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第14回 2002年7月△日

 お店の紹介が雑誌に載るのは、現場で働く書店人にとってはとても光栄なことだ。まして、新規店ともなれば宣伝効果も期待できる。願ってもないチャンス、逃す手はない。取材は千客万来、来るもの拒まず、全てOKだ。東京ランダムウォークは取材の依頼があると、いつも二つ返事でお受けしている。それにしても、オープン半年ちょっとの書店にしては取材依頼が実に多い。雑誌の依頼は、僕が記憶している限りでも、Hnako、an・an、Style、FIGARO japon、装苑、雑貨カタログ、デザインの現場、等々。Hnako、an・anなどには複数回登場していると思う。他にも思い出せないものも含めるとかなりの数になるんじゃないだろうか。常駐2名でやりくりしているちっぽけな書店としは驚くべきことだ。一銭もお金をかけずに、宣伝できるんですから、ラッキーとしか言いようがない。有難いことです。

 雑誌の取材にはいくつかのタイプがある。まず、書店にとって一番うれしいお店の紹介の取材。たいていが地域特集の中で取り上げられることが多い。たとえば、六本木特集とか渋谷特集とか、テーマが雑誌の表紙を飾っているやつ、よく見かけますよね、特集の定番といえるもの。その中で、こんな個性的で面白い本屋さんがありますよ的なノリで掲載される。お店の外観や内観の写真付、簡単な地図付であったりすることが多いので、宣伝としては効果大だ。

 本の紹介の取材も書店にとっては有難い。あるテーマに沿ってお薦め本をピックアップする。本の問い合わせ先のクレジットが掲載されるので思いがけない売上に結びついたりする。が、全国から問い合わせがくるので、商品購入の手続き等、対応がなかなか大変な場合も出てくる。こういった取材で東京ランダムウォークが使われるのは、普通に書店流通している和書は稀で、掘り出し物的な洋書のビジュアル書が中心になる。必然的に、在庫が豊富にあるわけではないので、全国規模の問い合わせになったら、すぐ在庫切れになってしまう。残念ながら、お客様にあきらめていただくこととなる。少し悲しい。取材してくれる人がお薦め本を店内から選ぶ場合があり、そんな時僕は「在庫が一冊しかない本は選ばないで、お願い!」と思わず心の中でつぶやいている。雑誌の取材は急に舞い込んでくることが多いので、洋書の場合商品を手配して雑誌の発売日に間に合わせるのはほとんど不可能なのだ。かといって、どこにでもあるような商品が選ばれたところで、面白みに欠けるし、なかなかこの辺の兼ね合いが難しいところだ。という訳で、東京ランダムウォークは今のところ全国規模の問い合わせにもかかわらず、雑誌に載った商品に関しては、混乱することもなくスムーズに対応をしております。なにせ、最初の購入希望で売り切れ状態になることもあるのですから、トホホ……ガックリ。

 お店の宣伝効果ということからするとイマイチの取材もある。ファッションページのロケ。要するに、写真のカットの背景に使われるたぐいのもの。実は、この手の撮影依頼がダントツで一番多い。モデルさんが店内で立ち読みしたり、おしゃべりしたり、妙に明るい笑顔でポーズをとったりしているところを、バシャバシャ、カメラに納める光景を店がオープンしたての頃は、ものめずらしく眺めていたけれど、最近では慣れっこになって、お好きなようにどうぞ、というような感じになっている。はっきりいって、書店としての内容がどうのこうのという問題ではなく、ファッショナブルな雰囲気のロケーションを提供することが役目で、たとえば、それがカフェや雑貨屋さんでもいいわけだ。協力店としてのクレジットが小さく掲載されるけど、書店としてのメリットはそれ程ないだろう。とはいえ、誌面に店内の様子が映ったカットを見つけると、やはりうれしい。毎日働いている自分の職場の写真うつりに妙な感動すら覚える。ファッション誌のカメラマンはプロだけあって、うまいアングルを選ぶものだな、と感心する。思わず、写真と今いる現実の店内双方に目をやりながら、納得顔でニンマリしてしまう。

 東京ランダムウォークは以前美術館だったこともあり、1Fの天井がとても高く、店頭の大きな曲面のウィンドウからは見下ろすような視線で店内を一望できる。大理石の床と、赤で統一された書棚に、和書、洋書問わずビジュアル書がぎっしり面出しディスプレイされている光景は壮観だ。店が暇になると、僕はよく外でタバコをふかしながらそのウィンドウから店内を見渡す。働いている自分が言うのもなんですが、なるほどオシャレな空間だなと思う。この前を通りかかった、雑誌の編集者やカメラマンの目に留まっても不思議ではない。ファッション誌の写真の背景としてはなかなかのものなのだろう。

 どんなかたちにせよ、お店が取り上げられることは、そこで働く者としは喜ばしいことだ。本来の書店としての内容の充実も怠ってはならないけど、この際、東京ランダムウォークの持っているファッション性にもますます磨きをかけよう。今週は早速、店頭にオシャレなパラソルを置くことにしています。大胆な曲面のウィンドウをバックにパラソルの木陰で、物憂気にペーパーバックに目を走らせる大人の女性のカット。編集者、カメラマンの方々、ファッション誌の素材としてイケるんじゃないかと思うんですが、どうでしょう?

 ところで、撮影されるモデルさんたち、皆なんであんなに顔が小さいんですかね? 昔、外人のお客さんに、「ビッグフェイス!」と呼ばれて傷ついた僕からすると、とても同じ人間とは思えません。夏になると、僕は半ズボン姿で仕事をするんだけど、脚のすらっとしたモデルさん達を目の前にしていると、半ズボンから出ている僕の脚のなんと太くて短いことよ!。ファッション性以前の問題ですな、これは……。

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