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11月29日(月)

 月曜日は疲労困憊だ。

 そりゃあ、土日でサッカーを見、やり、教えれば疲れるというもんだ。私に必要なのは勤労感謝の日ではなく、休日感謝の日かもしれない。

 そうは言っても仕事は待ってくれず、本日は『おすすめ文庫王国2010-2011』の初回注文締め日。ジグザグ営業の末に〆作業をするが、こんなことをすでに十数年やっているのに、なぜか飽きない。営業って不思議だ。

 組版職人兼デザイナーのカネコッチから、『だいたい四国八十八ヶ所』のカバーデザインがあがってくる。帯に工夫を凝らしたデザインで一人悦に入る。

 帰宅は酒も飲んでいないのに終電。
 もちろん当社の辞書にも聖書にも経典にも残業代という文字はない。

11月26日(金)

  • フットボールサミット 第1回  ザックに未来を託すな。
  • 『フットボールサミット 第1回  ザックに未来を託すな。』
    西部謙司,木崎伸也,木村元彦,小澤一郎,宇都宮徹壱,岡田康宏,ミカミカンタ,後藤健生,山本浩,『フットボールサミット』議会
    カンゼン
    1,430円(税込)
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  • ふたりサッカー (ジェッツコミックス)
  • 『ふたりサッカー (ジェッツコミックス)』
    倉敷 保雄,あらゐ けいいち
    白泉社
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 通勤読書は、サッカー本を読む。

『フットボールサミット』(カンゼン)は、タイトルから座談会のようなものかと思ったが、西部謙司や宇都宮徹壱など現在第一線で活躍されるサッカーライターが、現在の日本サッカーの問題点に付いてそれぞれ原稿を寄稿しているものだった。

 私は浦和レッズの試合で興奮していればそれで満足なのだが、みんな真剣なのである。木村元彦による湘南ベルマーレの経営に関してのインタビューはとても刺激的だった。

 その『フットボールサミット』のなかで、「サポティスタ」の岡田康宏が、金子達仁を的確に批判し、逆に高く評価したのが倉敷保雄なのだが、その倉敷保雄が、友だちに語るようにサッカーの魅力やカルチャーについて綴ったのが『ふたりサッカー』倉敷保雄(白泉社)。

 我が最愛のサッカー番組「Foot!」やプレミアリーグの実況でおなじみの倉敷氏なのであるが、その情報量と引き出しの多さに脱帽である。いつか本の雑誌別冊『Foot!』を作りたいというのが、実は私の野望なのであった。

 営業の後、酒とつまみ社を訪問し、大竹聡さんと『下町放浪 浅草・上野・神田ぶらりぶらり』の取材へ。実は大竹さん、『en-taxi No.31』で小説を書いているのであった。酒ばかり飲んでいるふりをして油断させているのかと思ったが、この夜もとことん酒に飲まれていた。

11月25日(木)

 本日もとある書店さんに『定食と文学』を直納。売れているようで、うれしいかぎり。

『おすすめ文庫王国2010-2011』の初回注文〆日直前で、あちこち営業で駈けずり回っている。ザ・師走。

 これが終わると年内の新刊はないわけで落ち着けるかというとそうではなく、1月、2月の刊行の単行本、宮田珠己『だいたい四国八十八ヶ所』と高野秀行『世にも奇妙なマラソン大会』が自分編集本なので、今度は営業と編集の二足のわらじで大わらわ。

 まあ本と接していられればどんなに忙しかろうと問題ないし、浦和レッズのロクでもない成績を忘れるには忙しいくらいがちょうどいい、か。

 無印良品のバーゲンで、コートを買う。これで冬が越せる。

11月24日(水)

 どこへ行っても齋藤智裕こと水嶋ヒロの『KAGEROU』(ポプラ社)の初回注文数の話題となる。責任販売制の上の満数出、入荷と返品の正味(掛率)に差があるため、書店さんはいつになく慎重に自店の販売数を予測しているのだ。

「バイトに聞いたら興味ないっていうから少なくしちゃった」
「夜、キャバクラ嬢からの問い合わせが結構多いのよ。予約はしてくれないんだけど彼女たちの分も考えないと」

 内容もカバーもまったくわからないなか、それぞれの書店さんが独自の調査で頭を悩ませている。

「まあとにかくこうやって店頭や業界が祭りになるのは楽しいよ」

 ポイントカードや買取も含め、こうやって再販制度や委託配本制度は、なし崩し的に変わっていくのだろうか。

「うちは注文少ないよ。だって『ダ・ヴィンチ・コード』が倉庫にまだいっぱいあるからね」

 自店の棚にないという販売機会の損失と売れ残るかもしれないという損失は、どちらが健全かといえば当然後者の方だろう。どんな結果になるか『KAGEROU』の内容以上に興味深いのであった。

11月22日(月)

