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第27回 2003年5月○日

 しばらくぶりの更新です。新店準備のあわただしさはその後も続き、忙しさにかまけて日記さぼってしまいました。ただでさえ更新頻度の少ないこの日記、もう忘れさられていることでしょう。前回の日記の経緯からして、果たして東京ランダムウォーク赤坂店はオープンできたのか、疑わしくお思いの方もいるやもしれませんが(誰も気にしてないか)、間一髪ぎりぎりセーフ、予定どおり4月22日に無事オープンしました。やれやれでございます。大小さまざまなタイプの書店オープンに立ち会ってきた僕も、今回程短期間で立ち上げた経験は初めてだった。はっきり言って疲れました。

 ここはほんの1ヶ月程前までは、コンクリ剥き出しの床も天井も壁も、そして電灯すらない、とことん殺風景な空間だった。それが今や、ピカピカの内外装で覆われた。そして店内いっぱいに、ワインレッドの渋い書棚が所狭しと並べられている。エアコンも1F/2F合わせて計6台、最新型の機種のものが設置された。ドアだって自動なのだ。店頭には可動式のおしゃれなテントが、入口とショウウィンドウ上部に格納されている。3月3日、小雨まじりの雛祭り、契約時に覗かせてもらった薄暗い物件内部の様子からは、想像もできないような見目麗しき光景が僕の前に拡がっている。こんな短期間で、よくぞここまで美しく見事に仕上がったものだと我ながら悦に入る。自画自賛。勿論、僕がやったわけではなく業者さんがやってくれたんだけど。タイトなスケジュールをこなしてくれた業者さん、ありがとう。お疲れさまでございました。

 というわけで、音信不通になっていた東京ランダムウォーク赤坂店オープンの結末は、無事めでたしめでたし、なのでありました。随分とあっさりとした締めくくり? 正直、はっきり言って僕はオープンできたことだけで満足、少し気が抜けてしまった。とりあえず、めでたしめでたし、という気分なのだ。そんな気分もつかの間、オープンしたばかりの店の前を掃除していたら社長がつかつかと僕に歩み寄る。

「ナベさん、今度は稼いでよ、頼むよ、お金かかってんだからさあー。」と一言。ガ―ン。重い、実に重い。今日も一日がんばろうと、すがすがしい気持ちで迎える朝一のおコトバとして、これ程重いものはない。確かに、お金かかってる。それは間違いない。内外装、最新式のエアコン6台、自動ドア、ワインレッドの書棚、可動式テント2台、ショウウィンドウ設備、パソコン、電話、FAX…。そして何より、本、本、本、本……本。これみ―んな、お金かかってる。すごいお金かかってる。ギャ―。わかっております。身に沁みてわかっております。だけど、今日だけはオープンできたことの喜びだけに浸っていたい、お願い、許して。などとは、勿論口が裂けても言うことはできない。

「稼ぎます。頑張ります。」と、僕は力強く答えた。

 そうなのだ、本番はこれからなのである。オープンは終わりではなく、紛れもなく始まりなのだから。気持ちを奮い立たせ、1ヶ月半に及ぶ準備期間の辛苦によってヘロヘロになった身体と頭に喝を入れ直した。

 オープン当日は、慌ただしくもつつがなく乗りきった。そして、閉店時刻の22:00。
いよいよ今日一日の売上計算だ。結果、少しガッカリ。僕の期待の数字には届かなかった。昼時や夜の時間帯は、お客さん結構入っていたのに。六本木のストライプハウス店の異常に高い客単価に慣れてしまったせいか、客数の割に売上が意外と伸びていないことに愕然。商売は厳しい、ほんとに。

「ナベさん、今度は稼いでよ、頼むよ、お金かかってんだからさー。」社長の朝の重い一言がフラッシュバック。くくくくくっ。辛いとこですなあ、などとも言ってられない。何が何でも売上伸ばさなくては。まずは、商品の充実を早急に計り(まだ未入荷の本が多数あるのだ)販促活動にも着手し(オープンに際し宣伝活動はしなかった)店頭ワゴンセールを実施し(洋書のバーゲン品はオープン時販売しなかった)等々。やれることは山ほどある。こんな風に書くと、なんか焦っているように思われるかもしれないけど、実はそうでもない。勿論、やれることはやるべきだけど、焦ってはいけない。書店にとって重要なのは、結局のところ漠然としてはいるけど、いい店つくるしかないのである。いい店つくって、お客さんに受け入れてもらって、買っていただく。それ以外ない。小手先でいろいろ策を弄してもダメ。しっかりと、地道に、いい店つくるしかない。いい店の基準は何なのかと問われても、答えられない。それは、その店で働くスタッフ全員が、お客さんとともにつくっていくしかない。少々、時間がかかるのだ。

“悠々として急ぐ”この悠々の部分を大切にしないと、結局誤った道を急ぐことになりかねない。ここが難しい。

「ナベさん、今度は稼いでよ、頼むよ、お金かかってんだからさー。」またまたあの一言がフラッシュバック。それにしても、やっぱり重いなあ、このおコトバ。稼ぎてぇー、稼ぎたいです。でも焦ってはいけない。悠々として急がさせていただきます。

 怒濤のオープン。あれから早1ヶ月。やっと店も落ち着いてきた。売上は一進一退といったところだ。救いは、オープン時の売上をだいたい維持できているところか。普通、オープン日の売上をトップに数字は下がるものだけど、この赤坂店は下がってこない。逆に、弱冠上回る日もポツポツでてきた。宣伝ゼロでスタートしたことを考えれば、地域に認知されていくのもこれからだろう。これだけ人通りの多い立地だ、店を開けていれば開けているだけ徐々に知れ渡っていくはずだ。売上も少しづつ、じわじわと伸びていくと僕は確信している。勿論、いい店つくることが前提ですけど。

 話しは変わるけど、赤坂見附の飲食街の充実ぶりはスゴイ。いやがおうにも食欲がそそられる。あっさりと手弁当の習慣も放棄した。少々出費がかさむのも覚悟の上。僕は毎日食事時、ウキウキと目移りしながら街をうろつく。おかげで疲労困憊の日々にもかかわらず、なんと、少し太った気がする。なぜだか、僕の食欲はどんな時にも落ちることはない、まったく。

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