作業から戻ってきたイナバが興奮した面持ちで話す。「セール最終日ということもあるけど、すごい活気あったぞ、ナベ。本を選ぶお客さんの目の色が変わっちゃってるんだから、これが、いやーすごかった。」店を作るスタッフの熱も重要だけど、何よりこのお客さんの熱こそが、いい店をつくりあげる推進力になってくれるのだ。4月22日(火)オープンに向け、明日からも一段と忙しくなりそうだけど、熱い店づくり目指し、もう一踏ん張りだ。

 今日、六本木ストライプハウス店の向いの中学校の桜が開花した。ちょうど1年前、花見の段取りに忙しかった僕は、今年こんなことになるとは夢にも思わなかった。不思議な感慨を持って、僕は開花した桜を見上げた。春は必ずやってくる。六本木ヒルズのオープンも間近に控え、芋洗坂の人通りもにわかに増えてきた。東京ランダムウォークの春も近い!?

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