 朝イチで、「本の雑誌」と先日刊行したばかりの『定食と文学』今柊二の追加注文が入り、すぐさま直納に向かう。

 何も取次店があるんだから持っていかなくてもいいじゃないですかという声が、主に年末業務で忙しい事務の浜田から聞こえてきそうだが、好きなんだから仕方ない。重い荷物を軽い気持ちで背負って町を走る。

『定食と文学』を届けたのは神保町の東京堂書店さんで、もう間もなく引退される店長のSさんにお渡しすると、「あっ、もう売れて在庫が減っちゃったから平台外しちゃったよ」と冗談を言われる。思い起こせば東京堂書店さんに納品するたびにこういうやりとりをしていたのだが、それがなくなると思うと淋しい気持ちでいっぱいだ。

 その後、東京駅の八重洲ブックセンターさんを訪問し、担当のUさんと本のはなし。

「杉江さん! 佐藤多佳子さんの『第二音楽室』もいいけど、12月にでる長編『聖夜』はもっといいんですよ!」
「えっ! ゲラで読まれたんですか?」
「いや雑誌で読んで感動したんですよ」

 文芸誌をきちんと読んでいる人には勝てない。

 そのUさんからは、1月刊行の奥田英朗の新作と12月刊の樋口毅宏『民宿雪国』(祥伝社)を薦められる。

 9月頃から新刊が大量に出ており、読んでも読んでもまるで追いつかない。参った。

11月18日(木)

  • おすすめ文庫王国2010−2011
  • 『おすすめ文庫王国2010−2011』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    8,109円(税込)
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 月イチの頻度、まるで部活帰りの学生のようにしゃべくりあっているので、すっかり高野秀行という人の恐ろしさを忘れていたが、その新作『腰痛探検家』(集英社文庫)を読んで、改めて思い知らされる。

 そうなのだ、高野秀行は狂っているのだ。狂っていなければ、世界のあんな秘境までわざわざ未知動物や怪獣を"本気"で探しにいけないだろう。しかもそれは高野さんにとってネタでもなんでもなく"本気"なのだ。"本気"と"狂気"は紙一重というか、同じなんだ。

 今回その狂気が向った先は、自身がここ数年悩まされている「腰痛」で、その痛みから解放されるため様々な治療法に突き進んでいく。そのやり方はいつもの探検のパターンと一緒で、ここがダメならあそこ、あそこがダメならこっちと、まさに『放っておいても明日は来る』で本人が語っている「『絶対無理』の七、八割はどうにかなる」の精神で、しまいには動物病院のお世話になったりするのである。

 相変わらずの軽妙な文章に大笑いさせられてしまうが、いやはやほんと狂っている!

★   ★   ★

 神保町の東京堂書店ふくろう店のHさんと明日搬入の『定食と文学』今柊二さんのサイン本納品の打ち合わせをした後、本店のKさんとお話。「まだなにもできてなくて」とおっしゃるが、江戸川乱歩の異様に濃い棚が出来ていたりとじわじわと工夫されている様子が伺える。

 その足で、池袋へ移動。
 リブロのYさんから『おすすめ文庫王国2010-2011』の注文を頂きつつ、最近の面白本の話となる。Yさんの机の脇にはこれから購入しようとしている本がうず高く積まれているのだが、その守備範囲の広さと、知識の深さに頭を垂れる。いつまで経っても追いつけない。

 道を渡って、ジュンク堂の田口さんを訪問。
 サッカーの話をしつつ、そういえば往来堂のOさんが、田口さんの著書『書店風雲録』を再読し、そのあまりの良さに改めてシビれ、往来堂のフリーペーパー「往来っ子新聞」に書いてくださったこと、そしてそれを見た、別の書店員さんが、『書店風雲録』を読んで感動し、自分もいつかこういう本が書けるような書店員になりたいとネットで呟いていたことを報告していると、なんだか私も田口さんも涙目になってしまい、「あの本、出せてよかったね」と頷きあったのであった。

 ことあるごとに言ったり、書いたりしているのだが、もし私にこの世に生まれてきた価値があるとするなら『書店風雲録』の企画と執筆依頼をしたことだと、本気で思っている。そしてそれがもう出版して7年も経つというのに読み継がれている事実。たとえ文庫になってしまったとはいえ、その喜びは何ものにも代えがたい。

 そのまま歩いて雑司が谷の狭小古本屋「ひぐらし文庫」を覗くが、先客が二人もいて、お店に入れず。外から覗き、店長さんの元気な姿を確認し、駅へと戻る。鬼子母神の参道には、色とりどりの枯れ葉が舞っていた。

11月17日(水)

 ない、ない、ない。
 娘の机の上にも、妻の三面鏡の引き出しにも、台所の棚にもない。

 私が探しているのは、我がニンテンドーDSが保管されている娘の机の引き出しの鍵である。
 まさか一日1時間という約束が、妻や娘の起きている時間に帰宅したときにかぎる1時間だとは知らなかった。ということは週のほとんど家族が寝た後に帰宅する私はまったくできないではないか。

