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第15回:~沙羅双樹の花の色~

 フライディナイト、その事件は起こった。
 青山ブックセンターが倒産したのである。

 倒産した本屋がどうなるか、みなさん知ってますか?
 本屋にある在庫はほとんどが借り物(委託)商品だ。返品をすればお金が返ってくる。なので自主的に本屋をたたむ場合は、速やかに本達は返品され、出版社も流通会社の取次ぎもそんなには損をしない。ところが「倒産」になると話は別で、店頭にある本を差し押さえられてしまうのだ。負債元に流れる前に取り次ぎは本を回収しなければならない。
 7月16日17時を回って、銀行からの申請で倒産が決まると、今の今まで普通に営業していた本屋に取次ぎの人が入ってきて、有無を言わさずに本を箱詰めしてゆく光景。それは信じられないくらい悲しい場面だ。後から聞いた話だが現場担当者はまったく倒産の事を知らされていなかったそうだ。
 
 17時の段階でとある筋から情報が入り、この事実を私は知った。スグに休憩中の店長に伝えると「見てくるっ」と煙草を後ろポケットにねじり込みロケットダッシュで走っていった。私の勤務する新宿のマイシティという駅ビルと駅を挟んで反対側の駅ビル、ルミネに青山ブックセンター(通称ABC)が大型書店として入っているのだ。店長が見てきたときにはまだ何も動きは無く、普通の業務だったそうだ。それから約1時間ごとに色んな業界関係者から私の携帯へ連絡が入ってきた。その状況変わる速さたるや凄まじいものがあり、もし自分が当事者だったら?と本当に背筋が凍る思いだった。いくつかの店舗はその夜の22時を過ぎた頃には、本はほとんど棚に無かったという。
 
 手間をかけ慈しみ本を並べて売り場を造る私たち。私の売り場から見知らぬ人が本を抜いて箱に詰める。ハチクロの棚も、バッテリーの棚も、新刊の平台も、問答無用で撤去されてゆくのだろう。空の棚には心を込めたPOPだけが残ってゆく…怖いなぁ、悲しいなぁ。
 
 翌々日に、とある本のお問い合わせを受けた。定期購読の件だった。可能な事と難しい事をご説明すると「実は私くし、青山ブックセンターの者でして…」と言う。今まで定期購読をしていただいたお客様を受け入れてくれるお店を探しているとの事。「ABCさんは芸術や専門書で有名だったんで、直取引のものも多いと思います。そういったものの取り扱いはウチの店では今はやっていないんですが、ご事情は分かってますので、ウチで出来る事でしたらどうぞご案内下さい」とお答えした。こんな状況にめげずに、しっかりと後処理をしている姿がそこにはあった。
 
 個人的にも好きな本屋さんでしたよ。自由で、明るくて、都会的で。コミックをビニールパックに入れない立ち読み自由の最後の大型店でもありました。サイン会とかイベントも沢山やって、休み時間に偵察によく行ったな☆ こんな事になって寂しい。本当に寂しいよ。
 
 一つの大きな本屋が町から消えたのだ。業務的にも影響が出ないわけがない。専門書、学術書、資格関連、芸術系やお洒落な本、それらはかの紀伊国屋でも適わない部分があったと聞く。ABCの常連さんを少しでも受け入れるためには、何をどのくらい仕入れたら良いのだろう? 限りある売り場のラインアップの見直しにおおわらわの山下書店。秋には1200坪(ウチの10倍の広さね)でジュンク堂が新宿に出てくる。色んなことを考え、グルグル回る頭の中は不思議の国に迷い込んだかのようだ。青山ブックセンターの跡に更なる大型書店なんかが出てきた日にはココのコラムの題名は「不思議の国のお嬢」か「新宿のアリス」に変えてもらおうかな? いやいや色んな戦いに打ち勝って「魔女と呼ばれて」とかに変えてもらえるようがんばろう☆とも思う。
 
 
 

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