 こうなったらこっそりやるしかないのだが、鍵の隠し場所がわからない。どこだ? この間「サカつく」をやると申告したときは、妻が台所の引き出しから鍵を出したのに、今日はそこにない。ということは、毎日隠し場所を変えているということだ。

 しかし寝ている妻を起こすほど恐いことはこの世にないわけで、自力で探すしかない。
 ああ、もう30分も家中探しているのに見つからない。

★   ★   ★

 氷雨。
 暑い、と騒いでいた夏が懐かしい。

 常磐線を営業。
 松戸のR書店Tさんも、私をすっかり廃人にした「サカつく」を始めたらしい。「昨日、3時間やっちゃいましたよ」。羨ましいかぎり。

★   ★   ★

 第8回目の本屋大賞の一次投票が始まっているのだが、今年ほどノミネート10作の予想がつかない年もない。Tさんもまだこれからいろいろ読んで投票すると話していたが、果たしてどうなるだろうか。大混戦の本屋大賞になるかもしれない。ぜひ書店員の皆様、投票よろしくお願いします。

11月16日(火)

  • 空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
  • 『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』
    角幡 唯介
    集英社
    1,760円(税込)
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  • 新装版 青春を山に賭けて (文春文庫)
  • 『新装版 青春を山に賭けて (文春文庫)』
    植村 直己
    文藝春秋
    693円(税込)
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 高校生活最後の夏休みを控えた学校に久しぶりに顔を出すと、教室の雰囲気が一変していた。今まで休み時間になると野球だサッカーだと校庭に繰り出していた連中が、授業が終わっても机から離れず、そのかわり教科書とは違う参考書のようなものを広げ、勉強しているのだった。

 私の通っていた高校は卒業生の95%以上が大学に進学するいわゆる典型的な進学校だったからそれは当然の風景だったかもしれないが、その頃すでに大学に進学する気の失せていた私は、もうこの学校に居場所がなくなったことを実感した。

 それでも当時の「大学に行かなければ良い人生は送れない」といった雰囲気と自分自身でもハッキリ決断することが怖く、私は親に大学に進学しないと言い出すことが出来ないまま春を迎えた。そして、なし崩し的にいくつかの大学を受験してみたが、教科書すら買っていないような暮らしをしていた私の学力で入れる大学はなく、浪人という宙ぶらりんな生活が始まった。

 予備校に通う電車のなかで私がいつも考えていたのは「これからどうやって生きていくか」ということだった。やりたいことも特になく、ただ高校生活のような怠惰な暮らしにはもう飽き飽きしていた。自分は何をしたいのか。たとえ大学に行かないとしても、ならばどうやって暮らしていけばいいのか。そんなことばかり考えていた。

 その頃貪るように読んだのが、植村直己さんの本だった。『青春を山に賭けて』(文春文庫)なんか立て続けに何度も読んだ。

 私は決して山や冒険にそれほど興味があったわけではない。

 そうではなく五大陸最高峰や様々な冒険に向かい、いかにそこを生き抜くか考えていた植村直己さんと、予備校に向かう電車のなかでこれからどうしようかと悩んでいた自分がシンクロしたのだ。それは私だけではなく、当時、同年代の人間の多くが、植村直己さんの本をそうやって読んでいたと思う。

★   ★   ★

 2010年第8回開高健ノンフィクション賞を受賞した『空白の5マイル チベット、世界最大のツアンポー渓谷に挑む』角幡唯介(集英社)は、これから多くの若者にとってバイブルになるだろう本だ。

 世の中からどんどん未知が消えっていった時代の最後の未知と呼ばれ、多くの探検家を引き寄せたツアンポー渓谷の幻の滝やシャングリ・ラ、そして最後に残された空白の5マイルに向かうのは、早稲田大学探検部出身の著者・角幡唯介である。

 その探検行は久しぶりに出た本格派であり、そして何よりも全編に渡って、ものすごく死の匂いのする探検記だ。しかしそれはまた逆に強烈に生を感じさせる探検でもあり、読み終えた今、私の頭の中に響いているのは、このツアンポー渓谷で命を失ったカヌーイスト武井義隆氏の口癖だった「ちゃんと生きているか?」という言葉であった。「生きているか?」ではなくて、「ちゃんと生きているか?」だ。

 予備校に向かう電車は、後に私を仕事場へ運んだ。
 私は「ちゃんと」生きているだろうか。

11月11日(木)

 珍しく家族が起きているうちに家に帰ると妻が娘に「パパに聞いてみなさいよ」と促したのは、4月のある日のことだった。

 娘は妻のその言葉にふてくされ「どうせダメっていうから」と私の顔を見ずに部屋にこもってしまった。私はてっきり近所の子らが手にしだした携帯電話を欲しがっているのかと思い、「携帯は自分で金を稼ぐようになるまで絶対にダメだぞ」といつも言っていることを口にした。

 すると妻は「そうじゃないのよ」と首を振り、娘の代わりに話し出したのだった。

 それは4年生から入団できる小学校のブラスバンドに入りたいという願いであった。続いて妻が口にした月謝は、学校の部活だからかたいした金額ではなく、ならばやりたいならやらせてやればいいじゃないかと思ったのだが、その活動日が月・水・金と週に3日もあるのが問題だった。

 なぜなら隙間の火曜日は幼稚園から習っているピアノがあり、木曜日は学校のチャレンジスクールがある。そして休みの土日は必ずサッカーがあるもんだから、娘にとって自由な時間はほとんどなくなってしまうのだ。今でさえもっと友だちと遊びたいと剣幕を起こすことが多く、だからとても続かないというのが妻の言い分であった。

 娘はちゃんとやると言い張っているが、毎週ピアノに連れて行くのに苦労している妻はまったく信じておらず、私に聞けと言ったのも半ば私に諦めるよう説得しろということだったらしい。

 私は娘の部屋のドアを開け、ふてくされたように床に寝転がってマンガを読んでいる娘を無理矢理振り向かせた。

「お前、ちゃんとやるのか?」
「だからやるって言ってるじゃん」
「あのな、パパは始めたことを途中でやめるやつが大嫌いなんだ。6年生までやりとおすって約束しろ」
「わかってるよ」

 妻はそのやり取りを聞き「娘には甘いんだから」という顔を私に向けた。

★   ★   ★

 しばらくすると娘はドラムのスティックや鉄琴を学校から持って帰り、楽譜を見ながらタカタカと叩き始めた。音楽のことをほとんど知らない私は、ブラスバンドといえばトランペットのような管楽器を想像していたので、「ラッパは吹かないのか」と尋ねると、「パーカッションの担当になったんだよ」と楽譜から目を離さずに答えた。

「パーカッションって何だよ?」
「パパほんとうに何も知らないんだね。打楽器だよ、打楽器。鉄琴とか木琴とかドラムとか。私の一番の担当はシンバルなんだけど」
「シンバル? あの猿が叩くやつか? だってお前ピアノ何年もやって楽譜も読めるんだろ。それがなんでガーンって叩くだけのシンバルなんかやるんだよ」
「あっ、パパ、シンバルをバカにしたでしょう。シンバル大変なんだよ。重いし。」

 そういって娘はプイと楽譜に顔を戻すと、もう私と口を聞いてくれなかった。

★   ★   ★

 妻が心配した練習をさぼったり辞めると言い出すことはなく、娘は週に3日、授業が終わった後、音楽室で熱心に練習しているようだった。そして担当のシンバルは本当に重いようで、練習のあった日は腕が上がらないと風呂上りに腕を揉んでいた。私が揉んでやろうと手を出すと「パパにはわからないから」と腕を引っ込めるのだが、その腕は日に日に太くなっているように見えた。

 そんなある日、妻からサッカーの予定を聞かれた。
 私は予定を聞かれるのが一番嫌いで「なんだよ?」と仏頂面をして答えると、「浦和駅前でブラスバンドのパレードがあるのよ。さいたま市の小学校が全校出るんだけど、見に行くでしょう?」と有無を言わさぬ口ぶりである土曜日を指し示した。

 その日はたまたま浦和レッズの試合もなく、娘の晴れ舞台を見に行くことに賛成した。

★   ★   ★

 まだ夏の暑さが残る路上には多くの人が詰めかけ、小学校単位で順々に演奏がスタートしていった。
 私の娘の小学校は5番目の出場で、私は通りの一番前で息子とともに娘が出てくるのを待った。

 小学生のブラスバンドといえば、自身が運動会のとき聴いた記憶しかなく、それがどれほどの演奏なのか想像もつかなかったが、各小学校の演奏はかなり本格的で、楽器はもちろん衣装も揃え、先生は真剣な表情で寄り添っているのだった。

 それらの演奏に聞き惚れていると、浦和の学校らしく真っ赤なTシャツを着た娘が路上に現れた。その手に持つシンバルは、娘の顔よりも大きく確かに重そうだった。申し訳ないことを言ったかなと反省していると、息子が「ねーねー、がんばれ!」と大きな声を出した。

 娘はその声に気づくと、ゆらゆらと手を振り、まったく緊張感のない様子で笑った。他の子はそれぞれ緊張した様子ですましているので、娘のその笑顔は明らかに浮いていた。隣に立っていた先生も、娘に何か注意をしたようだったが、娘はまったく我関せずで、私と息子に向かって微笑み続けていた。

 まったく困った奴だと睨みつけていると、笛の音が鳴り、小太鼓の音ともに演奏が始まった。パレードだから演奏とともに楽団は歩き出すわけで、私と息子はその楽団とともに沿道を移動する。その視線の先に娘がいるのだが、娘は相変わらず一人笑顔で、大きく足を上げながら、シンバルを叩いていた。

 シンバルの叩き方にいろんな方法があるのをそのとき知ったのだが、それ以上に娘がこれほど楽しんでいる姿を見たのは初めてのことで、そのことに驚いてしまった。

 そうして気づいたのは、娘が笑っているのは何も緊張感がないのではなく、今みんなと演奏しているのが心底楽しくて仕方ないのだということだった。だから自然と笑みがこぼれ落ち、大きく上げる足もリズムに乗っているだけで、娘は全体で音を受け止め、楽しんでいるのだ。

 あいつ音楽が好きなんだな。
 みんなと演奏するのがよっぽど楽しいんだな。

「ねーね、いいぞ!!」
 駆け足でついてきた息子が叫んだ。

★   ★   ★

 そんな音楽を演奏する楽しさと学校でしか味わえない気持ちがいっぱい詰まった傑作小説が、佐藤多佳子の待望の新作『第二音楽室』(文藝春秋)だ。

 楽器が足りずにピアニカの担当になってしまった小学生グループ、音楽の授業で男女ペアで合唱することになった中学生たち、卒業式でリコーダを演奏することになった4人組、不登校の中学時代を乗り越え高校に入学し必死になってキャラを作りながらバンドを始めた女の子。それぞれまったく違う境遇ながら、彼ら彼女らは音楽が生み出す何かによって人と出会い、人生の扉を開けることになる。

 短編集でありながら、読み始めると『一瞬の風になれ』を読んでいるときのように思わずのめり込んでしまい、ふとした瞬間に涙があふれてくる。素晴らしい小説だ。

 それにしても佐藤多佳子は「4継」やらこの「バンド」のような友人でもなく、恋人でもなく、それでいて大事な関係を描くのが本当にうまい。そして登場人物の誰もに生きる場所を与えるまなざしが素敵なのだ。

 うれしいことに12月には同じテーマで書かれた長編『聖夜』も発売されるらしい。
 それまでに私もギターを買って、娘と一緒に演奏してみようと思う。

11月10日(水)

  • 東京水路をゆく ―艪付きボートから見上げるTOKYO風景
  • 『東京水路をゆく ―艪付きボートから見上げるTOKYO風景』
    石坂善久
    東洋経済新報社
    9,400円(税込)
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  • 庶民に愛された地獄信仰の謎 小野小町は奪衣婆になったのか (講談社+α新書)
  • 『庶民に愛された地獄信仰の謎 小野小町は奪衣婆になったのか (講談社+α新書)』
    中野 純
    講談社
    7,748円(税込)
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  • 完訳ロビンソン・クルーソー (中公文庫)
  • 『完訳ロビンソン・クルーソー (中公文庫)』
    ダニエル デフォー,Defoe,Daniel,義郎, 増田
    中央公論新社
    1,047円(税込)
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 とある書店を訪問すると顔見知りの営業マンが書店員さんと話し込んでいた。

 邪魔になってはいけないと私は彼の商談が終わるのを、そのきれいに編集された棚を眺めて過ごした。しばらくすると彼の話が一段落したようなので、お二人の話に加わり、都内の別の面白い書店さんなどを語り合っていた。

 その話が一区切りついたところで私は新刊のチラシを書店員さんに差し出したのだが、なんとその様子を見て彼は「あっ! 営業するの忘れてた」と慌ててチラシを差し出したのだった。

 私と書店員さんは思わず笑ってしまったが、これが実は笑えない真面目な話なのである。

 なぜなら次に訪問したお店では児童書の営業マンが、書店員さんに向かって次々とチラシを渡しながら商談していた。しかしそれは会話というよりは、まるで音声テープのように一方的に営業の女性が話しているだけであった。

 新刊の説明が終わると季節にあった既刊書の紹介し、次から次へとチラシを渡していく。

 その前にあったチラシを出すことすら忘れていた彼とこの女性の姿をどこかに隠れてモニターしたら、どんな会社の上司だって女性の営業を評価するだろう。

 しかしである。書店さんから注文がもらえたのは、営業するのを忘れていた彼のほうなのだ。平積み分以上の部数が書き込まれ番線印の押された注文書を彼は書店員さんから渡されたが、女性のほうはというと「検討して連絡します」と書店員さんに言われ、結局1冊も注文はいただけなかったのだ。

 なぜか。
 これはおそらく本の善し悪し(売れる売れない)ではないだろう。

 書店という場は絶対切らしてはいけない本以外、まだ自由の効く場であり、だからこそそれぞれの書店の個性というものが宿るのだ。そうしてこの日営業されていた本はどちらかといえばその自由の効く場に置かれるような本だったのだ。それはどういうことを意味するか。どっちを置いてもいいというわけで、あとは書店員んさんの判断次第ということだ。

 ならば営業経験の差か。
 それも違うのである。なぜなら注文書を差し出し忘れた彼はまだ営業になって日が浅く半年ていどなのだ。そして児童書の女性営業マンはその立ち居振る舞いからおそらく10年を超えるベテランだと思われる。

 ではこの差はどこから生まれるのか。
 私はそれは恐らく愛情だと思っている。
 自社本への愛情、その書店さんへの愛情、そういった想いは、どうしたって営業の会話にはあらわれてしまう。

 児童書の営業マンが話していたのは、まるでお店のことも本のことも考えていない、単に説明であった。説明は人の心を動かさない。なぜなら自分の心も動いていないからだ。そして書店員さんの心を動かさないかぎり、注文はもらえない。

 注文書を出し忘れていた彼は、それまでの長い時間、そのお店のフェアや棚について真剣に話していたようだ。そこにはこのお店が好きという気持ちが溢れていたし、またこのお店の良さを吸収したいという熱意でいっぱいだった。

 そして営業のマニュアル本やその手のセミナーでは「雑談95%要件5%」みたいなことがよく書かれているが、実はその雑談が単なる雑談であってはいけないのである。お互いがプラスになるような雑談が求められているのだ。

 本の売り方、作り方のヒントがつまった雑談でなければならない。
 そうしてそういう雑談は、愛情がなければできない。

 そんな大切なことを営業たった半年の若者から、私は改めて教わったのであった。

★   ★   ★

「本の雑誌」12月号が搬入となる。
 めずらしく雨も降らず、秋晴れの空のした、気持よく新品の匂いを嗅ぐ。

 帰り道、ブックファースト新宿店にて本を買う。
 本日の購入本は、

『東京の水路をゆく 艪付きボートから見上げるTOKYO風景』石坂善久(東洋経済新報社)
『庶民に愛された地獄信仰の謎』中野純(講談社+α新書)
『百年前の山を旅する』服部文祥(東京新聞)
『完訳 ロビンソン・クルーソー』ダニエル・デフォー(中公文庫)

 の4冊。感想はまた後ほど。


11月9日(火)

  • 二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)
  • 『二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)』
    西村 賢太
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    482円(税込)
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 カーテン越しの太陽の光の強さによって、私はまた寝坊してしまったことに気づいた。しかし頭がぼうっとし、身体全体がだるく、布団から抜け出すことができない。昨夜も3時まで「サカつく」をやってしまったのだ。

 時計を見ると、遅刻ギリギリの時間だった。遅刻や欠席は一度すると際限がなくなる。壁は思ったよりもずーっと低くて薄いのだ。

 意を決して立ち上がり、居間を覗くと、いつもは私が着替させている息子と娘はとっくに食卓について朝食をとっていた。いくら食べても腹が減る年頃の娘は、お茶碗のご飯を一気にかき込むと私に向かって口を開いた。

「パパ、ゲームやりすぎ!」

 妻も追い打ちをかけるように叱責してきた。

「昨日コタツつけっぱなしだったよ。いい加減にしてよ。もうゲームは一日1時間! お姉ちゃん、パパのDS、あんたの鍵のかかる机にしまって。鍵はママが預かるから。やりたいときは言って。でも1時間よ」

 娘や息子のゲームやテレビも時間制限がないのに......。

 もはや父親としての威厳も何もないのだが、廃人寸前となってしまった私の暮らしを考えると、妻の申し出はありがたいように思えた。私は素直にDSとカセットを渡した。

★   ★   ★

 電車に乗って、久しぶりに本を開こうとしたのが、思わずDSのように縦に開きそうになってしまった。活字がまるでサッカー選手のように動き、しばらく落ち着かなかったのだが、やはりゲームとは違う脳が刺激されるらしくあっという間に物語に没頭しだす。

 読んでいたのは文庫化された『二度はゆけぬ町の地図』西村賢太(角川文庫)である。当然単行本のときに読んでおり再読になるのが、この誰にでも思い当たる喜怒哀楽を、思い切りデフォルメしたかのように描かれる私小説は何度読んでも面白く、特に自身の暴行騒動によって留置所に入れられた際の「春は青いバスに乗って」は傑作中の傑作だと思う。

 この手の警察逮捕ものは、悪ぶる書き手の匂いがプンプンとするものなのだが、西村賢太の筆致はその細部に渡るまでの観察眼が冴え渡り、そこでの暮らしぶりだけでなく精神面まで事細かに描写し、その手の嫌な匂いはまったくしないのだ。

 そうしてやっと自由の身になった彼を待ち受ける、もうひとつの世界。ため息がでるほど素晴らしい小説だ。

 こういう作家が今存在していることがどれほどありがたいことか。帯に「デビュー作『どうで死ぬ身の一踊り』が『本の雑誌』が選ぶ文庫ベストテン2009で1位!」と大きく書かれていることを誇りに思ってしまったが......話の内容は彼女を罵倒し、母親に金を無心し、酒と性にまみれ、まったくどうしようもない暮らしなのである。

★   ★   ★

 営業は埼玉。

 随分長い間お世話になっている書店員さんがまもなく退職するとのことで淋しい気持ちでいっぱいになるが、こちらも随分お世話になっている浦和のK書店のSさんといろんな話をして回復する。

 帯に推薦文も書かれている北与野の書楽さんでは、『早雲の軍配者』富樫倫太郎(中央公論新社)が月に十数冊売れるロングセラーになっているとか。単行本でこうやって売れるのは、ありがたいというか、うれしいというか、勇気がでる。

11月8日(月)

「落ちるのは簡単なのよ」

 ほとんどの先生が自分の仕事をしているフリをしながら、私と女性教師のやり取りに注目しているのがわかった。入学して2ヶ月が過ぎた高校生活。私が1週間ぶりに学校に顔を出すと、すぐ職員室に呼び出されたのだった。

 入学試験の結果を前に、女性教師は私の目を覗き込んでくる。

「杉江くん! あなたはやればできる子なの。ね、ここで落ちて言ったらどんどん落ちて、ヘタらした留年だってありえるのよ。今が肝心よ」

 そう言った先生は3年後、残したほうが学校に悪影響がでるといって、私を卒業させてくれたのだが。

 私が学校に行かなくなったのには特に理由はない。強いて挙げるならば、学校より楽しいことがたくさんあったからだろう。

 それにしても学校の先生が言うことのほとんどが嘘ばっかりだったのに、この先生が言った「落ちるのは簡単なのよ」は本当だった。

 学校に行かなくなって、いや行っても教科書を開くことがなく、当然のように成績は急降下した。入学時はおそらくトップから10番ぐらいだったのに、3年時には518人中、510番になっていた。私の後ろは試験を受けていない奴......という噂だった。

 窓際の席から私はいつも空を見ていた。そして考えていた。

「落ちるの、本当に簡単だったなあ。これから何しようかなあ」

★    ★    ★

「サカつく」がやめられない。
 だから何も手につかない。

 とりあえずニンテンドーDSをカバンに入れるのはやめよう。

11月1日(月)

 廃人になってしまった。

 タバコをやめ、酒も減らし、ランニングをし、体重も7キロ落としたというのに、私はもうダメ人間の奈落の底に落ちてしまった。それもこれも通勤の埼京線で私の隣でニンテンドーDSをやっていた青年がいけないのだ。

 その小さな画面を覗いたとき、そこに懐かしいものが映っていたのだ。小さなサッカー選手がちょこまかと動きまわり、試合が終わるとオフィスのシーンに移動した。それは私が学生時代から狂ったようにやってきた自前のサッカーチームを作り運営するゲーム「サカつく」である。そうか、DSで出ているのか。

 そこで終われば単なる回顧で済んだのが、会社についてついamazonで検索してしまったのだった。

 私が一時期から「サカつく」をやめたのは、そのロードがアホみたいに時間がかかる問題であり、画面が変わるたびに数分の時間がかかり私はテレビの前で「ジー、ジー」と唸るゲーム機の前で呆けたようにしていなければならないのであった。だからゲーム内の時間で一年進めるのに何時間もかかり、それは私の実人生の時間をあっという間に消費していったのでった。

 本も読めなければ、仕事もできない。

 というわけで、私は新作が出ても「サカつく」に近づかなくなって10年ぐらい過ぎ去ったのではなかろうか。それにしてもあんなに余計な時間のかかるゲームをよくみんなやるなとamazonのレビューを覗くとほとんどが5つ星ではないか。あの頃よりハードが進化したということか。

 そして週末、私は気づいたら子どもも連れずにゲーム屋さんにおり、「サカつく」を購入したのであった。そのソフトをニンテンドーDSに挿し込んでから、ほとんど記憶がなく、しかもニンテンドーDSは携帯ゲーム機だから持ち運んでいつでもやれるわけであり、私のカバンの中に息子から奪い取ったニンテンドーDSが入っているのである。

 ああ、もう仕事も手につかない。俺は廃人になるだろう。会社もクビになるかもしれん。

 頭を抱えて、会社のパソコンで「サカつく」後略サイトを覗いていると、隣から声が聞こえてきた。

「ハイ、晶文社です」

 そうか、俺はついに狂ってしまったのだ。
 本の雑誌社を退職させられ、いつの間にか犀のマークの出版社に転職していたのだ。『数の悪魔』と植草甚一を営業するのか......。

「す、すいません。本の雑誌社です、ハイ」

 隣で編集部の宮潤が真っ赤な顔で電話を手にして頭を下げている。
 そういえば、宮潤は以前、晶文社に勤めていたのだ。俺とトレードだったのか......。

 違う!
 俺はまだ本の雑誌社に勤めていて、編集の宮潤が、間違って電話に出ただけのだ。
 だからこそ浜本が「お前はまだ晶文社に帰属意識があるな」と宮潤をにらんでいるのだ。

 俺はまだ大丈夫。
 さあ、「サカつく」をやりに営業に出よう。

10月29日(金)

 朝、バナナを食べていると妻から珍しく声をかけられる。

「あのさ、キョンキョンとYOUが表紙になっている雑誌買ってきてよ」

 それはちょうど昨日創刊された雑誌「GLOW」ではないか。昨日の営業中、店頭で大声を張り上げ販促されている姿を何度も目撃したのだ。

「ああ、ローラアシュレイのバックの付録がついたやつでしょう?」
「そうそう、その付録が欲しいのよ」
「なんだ、昨日、有楽町の三省堂に行ったときに店頭販売していたんだよ。それで担当の人から『買って』って頼まれたんだけど40代の女性誌じゃん。『うちの妻は四捨五入するともう50代なんですよ』って断ったんだ。昨日買っておけば良かったな」
「......。なんで四捨五入すんのよ?」
「えっ? いや書店さんでウケたよ。大笑い。やっぱり営業は笑いのセンスが重要だろ」
「......」

 いつの間にか和やかな朝の食卓が、尖閣諸島のような一触即発の雰囲気に変わっているではないか。やっぱり会話はしないに限る。

『おすすめ文庫王国2010年度版』のゲラの整理や水曜日に行った座談会のテープお越し、あるいは1月、2月の単行本の編集作業をしているとあっという間に夕方になってしまった。

 あわてて神田駅に向かい大竹聡さんと酒。路地を入ったところにある小さな居酒屋で「下町放浪 浅草・上野・神田ぶらりぶらり」の取材。子持ちカレイの煮付けが美味い。

 それにしても今週はまったく家で夕飯が食べられなかった。

10月28日(木)

  • at Home
  • 『at Home』
    本多 孝好
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    2,380円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
 雨が冷たい。
 山田詠美『タイニーストーリーズ』(文藝春秋)や本多孝好『at Home』(角川書店)などどかどかと新刊が出ているのに、あいにくの雨続きで、書店さんは困り顔。10月は半ばまで売り上げが好調だっただけに給料日週のこの天気は痛い。

 銀座へ。
 東銀座の山下書店へ向かおうと地下を歩いていると、4丁目の交差点を越えてもまだ地下道が続いており、ずんずん進んでいくとお店のすぐ手前まで濡れずに歩けた。新発見。店長のFさんに話すと「意外と知られてないんですよ」とのこと。日本中地下道が掘られたら雨の日も営業も楽になる。

 その地下道を戻って、教文館へ。担当のYさんとしばし話し込む。それにしても福家書店が閉店となってしまったので、「銀座」に残っている路面店は、もうこの教文館だけだ。これだけ大きな街なのに信じられない。

 夜、ジュンク堂書店池袋店に行き、「本の雑誌」初の読書会に参加。
 あいにくの雨とテキストが分厚かったせいか参加者が少なく残念だったが、「とことん本を読みたくさせる」目黒さんのトークは絶好調で、打ち上げの酒席も大盛り上がり。

 帰りの電車のかなで、目黒さんが会社に住んでいた頃を思い出し、センチメンタルな気分に浸る。

10月27日(水)

 高野秀行さんから電話があり、執筆場所にしている辺境ドトールへ。
 週末にトルコへ行くというのだが、高野さんにとっては新宿に行くのも海外に行くのも一緒なのだった。

 2月刊の単行本の帯のコピーで悩んでいたのだが、とんでもないものを高野さんが思いつき、それで行くことにする。ひとまず宮田珠己さんの了解を取らねばならないのだが......。

 その後、書店さんを営業し、夜は会社に戻って、今週2本目の「おすすめ文庫王国2010年度版」の座談会立ち会い。

10月26日(火)

 坪内祐三さんの書評に誘われて購入した『海炭市叙景』佐藤泰志(小学館文庫)は、素晴らしい小説だった。これはまるで宝物のような本だ。

 函館をモデルにした海炭市を舞台に、遅れてきた開発によって変わって行く町と18人の何でもない暮らしがスケッチ風に描かれる連作短編集。それは電車のなかから見える灯りのともったマンションを見て、そこでどんな暮らしが営まれているのだろうかと想像するような小説だ。

 私を含めほとんどの人の暮らしに劇的なドラマなど起こらない。日々の暮らしは昨日の延長線上に過ぎて行く。しかしそれは何もないということではなく、小さな起伏は誰にだってあるだろう。『海炭市叙景』では、そんな小さな起伏がきっちり描かれており、一遍一遍心の底から感動が生まれてくるのであった。

 営業、そして夜は、昨夜のテープお越し。忙しい。

10月25日(月)

 秋葉原の有隣堂を訪問すると、担当のIさんからお礼を言われる。何のことかと思ったら、出版営業が主人公の小説『背表紙が歌う』大崎梢(東京創元社)が発売になったときに、「出版営業」フェアを開催するとかで、POPを依頼されたのであった。

 そんな地味なフェアをして大丈夫なんだろうかと心配していたのだが、なんと売れ行きは好調だったそうで、『「本の雑誌」炎の営業日誌』(無明舎出版)も4冊売れたとか。秋葉原......謎だ。

 夜、『おすすめ文庫王国2010年度版』の対談収録。

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